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狂化

 

 煌々と輝く満月の下。

 

 ようやく駆けつけた家守桃子も、

 腕を折られた五木紗羽も、

 満身創痍の鬼山竜紀と蕭条八重も、

 そして銀髪紫眼の青年、魔人ネアレスも……確かに見ていた。

 

「……ケイト! それが君の、超級魔術か!!」


 どす黒いオーラを放ち、殺意のこもった眼をネアレスに向ける、黒髪赤眼の青年、魔人ケイトの異様な姿を。

 

「……これは、一体……」

「……今はとにかく、ここから離れるぞ。 手助けを頼む」

「桃子ちゃん……! 紗羽ちゃんが、大変なの……!! 早く、治療をしないと……」




 二人の魔人が対峙している間に、桃子たち四人は安全な場所へと移動する。

 鬼山はある程度体力が戻っていたらしく、鬼山が蕭条の、桃子が五木の支えとなって、魔人たちから離れていく。

 

「……わたしが行っても、啓人の助けにはならないと思うけど……。 このまま啓人を、一人で戦わせるわけにはいかない」

「家守桃子。 俺はお前を止めはしない。 だが、今の人見啓人は……危険だ。 俺の言いたいことが、わかるな?」

「……うん。 八重さんと紗羽さんのこと、よろしくお願いします。 紗羽さんの腕なら、応急処置は済ませてあるから」


 そう言って、桃子は再び啓人のいる方へと向かって行った。

 

 


 一方、啓人とネアレスは、依然として動く気配はなく、互いに向き合ったままだった。

 しかしそれは、互いに戦闘意欲がないというわけではない。 

 その、逆だ。

 激闘に身を投じる覚悟があるからこそ、不用意には動かない。

 僅かな体重移動さえも見逃さず、どう動くべきか判斷する。

 

「……………………」

「……………………」


 長く続く、沈黙。

 静寂な夜闇の中、進展しないこの状況。

 

 それを先に終わらせたのは、啓人だった。

 

「……っ……!」


 啓人が一歩、足を前へと踏み出した。

 その動きに警戒するネアレス。

 

 ネアレスは、もちろん魔眼を発動している。

 その紫色の眼光は通常時より強く輝き、目に見えるあらゆる情報を的確に捉えている。

 

 そのはずなのに――

 

「何っ……!?」


 次の瞬間、ネアレスの右腕が弾け飛んだ。

 赤い血を撒き散らしながら、空高くへと。

 

 遠距離からの攻撃ではない。

 ネアレスの右腕をもいだのは、紛れもなく啓人の五指。

 啓人は黒煙のような尾を引きながら、ネアレスのすぐ横を超高速で通り過ぎていたのだ。

 

「……驚いたな」


 そう呟いて、右腕を失ったネアレスは、すぐに回復魔術で止血をする。

 

 ネアレスの右腕をもいだ攻撃。

 それは本来、啓人がネアレスの首を狙ったものだった。

 ネアレスは、己の首が刎ねられそうになっていることを直感で察し、回避していたのだ。

 

「長期的には今の速さで動けないようだけど……。 それでも、驚異的だよ。 腕一本を失ったのは、痛いね」


 ネアレスの言っていることは至極当然だった。

 一部格闘技を除き、人が戦う際に必ずと言っていいほど使われる腕。

 それを片方でも失うことは、あまりにも大きすぎる損失だ。 ましてやそれが利き腕となると、まともに戦うことなどできないだろう。

 

 しかし、ネアレスは魔人だ。

 常識を超越した神秘の力である魔術の、本来の担い手。

 あらゆる不可能を可能にする者。

 

 腕一本だけでは敗走するまでに至らないのだろう。 ネアレスの戦意は未だ失われていない。

 

「………………………」


 ネアレスを仕留め損ねた啓人は、再び動きを止めて、ネアレスの様子を静観する。

 その瞳の赤色はらん々と光っており、まるで獰猛な獣のまなこ

 

 数秒後。

 啓人は再び、ネアレスの首を狙って跳躍した。

 

 人見啓人の超級魔術――。

 その本質は、とある目的の為だけになされる、強化魔術だ。

 

 今回の場合、その目的は、「ネアレスをこの世から抹消する」ということ。

 ネアレスへの強い怒りをトリガーに発動した人見啓人の超級魔術は、その目的を果たす為に人見啓人を強化する。

 

 その脚は、ネアレスを殺す為だけに地を蹴り。

 そのかいなは、ネアレスを殺す為だけに振るわれる。

 

 攻撃に特化した強化魔術や、防御に特化した強化魔術、速度に特化した強化魔術があるように。

 この超級魔術は、ネアレスを殺す。 それだけに特化した、強化魔術ということだ。

 

 強化にして狂化。

 理性を犠牲に手に入れた、圧倒的戦闘力。

 これこそが、人見啓人の真の実力だった。

 

「――――くッ!!」


 瞬間移動を繰り返し、啓人の猛攻を躱し続けるネアレスだったが、ネアレスの瞬間移動はそこまで高い性能を誇っているわけではない。

 どちらかと言うと、ネアレスの瞬間移動は、設置魔術に近いものだ。

 登録した地点にのみ移動可能な、限定的な効果の魔術。

 その範囲も、せいぜいネアレスの目に見える程度。

 よって、瞬間移動による回避にもすぐに限界が訪れる。

 

「……っ……!!」


 啓人の振るった腕が、ネアレスの頬を掠める。

 それだけで、ネアレスの頬には大きな切り傷が生じ、真っ赤な血液が流れ出す。

 

「……どうやら俺も、超級魔術を使わなければいけないみたいだ」


 地を強く蹴り、啓人から距離を取るネアレス。

 

 次の瞬間――。

 

「………………!」


 ネアレスの背中より、濃紫色の光の片翼が現出する。

 

「右腕を失っているから出力が半分になっているみたいだけど――」


 今、ここに。

 

「俺の超級魔術は、あらゆる障害を無視して君を殺す……」

 

 超級魔術と超級魔術が、激突する――!

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