六畳間の宿泊者!?
ファミレスを出る。
このまま徒歩で十分も歩けばホテルへ着くだろう。 十分くらいなら、回復した体力でどうにかなる。
「ホテルへ着いたら、俺の部屋に一度集まるぞ。 夜も遅いし、疲れているだろう。 できるだけ手早く終わらせるから、我慢してくれ」
「我慢しますよ。 どっちにしろ、食べてすぐに寝たりはしませんし」
まだ若干肌寒さの残る夜風に吹かれながら、歩き続けるわたしたち。
なんとなく、夜空を見上げる。
視界に映るのは、満月。 まるで、真っ暗な夜空に光の穴が穿たれているようにも見える。
「今夜は満月だったのか。 気づかなかったな」
「普段、月なんてあまり見ませんからね……」
月がどんな形であろうと、わたし個人に何か影響があるわけじゃない。 狼男じゃあるまいし。
だから、月の形なんて気にしない。
「………………」
ふと、わたしにとっての月の形のように、普段気にしないものについて考える。
色々なことを気にしすぎるのも精神衛生上よろしくないだろうけれど、気にしない物事の範囲が増えていくのはどうなんだろうか。
無関心。
自分には関係ないから、どうでもいい。
興味がないから、どうでもいい。
何も得しないから、どうでもいい。
こうやって気にしない物事の範囲が増えていくのは、なんだか悲しいような気もする。
せっかく、世の中には色々なものが溢れているのに。
自分がただ周りに無関心な時はまだいいけれど。
自分が他人の無関心の範囲に含まれた時。 平然な顔でいられるだろうか……。
「やっと着いたな」
ようやくホテルに辿り着く。 時刻はもう少しで十一時といったところだ。
このホテルの見た目は正直ボロい。 特に目立った観光地があるわけじゃないこの街らしいビジネスホテル。 ちなみに駅チカではある。
フロントには誰もいなかった。 部屋の鍵は戦闘中も肌身離さず持っていたわけだが、鍵を壊す可能性がないとも限らないことを考えると、預けておいた方が良かった気もする。
わたしたちが泊まっている部屋は、六畳の和室。 素泊まりプランで一泊約三千円。 値段相応ではあるだろう。
……室内にバス、トイレなしというのが辛いが。
なので、トイレは各階にある共同トイレを使う必要があるし、風呂は地下一階にある男女別の大浴場へ行かなきゃいけない。
潔癖症というわけじゃないが、公衆浴場に抵抗があるわたしにはちょっと辛い。 何より、同性であっても他人に裸を見られるのが嫌だ。
今度宿泊地を決める時は、鬼山さんに強く意見を言おう。 そう心に決めたのであった。
「スマートフォンは持ってきたか?」
「はい、持ってきましたよ。 ご丁寧に充電器まで」
鬼山さんの泊まっている部屋へ入る。 鬼山さんの部屋はわたしの部屋のすぐ隣だ。
「よし、調べるぞ。 まず俺はSNSを中心に漁る。 蕭条は匿名掲示板を中心に情報を探しだせ」
「はい。 わかりました」
スマホをぽちぽち。
匿名掲示板閲覧専用ブラウザのアプリを起動。
東日本連続猟奇殺人事件について検索。
過去ログを取得し、目ぼしい手がかりがあるか探し続ける。
スレッドタイトル『【東日本連続猟奇殺人事件】犯人は未だ不明。 現在も逃走中の模様 ★298』。
ひとまずこのスレッドから見てみよう。
何やら、犯人探しが盛り上がっている様子。 たいした手がかりもないだろうに。
もしかして、わたしたちが外へ出て戦っている間に何かあったのだろうか。
『犯人はヤス』
うん、スルーしてOK。
『あの、犯人わかっちゃったんですけど……』
わかったのなら早く言ってほしい。
『犯人は俺かもしれない。 もう一人の俺が……うグッ! み、みんな、すまん……。 俺が俺でなくなる前に、謝っておくよ』
……早く出頭してください。 いや、入院か。
『被害者の内、五人目と九人目は同じ高校の同じ学年の同じクラス出身だったらしいよ』
これは、要チェック。 というか、これって結構重要なんじゃ……。
調査再開。
『どうせ犯人は、クラスで虐められてた陰キャだろ(笑)』
いじめられていたってのはありえなくはない。
『この犯人も馬鹿だなwwwwww これじゃ、自分も被害者と同じ高校出身ですよって言ってるようなもんじゃん』
確かに。
『他の被害者の詳細はねーの? 何か別に共通点あるんじゃね?』
あるかもしれない。 でも、調べようがない。
『警察無能すぎんだろ。 まだ犯人特定できひんのか』
それはしょうがない。 だって、魔術なんかで殺人事件を起こされても、魔術のことを知らないのだから。 現実世界ではありえないことを前提とした調査なんてしないだろう。
『相変わらず殺害方法は不明だけど、犯人の出身校はほぼ確定?』
まだ、確定とは言い切れない。 でも、被害者二人が同じ学校同じ学年同じクラスだったことがあるだなんて、偶然とは思えない。
『九人目の被害者のSNSアカウントが見つかったぞ! いかにもお前らが嫌いそうな奴だぜ』
そのお前らに自分を含めない辺りに、ツッコミたくなる。 でも、被害者の個人情報はできるだけ欲しい。 SNSアカウントも要チェックだ。
『俺、被害者二人と同じ高校で同じ学年だったわ。 今は地元離れて都内暮らしだけどな』
本当にそうなら、その被害者二人に恨みがありそうな人物を教えてほしいものだ。
『その証拠は?』
『俺も同じクラスだったわ。 嘘だけど』
『じゃあ俺も』
『証拠はよ』
『嘘乙』
『卒アルか何かないの?』
『証拠見せてよ』
自称被害者と同じ学年だった人物の書き込みに対する、大量の返信。
そのままこのスレッドは終了していたので、次のスレッドである『【東日本連続猟奇殺人事件】犯人は未だ不明。 現在も逃走中の模様 ★299』を閲覧することに。
「…………!?」
しばらく読み進めていくと、
『前スレで被害者二人と同じ学校だったと書き込んだ者だけど、卒アルのクラス紹介ページでいい?』
さっきのスレッドで被害者と同じ学年だったと書き込んでいた人物の書き込み。 まさか……。
『これで見れるかな』
何やら画像がアップロードされている。 これでまったく無関係の、何の参考にもならないと思うような画像だったら怒る。
恐る恐る画像を開く。 色んな意味で、画像を見るのが怖い。 これからやらなければいけないことが確定される怖さだ。
「……本物だ」
「どうした、蕭条?」
開かれた画像は、五人目と九人目の被害者が過去に通っていた高校の卒業アルバムのクラス紹介ページ。 クラスの生徒の顔写真と名前がしっかりとそこにはあった。
五人目の被害者の名前と顔写真を発見。 ニュースで見た顔写真とは異なるが、同一人物だとはっきりわかる。
続けて他の生徒の顔を見ていく。
すると――。
「こっ、これって……!!」
「……何か凄い手がかりでも見つかったのか?」
まさか、ここまで進展があるとは。
「この生徒の顔写真を見てください!」
画像を開いたスマホの画面を鬼山さんに見せる。
「この生徒って、どれだ」
「薊海里って名前の生徒です」
「薊海里……? ああ、これか。 この、眼鏡をかけた――」
と言いかけて、愕然とする鬼山さん。 なぜなら……。
「……間違いない。 こいつは今夜、俺たちと出会った眼鏡の男だ」
氷属性魔術を使い、魔物まで操り、わたしたちを殺そうとした男。 その男の顔がそこにはあった。
当然、五年前の写真となると、顔つきは微妙に変わってはいるわけだが、同一人物だとはすぐにわかる。 一卵性双生児の兄弟がいるとは言わせない。
「これはもう、薊海里が東日本連続殺人事件の犯人で確定……と言ってもいいと思います。 五人目、九人目の被害者と同じ学年ということは、今年で二十四歳……。 高校卒業からどんな進路へ進んだかまだわかりませんが、社会人である可能性が高いですよね」
「社会人ではあっただろうが、今現在はもう、働いていないんじゃないか? いくら魔術を使用しているとはいえ、これだけ殺しておいて警察に捕まらないということは、相当変わった生活を送っていること間違いなしだ。 会社勤めには難しい」
言われてみれば、その通りかも。 殺人事件の現場はそれぞれが結構離れているし。
「……ここまで来ると薊海里についてもっと調べておきたい気持ちもあるが、夜も遅い。 今日はゆっくり休み、明日の朝八時半にまた俺の部屋で続きをやるぞ。 明日は薊海里についての調査に費やす」
「はい。 お疲れ様でした……」
鬼山さんの部屋を出る。
わたしを今日、殺そうとした男。 あの男は既に、人の命を奪った男である可能性が高い。 もう確定と言ってもいいくらいに。
人を殺すことに対し、躊躇いがないのだろうか。 あの、敵意に満ちた眼差し。 思い出しただけで、血の気が引く。
「……とりあえずお風呂入ろう」
じわじわと湧き上がる恐怖を頭から振り払い、わたしは自分の部屋へと戻ることにした。




