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蕭条八重は考える


「……何だその嫌そうな顔は」

 

 終わりかと思っていた話がまだ続くとわかり、もう嫌だなという気持ちがつい顔に出てしまう。

 

「いえ……。 ただ、後どれくらい話すのかなと思って」

「何、すぐに終わる。 あくまで補足説明だからな。 お前がこれから魔術を習得していく上で、知っておいた方がいいことだ」

 

 わたしが魔術を習得するだなんて実感はまるでなかったが、知っておいた方がいいことならば聞かないわけにはいかない。

 

「魔術は上級になればなるほど容量を食うとさっき話したが、これはつまり、色んな魔術に手を出すのは良くないということに繋がる。 もちろん、使える魔術の種類は多い方が戦略の幅が広がって便利なわけだが、欲張って色んな魔術を極めようとすると、容量が足りずにどの魔術も中級止まりの中途半端な魔術師の出来上がりとなってしまうんだ」

 

 あれこれ片っ端から習い事に手を出すより、一つの習い事に専念した方がいいようなものだろうか。

 

「魔術はな、やはり上級まで到達しないと、強力とはいえない。 中級でも戦えないことはないが、仮想敵を同じ魔術師に設定した場合、中級魔術は上級魔術を前に無力だ。 色んな種類の中級魔術が使えるようになるより、一つの上級魔術が使えるようになった方が強い」

 

 ここまで言われれば、下手に欲張って色んな魔術に手を出そうとは思わなくなる。 

 要は、セオリー通りに魔術を習得しなさいということだ。

 

「どうだ? 宣言通り、すぐ終わっただろう? 一度習得した術式を都合良く忘れて残り容量を増やすなんてことはできない。 そのことを絶対に忘れるな。 以上だ」


 こうしてようやく、鬼山さんの話は終わった。

 

 まさか翌日、ちゃんと話を覚えているか確認する為のテストをやらされるとは、この時思いもしなかったのを覚えている。




* * *




 現在。

 

「はぁ……」

 

 嫌なことを思い出してしまったなと溜息をつきながら、部屋のドアを開ける。


 六畳間の和室には、今時珍しいブラウン管のテレビと、客室用電話機がある。

 エアコンも一応あるが、使うような気温ではないし、なにより汚くて使う気にはならない。

 

 全体的に古臭い部屋。 一応掃除はしてあるみたいだけど、部屋に貼ってあるカレンダーが数年前なのはどうかと思う。

 

「………………」

 

 とりあえず、布団を敷いて寝る準備をしよう。 色々考えるのは明日からだ。 

 こんな部屋でも寝るだけなら充分だ。 たくましくなったな、わたし。

 

「ふぅ……」

 

 明日、朝起きてすぐに活動できるよう支度をし、寝る準備を終え、布団へ。

 

「…………ん」

 

 あんなに疲れて眠気があったのに、いざ寝ようとするとなんか落ち着かない。

 気を紛らわせる為にも、テレビを点けることにする。

 

「うわぁ……」

 

 映り悪すぎ。 ブラウン管テレビは接触不良で映りが悪くなると聞いたことはあるけど、これはひどすぎる。

 

 テレビを叩けば一時的に接触不良が改善され、映りが良くなるらしいけど、流石にホテルのテレビをぶっ叩くわけにはいかない。 

 

 しょうがないから、この映りの悪いテレビを観るしかない。

 

「あっ……」

 

 音声はちゃんと聞こえるので、どんなテレビ番組が今やっているのかわかる。

 

 これは、東日本連続猟奇殺人事件についてのニュースだ。 

 被害者の内二人は同じ高校出身で、同じ学年且つ同じクラスだったということを報じている。 もう知っている情報だ。

 

「………………」  

 

 色々考えるのは明日からだと思っていても、つい、考えてしまうことがある。

 鬼山さんは、魔術や魔物のことを中心に考えているけれど、わたしは魔術や魔物のこと抜きで、単純にどうして犯人は人を殺しているのかが気になっていた。

 

 わたしは、誰かを殺したいと思ったことはない。

 そもそもわたしは、そんなに多くの人と関わっていないし、三年前までの記憶がない。 過去がなく、感情を向ける相手自体、少ないのだ。

 

 だから、わからない。 犯人がどうして人を殺すのか。

 殺したいと思うほどの、憎しみや怒りを抱くような経験。 

 

 殺害動機としてありきたりなものでありながら、当人にしかわからぬ思い。

 そこに迫りたいと考えてしまう。

 

「……そういえば」

 

 殺害動機といえば、今日、眼鏡の男――薊海里は何をしていたのだろうか。

 どこかへ向かう途中だったのか。 魔物を移動させているところだったのか。

 

 そして彼は、これから何をするつもりなのか。 

 もし、薊海里が本当に復讐を動機とする殺害をしているのだとしたら――。


「もしかして……」

 

 思い浮かんだのは、ある一つの予想。 これは、明日鬼山さんに言わなければ。

 忘れないよう、スマホのメモアプリに書き込んでおく。

 

「ん……」

 

 メモを書き終えたところで眠気が訪れる。 

 テレビの電源を消し、布団に入る。

 

 この感じなら、目を閉じて少しじっとしているだけですぐ眠れるだろう。

 明日の為にも、しっかり睡眠をとらなければ。

 

 そんな使命感を抱きながら、わたしは眠りに落ちていった。

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