激闘の果てに
不思議な気分だった。
さっきまで俺は、強い怒りと殺意に囚われていた。 そのことは覚えている。
超級魔術を発動し、ネアレスを殺す為に戦っていたことだって、記憶にないわけじゃない。
それなのに今は……。
俺はちゃんと、自分を取り戻している。
落ち着いた気持ちで物事を考えることができている。
制御不可だったはずの超級魔術を、自分の意思で止めることができている。
「……………………」
狂化されていてもなお、心の奥底に根付いていた五木たちとの思い出が、俺を正気に戻してくれたんだ。
もしかすると今の俺は、超級魔術の力を制御できるのかもしれない――。
「……危ない、ところだったよ……」
「ネアレス……!!」
ネアレスはまだ、生きていた。 傷だらけになりながらも、空から俺を見下ろしていた。
恐らく、切断線により俺の攻撃の威力をある程度軽減させたのだろう。
その片翼は先程までの輝きを失っているものの、未だ健在。
あらゆる物質を問答無用で切断する光線を放つことだって、可能なはずだ。
どうする……?
さっきまで俺を強化していた超級魔術の効力は消えている。
もう一度超級魔術を発動することだって不可能ではないだろうが、流石に負担が大きい。
どう戦えば、超級魔術を失っていないネアレスに対し、優位に立てる……?
「……君で遊ぶ為とはいえ、俺もだいぶダメージを負ってしまったな」
「何……?」
そう言って、ネアレスが地に降り立った。
どういうつもりかわからないが、ネアレスからは戦闘を継続させる意思を感じない。 ただ、俺ではない何かを見ていた。
それは……芦高郡だった。 俺がボコボコにしてボロ雑巾のようになったはずの芦高郡が、立っていたのだ。 しかも、ネアレスの右腕を持って。
「くっ……! そうか、そいつ……自然治癒魔術を……!」
迂闊だった。 俺がネアレスと戦っている間にこの場から離れて、体力を回復していたのだろう。
まともに戦うことはできなそうだが、それでも芦高が生きていて、二本足で立っているという事実には変わりない。
「お前はここで……仕留める!」
「……………………」
構える。 芦高を倒すだけなら、そこまでの労力は必要ないはずだ。
対して芦高は、無表情。 俺に殺意を向けられても、その顔に変化はない。
「ケイト。 君がここで郡を殺すことは、できないよ。 俺は君との遊びをここで終わらせるつもりはないんだ」
「まさか、逃げるつもりか……?」
「そのまさかだよ。 俺は郡を連れて、逃げる。 右腕も治療したいしね」
俺だって、このまま戦い続けるのは厳しい。
だが、日をおいて全回復したネアレスと芦高郡を相手にするのは、もっと厳しいことになる。
「……逃がすと思うか?」
「思わないな。 でも、逃げさせてもらうよ」
次の瞬間、ネアレスの姿が忽然と消えた。
「……っ……!」
瞬間移動か……?
そう遠くには移動できないはずだ。
すぐに、辺りを見回す。
「はっ……!?」
「上だよ。 俺の瞬間移動は、横方向以外だって移動できるんだ」
ネアレスは、芦高の頭上に浮いていた。
「させるかっ……!」
疾駆して、芦高の首を刎ねようと手を伸ばすが、僅かに届かず。
「ケイト。 今回の戦いでよくわかったよ。 君は俺の思うようには暴れてくれないらしい。 だから俺は、君の目の前で大量に人を殺すことにするよ」
「………………!!」
ネアレスは芦高の腕を引っ張り、空高くへと上昇する。
撃ち落とそうと魔弾を放つも、空から放たれた切断線を前に掻き消される。
「毎日、数百人単位で殺していこう。 毎回、違った方法で人を殺そう。 ケイト、君にとって大事な人たちも、俺がちゃんと殺してやろう。 その時君は、どんなに面白い反応を見せてくれるんだろうね……?」
「ネアレス……!!」
「明後日だ……。 明後日、君は地獄を見ることになる。 楽しみに待っているんだ」
紫色の翼を輝かせ、ネアレスは去っていく。
確かに聞いた、ネアレスの宣戦布告。 俺を怒らせる為に、大量殺人を行うとの言葉。
「クソッ……!」
絶対に、そんなことをさせるわけにはいかない。
ネアレスが全回復するより前に、決着をつける必要がある。
その為にはまず……。
「……桃子! 五木は?」
「紗羽なら、応急処置は済ませてある。 でも、早く治療しないと、危険」
「わかった。 ありがとな、桃子」
急ぐ。 早く回復魔術を使えば、五木の腕は治るはずだ。
「五木……!」
五木は気を失っていた。 無理もない。 恐らく、今まで感じたことのないような激しい痛みだったのだろう。
「人見君……! お願い、紗羽ちゃんを……!」
「ああ、わかってる」
五木の右腕に手をかざす。
そして、俺に残された全エネルギーを回復魔術に費やすことにする。
想像するんだ……。
五木の右腕を、治すイメージ。
その右腕は、これからも動き続けなければならない。
治ってもらわなきゃ、困るんだ。
「……ッ……!」
全身の力が抜けていく。
視界が真っ暗になっていく。
それでも。
五木の腕を治す為、俺は回復魔術を行使し続ける……!
「……啓人!?」
「人見啓人……! しっかりしろ!」
俺の名前を呼ぶ、声が聞こえる。
けれどその声は、段々小さくなってきて。
「――――――――」
俺は、そのまま意識を失った。




