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ふがし

 

 無事昼食を確保し、教室へと戻った俺。

 食物を欲している胃の為にも、はやく昼食を食わねば。

 

「あっ、人見君……」

 

 自分の席に向かうと、何やら困った様子の五木が待っていた。

 というか、何か怯えている……?

 

「遅かったな、人見」

 

……うん。 こいつが原因か。

 

 お世辞にも見た目が優しそうな感じではない。

 チャラそうだし、髪染めてるし、眼つき鋭いし、いかにもな外見だ。

 

 そうだった。 今日は勇人と昼食を一緒に食べようと約束していたんだった。

 

「……五木、今日は勇人もいるけど、いいかな?」

「もっ、もちろんですよ!」

 

 緊張していて若干挙動不審な五木。 

 無理もない。 俺が五木の立場でもこうなるだろう。

 

 いつも二人で食べているところに、まともに話したこともない人がいたら落ち着くわけがない。

 五木には悪いことをしているな……。 できるだけ五木にとって居心地の良い環境にしてやらないと。

 

「なんか悪いな。 邪魔しちゃってるみたいでよ」

「そっ、そんなことないですよ! ただ、鎌桐君と話したこと、今までなかったし……。 わたし、人見知りだし……。 ちょっと緊張してるだけです!」

「そっか。 てっきり五木さんに嫌われてるのかと思ったぜ」

 

 五木は勇人みたいなタイプの人間が苦手で、もしかすると嫌っていてもおかしくはない。 と、思ったけれど。

 

 五木と知り合ってから二ヶ月ちょっとでわかったことがある。 五木は、他人に対して嫌いという感情を抱かないようにしているのではないだろうか。

 

 今、勇人に対してもだ。 五木は本当は俺と二人で昼休みを過ごしたいと思っているはず。 その方が精神的に楽だろうから。

 それでも、勇人に去って欲しいとは思っていないように見える。 勇人に対し、緊張はしていても、悪い感情を向けてはいないと感じる。

 

 五木は、五木が苦手そうな勇人相手にも、あくまで好意的に接しようとしているのだ。 


「さて……」

 

 さっそくチキンカツサンドをいただくことにする。

 

 カツの衣にはソースが染みこんでおり、サクサク感は無さそうだ。

 そんなカツを挟むパンにも、もちろんソースが染みこんでしまっているので、ベチャベチャした食感が嫌いな人には受け付けないチキンカツサンドだと言える。

 

 まずは一口。

 

「…………んむ」 

 

 噛みごたえのあるチキンカツだ。 噛めば噛むほど、口の中で衣に染みこんだソースが肉の部分とうまく混ざり合い、食欲を刺激する絶妙な風味が作り上げられる。

 そして、刺激された食欲を満たしてやる為に欲しい炭水化物。 それも、同時に摂取できるのがサンドイッチの強みだ。 

 

 肉を喰い、パンを食べ……と、わざわざ忙しく食事することはない。 パンも肉も、野菜も同時に一口で食べられる、面倒くさがりの為の食べ物だ。

 きっとサンドイッチを発明した人は、食事をしながら遊びたかったとか、そんな理由で作ったに違いない。

 

 ネットで調べれば一発でわかることだけど、俺はきっと、そんな理由だろうと決めつけて、このままムシャムシャとチキンカツサンドを完食しよう。

 

「……人見、お前って結構食べる方だよな」

 

「え」

 

 まさか、先ほど俺が桃子に対して言った言葉を、俺が勇人に言われてしまうとは。

 

「運動部とかならわかるけどよ、人見は運動してないだろ」

「俺にとって学校生活は運動みたいなものだからな」

「なんだそりゃ。 その学校生活だって寝てばっかじゃねーか」

「む……。 中々痛いところを突いてくるな……」

 

 俺が勇人に言い負かされてる間にも、五木は自分で作ったサンドイッチを咀嚼中。

 まるで小動物みたいだなぁと思う。 外敵に襲われる前に、食事を済ませなきゃと急いでるようにも見える。

 

「前から気になってたんだけどさ、五木ってサンドイッチが好きなのか? 昼、いつもサンドイッチだし」

 

 純粋な疑問を投げかける。 

 食べたいものを自分で作る主義とは聞いていたが、食べたいものがいつもサンドイッチだなんてよっぽどのサンドイッチ好きだと思う。

 

「……うーん、すっごい好きなのかって言われると、違う気もしますね。 毎日食べても飽きないくらいには好きですけど……」 

「やっぱり、一度にパンもおかずも食べれて楽だからとか?」

「食べるのに何かと便利ってのはあるかもです」

 

 食べるのが楽ってのはもちろん、箸やフォーク、スプーンいらずで、洗い物がまったく出ないという利点もある。

 

「じゃあさ、五木の大好物って何なの?」

「ちなみに俺の大好物は餃子だぜ」

「あっ、そう……」

 

 初めて知った。 まあ、勇人。 お前に質問してないんだけどな。

 

「うーん、大好物ですか……」

 

 何やら考え込んでいる五木。 大好物ってのも答えやすそうで答えにくい質問なのかもしれない。

 今まで食べてきた食べ物で、気に入ったものなんてたくさんあるだろうし。

 さらっと餃子が大好物だと答えた鎌桐だって、餃子と同等かそれ以上に好む食べ物がまったくないのかと言われたら、首を縦には振れないだろう。

 

 そんな勇人は、コンビニで買ったのであろう塩ダレ牛めし弁当を美味しそうに食べていた。 ……今度俺も買おう。

 

「……笑わないでくださいね?」

「へ? ……ああ、笑わないよ」

 

 大好物を答えて笑うなんてことがあるのだろうか。

 

「で、大好物は?」

「………………がし」

 

 え? なんだって?

 

「……よく聞き取れなかったんだけど、もう一度言ってくれないか?」

「…………ふがし……です」

 

 ふがし? 休載の多い漫画家の親戚か何か?

 

「……ぷっ」

 

 勇人が吹き出した。

 

「あっ! 笑わないでって言ったのに……!」

「……スマンスマン。 だってよ、数ある食べ物の中から選ばれた大好物が麩菓子って……。 くくく!」

「うう……。 しょうがないじゃないですか、好きなんですからっ! きっと、麩菓子が好きな女子だって、探せばわたし以外にだっているはずです!」

 

 頬を染めたり膨らませたりで忙しそうな五木。 ところで……。

 

「……麩菓子ってなんだ?」

「えっ!? 人見君、麩菓子を知らないんですか!」

「しょうがないな、俺が教えてやるよ」

 

 勇人が軽く咳払いをし、俺の方を向く。

 

「そもそも、麩ってのは何かわかるか?」

「……知らん」

「じゃあそこからだな。 麩ってのは、グルテンを主原料とした加工食品のことで、まあ、パンみたいなもんか? うん、パンが一番イメージしやすいと思うぜ」

 

 グルテンってなんだっけと思ったけど、まあ、パンみたいなものならイメージは湧く。

 

「で、麩菓子ってのは、棒状の麩に黒く色づけした砂糖やら飴をコーティングした駄菓子のことな」

「へー……。 なんだか結構うまそうな食べ物だな。 今度買ってみるか」

 

 俺は甘いものが好きだ。 甘いお菓子なら、きっと好きになれるだろう。

 

「是非買ってみてください! きっと気に入りますよ。 あの癖になる食感……。 たまらないです……!」

 

 うっとりと蕩けた顔を見せる五木。 五木にこんな顔をさせる麩菓子とやら。 恐るべし。

 

「……おっと、普通に昼休みを過ごすところだったぜ。 人見、二限目の休み時間に話した続きだ」

「ああ、そうだった。 すっかり忘れてたよ」

 

 勇人が昼を一緒にするそもそもの理由を忘れかけていた。

 

「五木は連続殺人事件の犯人がネット上で特定されたって話、知ってるか?」

 

 勇人が話しだす前に、俺が五木に問う。

 

「へ? 犯人が特定……ですか? 知らないです」

「お、ちょうどいいじゃん。 五木さんが興味あるかわかんねーけど、今から事件の犯人が特定されたことについて人見に話すわけよ」

「五木はこういう話、結構興味あるんじゃないか? 化け物目撃騒動にも興味津々だったし」

「興味はありますね……。 犯人がどんな人で、どうして人の命を奪ったんだろうって、つい考えたり……。 化け物の話とはまた違った方向での興味ですけどね」

「その辺りの疑問に対する答えも、ある程度はわかるかもな」

 

 五木はそういう興味の持ち方をするのか。 どのような経緯で犯人がネット上において特定されたのかといった一連の騒動ではなく、犯人自身について知りたいわけか。


……もしかすると、五木は犯人相手でさえも、ただの殺人犯として悪感情を向けているのではないのかもしれない。

 自分たちと同じ人間として、犯人が殺人に至るまでの感情の変化。 それを知りたいと、犯人に近い目線で考えているのではないだろうか。

 

 犯人が殺人犯であることばかりを見ている人たちとは違う。 

 

 つい、多くの人は忘れてしまうのだ。 

 殺人を犯すという取り返しのつかない一歩を踏み出す以前の犯人は、自分たちと同じ殺人を犯していない人間だということを。

 

 そして自分たちも、いくつかの偶然が重なることで、取り返しのつかない一歩を踏み出す可能性のある人間であるということを。 

 これはあくまで俺の想像だが、だいたい同じようなことを五木は考えていると、根拠もなく思ってしまう。

 

「じゃあ、さっそく話そうじゃないか」

 

 勇人が塩ダレ牛めし弁当を完食し、お茶を飲み終える。 昼飯を終え、話す準備万全といったところだ。

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