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巷のOLさんの間では食べ物のシェアが大流行!★

 

「……腹が、減った……」

 

 二時間目の休み時間から腹が減っていることを、俺はすっかり忘れていた。

 

 もうそろそろ四限目も終わる頃。 昼飯タイムまであと少しだ。

 

「今日はCチームが片付けなー。 忘れるなよー」

 

 体育教師の大きく野太い声が体育館内に響く。 今日の片付けはCチームか。 昼休み前に片付けとは大変だ。


……って、あれ? Cチーム? もしかしなくても、俺のチームじゃないか?


「人見、片付け逃げたりすんなよ」

「あ、ああ。 もちろん」

 

 どうしよう。 すごく逃げたい。

 でもまあ、得点板を片付けたりするくらいだし、そこまでやることはないからすぐに終わるはずだ。

 

 そんなこんなで四限目終了のチャイムが鳴る。  

 

「さっさと片付けて飯にしようぜ」

「ああ」

 

 得点板とボールと汗臭いゼッケンを倉庫に片付ける。

 次、使用する人たちの為に最低限の整理整頓も忘れずに。

 

「よし、片付け終わりかな。 おつかれー」

 

 谷沢くんその他四名と別れる。

 

「よし! 購買部へ急ごう」

「ん? 俺はもう昼食買ってあるんだわ。 教室で待ってるぜ」

「あ、そうなのか。 ビニコン飯か?」

「ああ。 ニビコン飯だ。 ちょうど通学路にコビニンがあるからな」

 

 勇人は俺のアホ会話に付き合ってくれるいいやつだ。

 

「じゃあ、先行っててくれ。 五木の隣の席なら使えるはずだ」

「おう」

 

 勇人と一時的に別れ、購買部へ。

 片付けは数分で終わったので、まだまだ間に合うはず。

 

「おや……?」

 

 購買部へ辿り着く。 

 たくさんの人が群がっている中、見覚えのある小馬尻尾ポニーテールが。

 

「珍しいな、購買部へ買いに来るなんて」

「……啓人」

 

 まだ制服に着替えておらず、体操着の上にジャージを着た姿の桃子。 ジャージを着ているのは、透けるからか。 何がとは言わないが。

 

「今日はお弁当作るの面倒くさかったから。 たまには昼食を買おうと思って」

「桃子にも面倒くさくなる時があるんだな」

「こう見えても、わたしは結構面倒くさがりだよ」

「そうは思わないけどな……」

 

 桃子が本当に面倒くさがりであったとしても、普段そんな風には見えないのだから、説得力はまるでない。

 

 これは、ある意味悲しいことなのかもしれない。

 自分の本当の姿をうまく隠せる力に長けているということは。

 他者から本当の自分を理解してもらう機会を、自分自身で奪っているとも言えるからだ。

 桃子の高すぎる能力が招く、不幸の一つである。

 

「……啓人はいつも、購買で何を買っているの?」

「そうだな……。 いつも買ってるのはカレーパンとあんドーナツかな。 後はテキトーにおにぎりとか。 しょっぱいのも甘いのも欲しいんだよね」

「カレーパンとあんドーナツ……。 それ、いいかも。 採用」

 

 採用されてしまった。 まあ、ここの購買のカレーパンとあんドーナツはマジでうまい。

 桃子は俺のオススメを採用したことを後悔はしないだろうと、自信を持って言える。

 

 どちらも外はカリッと、中はふんわり。 何個だって食べられそうな、病み付きになる食感だ。

 

「さて、俺はいつもと違うものを買おうかな」

 

 気に入った食べ物を食べ続けるのもいいけど、新しい可能性に挑戦していく姿勢も大事だ。 

 

「わたしのオススメはこれ」

「ん? チキンカツサンドか」

「うん」

 

 二個で一セット。 確かにこれは美味そうだ。 ちょっぴり他の商品より値段は高めだが。 それはともかく……。

 

「……桃子。 これがオススメって、食べたことあるの?」

「ないよ」

 

 ないのかい。

 

「なんでオススメしたんだ……」

「……食べたかったから」

 

 食べたいものを人にオススメするのか……。

 俺から少し分けてもらうつもりだったのだろうか。

 普通に自分で買えばいいのに。

 

「食いしん坊だな……。 これを買っても桃子にあげたりはしないぞ」

 

 俺のものは俺のもの。 お前のものはもちろんお前のもの。 それが普通。

 

「食いしん坊違う。 巷の女子の間ではシェアが流行っているらしいから、わたしもシェアしてみたかっただけ」

「……食べたことのあるカレーパンとあんドーナツを分けてもらってもな」

 

 分けてもらうくらいだったら、自分で買う。

 

「チキンカツサンドが美味しくなかった時の保険だと思えば、万事解決」

 

 なんて後ろ向きな前提。 というか、サンドイッチはともかく、カレーパンやあんドーナツをシェアするって中々面倒くさそうだな。 複数個あるわけじゃないし。 

 

「ともかく、シェアはしないからな」

「……わかった」

 

 素直に諦めた桃子の手に、チキンカツサンド。 最初からそうすれば良かったのに。

 

「桃子は結構食べる方だよな」

「そう?」

「五木なんかと比べると、食べる方だと思うぞ。 あいつ、お昼はサンドイッチ二個だけだし」

「わたしもそれだけで足りないことはないよ。 ただ、それだけで済ます必要性を感じないだけ。 わたしは、食べたいと思ったら我慢せず食べるの」

 

 食べたいだけ食べても太らないから言えるセリフだ。 今、桃子は多くの食べると太りやすい人たちを敵に回した。

 

「まあ、腹を壊さん程度にな」

「大丈夫。 体調管理は得意だから」

 

 そういえば前にも同じようなことを言っていた。 あの時は、腹八分目に食事をセーブしていたんだっけ。

 あのように、しっかり自制もできるのだから、こんな時好きなだけ食べても体調を崩したりしないんだろうか。

 

「なら安心だ。 桃子が体調を崩したら、俺が看病しなきゃいけないし」

 

 と言いながら、俺はチキンカツサンドとメロンパンとツナマヨおにぎり二個を購入し、購買部を去ろうとする。 

 

「……それいいかも」

 

 そんな俺の背後から、ボソッと桃子の独り言。

 

「……わざとの場合、看病しないからな」

「酷い……」

 

 酷くない。 まったく、桃子は変な行動力の高さもあるから、油断ならない。

 看病されたくて、わざと体調を崩すことくらい本当にしそうだ。

 

 そんなくだらない心配をしながら、今度こそ購買部を去り、俺は教室へと戻った。

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