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復讐

※暴力的なシーン多めです。 苦手な方はご注意ください。


 無断欠勤をした翌日、海里は会社を辞めた。 復讐を果たす為に。


(僕はずっと想像し続けていた……。 あいつらを殺す、想像を)


 コンビ二のATMで、今まで貯めた金をすべて引き下ろす海里。 無趣味であまり金を使わない海里には、それなりに貯金があった。

 

(でも、この力はどうだ? 僕はこんな想像をしたことがない。 想像を超えた力だ)


 もちろん、住んでいるアパートからも退去した。 賃貸の退去費用はそこそこかかったが、今の海里にとってたいしたことではない。

 

(この、想像を超えた力で、あいつらを殺す……! 思考の内に留めていた殺人を、現実のものにする時が来たんだ……!)


 海里はこれから、人を殺しに行くのだから。

 

 

 

 海里が最初に殺そうと思った人物は、つい先日辞めたS社に勤めている平松だった。

 

 最初、海里は平松を殺すことを躊躇っていた。 あまりにもわかりやすすぎたからだ。 平松が殺されたとして、その少し前に会社を辞めた人物がいるとなると、いかにも怪しすぎる。 

 

 更に言えば、海里はS社の社員から決して良いイメージを持たれていない。 平松によく文句を言われていたのもみんな見ているだろう。 平松に恨みを持っている人物の候補として、海里以上の人物はいない。

 

 それでも海里が平松を最初に殺しに行ったのには、いくつか理由がある。

 

 まず初めに、近いから。 海里が復讐を果たす為に使われる交通費にも限りがある。 後でまたここへ戻ってきてとなると、金がかかるというわけだ。

 

 次に、海里は自分が疑われる可能性をゼロに出来なくとも、周囲にありえないと思わせる手段ならあると考えたからだ。

 これは、偶然にもこの時、不可解な殺人事件が連続して起こっていたことに関係がある。

 

 犯人の手がかりは不明。 殺害動機も不明。 殺害方法も不明。

 

 後に、東日本連続猟奇殺人事件と呼ばれることになるこの事件が、海里の殺人をうまくカモフラージュしてくれると海里は考えたのだ。

 何せ、海里には常人の想像を超えた力がある。 この力を使って殺せば、警察たちの目を惑わすことくらい造作もないだろう。

 

 そして最後に。 海里が今、一番殺したくてしょうがないのが、平松だったからだ。 単純な理由ではあるが、平松が一番、記憶に新しい憎い相手であるのは間違いない。

 強い感情を基盤とした理由を前に、他のあらゆる理由は弱かった。

 

 

 

「おや、君は……」


 深夜。 海里はあらかじめ、平松がどこで一人になるのか調べていた。 

 そして、一番人通りが少なく、周囲に気づかれない公園で、平松を殺すことにした。

 

「薊君、だったかな? こんなところで、何して――」


 海里はイメージする。 目の前の平松を、刺し貫く氷の槍を。

 

「……あ?」


 次の瞬間。 海里の掌から射出された氷の塊は、平松の体の中心に突き刺さった。

 平松は当然、何が起きているのか理解できていないまま、

 

「うぐッ……!?」


 腹部から広がる激痛にただただ苦しんでいた。


「なあ、僕を散々ゴミみたいに扱ってきて、楽しかったか?」


 今にも意識を失いそうな平松を見下ろしながら、海里は続ける。

 

「楽しかっただろうなぁ。 でもさ、お前。 今から僕に殺されるんだよ。 お前がずっとゴミ扱いしてきたこの僕に!」


 海里は氷の礫を形成し、倒れ込んだ平松の脚に向かってそれを放つ。

 

「あがぁあああああ!?」

「これって凄いことだよなぁ。 下克上だよ、下克上。 どんなにお前が僕をゴミ扱いしてきたって、そのゴミに殺されちゃえば、終わりなんだもんなぁ」


 海里は倒れ込む平松に近づき、

 

「ゴミに殺されるだなんて、思ってもいなかっただろ?」


 氷の礫が直撃し、血まみれになった平松の脚を踏みつけた。

 

「ぎッ……!!」

「なあ、どんな気分だぁ!?」


 今までの恨みを晴らすように、海里は踏みつける力を強める。 そして、

 

「ずっとゴミ扱いしてきた奴に殺される気分ってのはさぁ!!」


 海里は内に溜め込んでいた感情を爆発させた。


 それからの海里の記憶は曖昧だった。

 

 覚えているのは、とにかく平松に攻撃を繰り返していたということ。

 気づけば目の前には、変わり果てた平松の姿があった。

 平松は死んでいた。 つまり、ここから導き出される疑いようのない事実は。


 海里が初めて、人を殺したということだった。

 

 


「どうだい? その力、気に入ってくれたかな」

「………………!?」


 平松を殺し、茫然と立ち尽くしていた海里。 そんな海里の耳に、聞き覚えのある声が届く。

 

「お前は……!」


 忘れるわけがなかった。 海里が声のする方を振り向くとそこには、

 

「やあ。 久しぶり……でもないか」


 銀髪紫眼の青年が立っていた。 まるで、合成写真のように不自然なその風貌。 海里に力を与えた張本人でもある非現実的な存在。


「……まさか、力を返せとでも言いに来たのか?」

「返せと言ったら返すのか、君は」

「…………………」


 返すわけがないと、海里は思った。 まだ、これだけじゃ足りない。 復讐したい相手はたくさんいる。

 何より、今回が初めての人殺しだ。 初めてということもあって、力の加減ができていなかった。 あっさりと殺してしまい、思っていたより復讐を果たしたという達成感は味わえていない。

 

「なあに、そう警戒しなくてもいい。 安心してくれ、俺は君に与えた力を取り戻しに来たんじゃない、むしろ逆だ」

「逆……?」

「まず、一応簡単に説明しておくけど、君がそいつを殺すのに使ったその力は魔術と呼ばれるものなんだ。 君の場合、どうやら氷属性魔術が使えるようだけど……」


 魔術。 そんな力が現実に存在するのかと以前の海里ならば即座に否定しただろうが、実際に力を使っている今、否定することはできない。


「君にはまだ、使える力があるんだ。 こいつらを操る力がね」

「こいつら……?」

「魔物だよ。 ほら、そこにいるじゃないか」


 青年の目線の先を追い、海里が目を凝らしてみると、


「…………………………………………!?」


 そこには、夜の闇に紛れた黒色の狼――のような生物が数匹いた。

 中には首が複数ある個体も存在し、この生物たちが海里の知る生物とは異なるモノであることを証明していた。

 

「君が命令をすれば、この魔物たちはその命令通りに動く。 こいつらは君にとって都合の良い駒ってわけさ」


 普通に考えればありえない。 ありえないことだらけだ。

 この青年の存在はもちろん、この青年の話す内容も。 目の前にいる魔物と呼ばれる生物も。 全てが全て、ありえない。

 

 けれど海里は、だからこそ、疑うことはなかった。 この青年が言うならば、それはきっと嘘ではない。 嘘のような話さえ、本当になってしまうのだと。

 

「……もっと、教えてくれ」

「うん?」


 海里は望む。 己の心を満たす為に。

 

「魔術と、魔物を操る力について、教えてくれ……!」


 手に入れた力で他者を喰らい、自らの糧とする為に。

 

「……いいだろう。 教えてやる――」


 それから海里は、銀髪紫眼の青年からいくつかのことを教わった。

 

 魔術の使用回数には制限があるということ。

 魔物には食事も睡眠も必要ないということ。

 魔術も魔物も、人に目撃されるようなことは避けた方が良いということ。

 もし、目撃されたら。 状況によっては目撃者を始末すべきだということ。

 他にも色々と教えてもらい、海里は自らが手に入れた力についてある程度は知ることが出来た。

 

 そして、説明を一通り終えた銀髪紫眼の青年は、またどこかへ去っていった。

 

 

 

「…………ん? お前……」

 

 海里が平松を殺してから一週間後。

 

「薊じゃねーか! どうしてここにお前がいるんだよ? 出張か何かか?」


 次に海里が殺そうと思ったのは、花田だった。 中高生時代、海里を散々イジメていた、海里にとって許し難い人物。

 海里は当然、花田が今、どこで働いていてどんな生活をしているのか事前に調査している。 いつ、人目の付かない場所を通るのかも把握済みだった。

 

(呑気に会話している場合か? お前、これから死ぬんだよ)


 そして今回、海里は殺人に魔物を使おうと計画していた。 せっかく魔物を操る力があるのだから、試してみたいと思ったからだ。

 

「……こいつの脚を引き裂け」

「あ? 何言ってんだ、お前――」


 海里は魔物に命令する。 まさか、すぐ後ろに魔物が待機していたことなど知らない花田は、

 

「――っあ゛あ゛あ゛あがああああああああッ!?」


 何も理解できないまま、背後から襲いかかる魔物に脚を引き裂かれた。

 

 海里を散々痛めつけた花田が、脚を引き裂かれ、苦痛の叫びを上げている。 その光景に、海里は歓喜する。

 

(……ああ、最高だよ、これ)


 一方、花田は魔物の姿など見えていないようで、この状況が理解できていなかった。

 

「っがあああ……!! あっ、薊……! 何が、起きて……!?」

「お前は僕に殺されるんだよ、花田」


 海里は冷静だった。 海里にとってこれは、二回目の殺人。 一回目と同じように終わらせはしない。


「なっ、何……言ってんだ…………」

「とぼけるなよ金魚のウンコ野郎。 僕にお前を殺す理由なんて、ありすぎて困るくらいにあるだろ?」

「お、おい……。 薊、やめろよ? マジでただじゃ済まねえぞ、おい……」

「そんなセリフが言える立場かぁ?」

 

 海里は花田の右腕に向かって掌を向ける。 解き放つ氷の礫。

 

「だぁあああ゛あ゛あ゛ああああっッッ!!」

 

 氷の礫が直撃し、赤く染まる花田の右腕。

 

「痛いか?」

「も、もう……やめ……」


 次は左腕に向かって、高速射出。

 

「う゛ッ――――がああああああああああ!!」


 花田の両腕が流れ出る血液で真っ赤になる。 もう、花田は抵抗不能だ。

 

「ああ、楽しいなぁ」

「ゆ……許してくれ……。 し、死にたくねえよ……」

「許してやるよ」

「ほ、本当か……!?」

「嘘に決まってるだろバァーーーーカ!」

 

 と言って、海里は冷気を纏った掌を、花田の顔に押し付ける。

 

「ん゛んぐ――――ッ!?」


 そして、花田の顔に押し付けた掌を、勢い良く離す。

 

「あ゛あ゛があああああぁぁっッ!!」


 花田の顔面の皮膚は剥がれ、ダラダラと血を吹き出す。

 

「良い顔になったじゃんか!」

「かっ……顔がっ……焼ける……!」

「痛いか? はは……」


 思わず笑ってしまう海里。 楽しいから笑うのではない。


「……僕が受け続けてきた痛みは、そんなもんじゃないぞ花田アァァァァァァァ!!」

 

 蹴る。 蹴る。 踏みつける。 そしてしゃがみ、殴る。 殴る。 殴る。 殴る……!

 今まで溜め続けた怒り、憎しみ、あらゆる負の感情を吐き出すように、海里は花田に暴力を振るう。


「ああ! 最ッッッッ高だよ!! 花田ァ……。 お前をこんな風にできる日が来るだなんてよおおおおおお!!」

 

 海里はそこまで筋力のある方ではない。 海里自身、それを知っているからか、本気で暴力を振るっても花田は死なないだろうと考えていた。

 

(……まだだ。 この程度で死んだらぶっ殺すぞ、花田……!)


 もっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっと痛みつけてやらないと。

 

「なぁ、花田。 僕はさ、中学の時からずぅーーーーーーーっっッッッっとお前のこと殺してやりたいと思い続けてきたんだけど、そのことについてどう思うよ?」

「…………た……助け……てくれ……」

「……質問に答えろよぉぉおおおお!!」


 花田の頭を、サッカーボールを蹴るかのように思いっきり蹴る海里。

 

「おーい、まだ寝るなよ? お前の頭でサッカーしちゃうぞ。 花田、サッカー好きだもんなぁ」


 海里は花田の顔をグリグリと踏みつける。 「こいつ、誰だ?」と海里が思うくらいに、花田の顔は素晴らしいことになっていた。

 

「よくイジメや虐待を受けた子供はさ、イジメられる辛さとかを知ってるから、他人に優しくなれるって言うよな」


 海里の暴力は終わらない。

 

「……んなわけねーだろ! そんなことを言う奴らは頭の中お花畑な馬鹿共だ! 僕が受けた苦痛は僕だけのものだ……。 僕以外の人間にとって、他人事でしかない!」


 花田勇介を殺したとしても、終わることはないだろう。

 

「それなのに、何で僕が他人に優しくする必要がある!? 僕が受けてきた苦痛なんてまったく知らずに日々を過ごしてきた奴らにさぁ! 優しくされたかったら、まず僕が受けてきた苦痛を受けてみろよ。 なぁ、花田!!」

「ぐ……」

「お~い、死んじゃった? まだ死ぬなよ? お前にはせめて、僕が受けた以上の苦痛を返してやらなきゃ気がすまないんだよ。 同じ状況が再現できるわけじゃないからさ、僕の手でたっっっぷりと苦しませてやるよ」


 花田はまだ生きていたが、大量の出血によりその顔は死人のように青ざめていた。 もう、会話ができる状態ではないだろう。

 

「おい花田。 最期に一言なんかないの?」


 すっかり反応の悪くなった花田に飽きてきた海里は、そろそろトドメを刺そうと考える。


 海里は宙に、無数の氷矢を形成する。


「何か言えよ。 つまんないな。 ……まあ、いいや」


 それらは、花田に向かって降り注がれる。

 

「もう飽きたわ。 お前は所詮金魚のウンコだし。 高山の方が本命だからな」


 全身に氷の矢が突き刺さり、痛々しい姿になった花田。

 

(……殺した)


 平松を殺した時も、達成感がなかったわけではない。 けれど、

 

「はははははは……。 ははははははははははははは!!」

 

 殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した――――!!

 

 海里の全身を突き抜ける爽快感。 復讐は、こんなにも気持ちが良い。  海里は、復讐は何も生み出さないだなんて綺麗事はやはり嘘なんだなと実感する。 

 

(だって、僕は今、こんなにも満たされている……!) 

 

 だが、これで満足してはいけない。 高山を含め、まだ殺すべき相手はたくさんいる。

 海里は次の獲物の待つ場所へと、向かって行った。

 


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