祝福を得た者
男を中心にして描くよう、地面に浮かび上がる光の円。 その輝きは、男を閉じ込めるように強さを増していく。
「……何を仕掛けた」
「さあな。 それは、俺が仕掛けたものじゃない。 俺の知り合いが仕掛けたものだ。 お前にとってあまり良いものではないとだけ言っておこう」
男はすぐに起き上がり、光の円の外へ逃げ出そうとする。
しかし、男は逃げられない。 光の円は男を覆うドーム状の膜を形成しており、男が抜け出せないようになっていたのだ。
設置魔術――。
人見君がこの街の至る所に仕掛けておいた自動攻撃機能付きのそれは、今まさに、目の前でその威力を発揮しようとしていた。
「くっ――」
一際強い輝きが辺りを照らす。
夜空より降り注ぐ、一筋の赤い光。 それは、男をピンポイントで撃ち抜くように放たれ、雷鳴のような大音量を響かせる。
「うっ……!」
その破壊力は凄まじく、近くにいた鬼山さんは当然として、わたしのいるところまで大きな衝撃が伝わってくる。 伏せていなければ、その余波に晒されて危なかったかもしれない。
果たして男はどうなったのか。
男の立っていた場所を見てみるが、巻き上がった土埃のせいで視界が悪く、様子がわからない。
けれど、人見君の設置魔術による攻撃は、確実に男に直撃していた。 魔術を無効化でもしなければ、あれを防ぐことなどできないはず。
「………………」
鬼山さんはというと、男の立っていた場所を凝視し、何とかして男の様子を探ろうと必死な様子だ。
それはどこか、男がまた襲い掛かってくることを確信しているかのようにも見える。
……そしてこういう時、嫌な予感は当たってしまうものだったりする。
「……ッ……!」
土煙の中より現れる、黒い人影。
男は……無傷だった。 やはり、魔術を無効化したということか。
「……しぶといな」
「残念だったな。 お前は、俺を殺せる最後のチャンスを逃した……」
人見君の話だと、設置魔術による攻撃は敵を倒すまで止まらないとのことだった。
けれど、次の攻撃が行われる様子はない。 もしかすると、男は設置魔術ごと魔術無効化を……?
「それはどうだろうな。 俺はこう見えても、まだ戦えるぞ。 試してみるか?」
そう言って、何をしだすのかと思えば、鬼山さんは上級魔術を発動した。 電撃を発生させ、掌に集中させていく。
「何……!? まだそれほどの力を……」
男はすぐに回避できるよう跳躍の構えを見せる。
しかし、鬼山さんが解き放とうとしているその電撃は、そう簡単に男を逃すものではなかった。
「俺の読みが正しければ、お前は今、魔術を無効化する力が使えない……! 今度こそ、存分に喰らいやがれ」
「くっ……!」
鬼山さんの上級魔術――。
わたしの雷の槍とは対照的に、広範囲を埋め尽くす電撃が、男を襲う。
威力は分散されるものの、男の跳躍力を持ってしてもその電撃から逃れることは困難。
「がああああッ――!!」
そしてついに、男は電撃に飲み込まれる。
鬼山さんの読み通り、男は魔術を無効化していない。
鬼山さんは、最初から人見君の仕掛けた設置魔術だけで男を倒す気ではなかったのだろう。 設置魔術により魔術無効化が使えない状態を作りだし、その間に上級魔術を直撃させる気だったというわけだ。
「………………」
男は、致命的なダメージを負ったはず。 わたしのように雷属性耐性魔術でも使っていなければ、上級の攻撃魔術をモロに受けて平気なわけがない。
「…………どういう、ことだ」
「そんな……!」
そのはずなのに。
わたしたちの目の前に姿を現した男は、まだ立っていた。
しかも、満身創痍だとか、そんな状態にすらなっていない。 少し、衣服がボロボロになっているだけで、たいしたダメージを受けていないように見える。
「……知りたいか? 何故俺が、そこまでダメージを受けていないのか」
鬼山さんは、さっきの一撃にだいぶエネルギーを注ぎ込んでいた。 あの電撃は、いつも以上に高威力だったはず。
魔術を無効化されていたのなら、まだわかる。 けれど、今回は違う。 違う方法で、あの男は鬼山さんの攻撃を無効化した……?
いや……。 無効化にはしていないはずだ。 ダメージは、僅かながら受けている。 衣服はもちろん、その死人のように白い肌にも傷は見受けられる。
「お前たちならわかるはずだぞ。 雷属性魔術を使う、お前たちならな」
「まさか、お前……。 耐性魔術か……!?」
「……っ……!!」
耐性魔術。
術者が自らの術によるダメージを受けないよう、各属性に対する耐性力を高めるという魔術。
火属性魔術を使うのなら、火属性耐性魔術を。
氷属性魔術を使うのなら、氷属性耐性魔術を。
雷属性魔術を使うのなら、雷属性耐性魔術を。
けれど、もちろん耐性魔術は、自らの術によるダメージを受けない為にだけ用いられるわけではない。
実際は、ただ単純にその属性に対する耐性がつく、防御を用途とした魔術でしかない。
それなのに、何故火属性魔術を使う人が、当然のように火属性耐性魔術を習得しているかというと、とある属性魔術に適性のある魔術師は、その属性の耐性魔術にも適性がある場合が多いからだ。
恐らく、イメージが掴みやすいのだろう。
魔術による火がどういうものなのか。
魔術による氷がどういうものなのか。
魔術による雷がどういうものなのか。
それらを理解しているからこそ、それに対する耐性力もイメージが可能というわけだ。
だからこそ、何故地属性魔術を得意とする目の前の男が……。
それに、わたしたちの使用している雷属性耐性魔術の効果を上回る耐性を……。
いくら鬼山さんやわたしでも、あれだけの電撃を喰らえばただでは済まない。
それこそ、一〇〇パーセントに近い雷属性耐性でもなければ、あれだけのダメージで済むわけがないはずだ。
「その通りだ。 俺は、耐性魔術をかけてもらっている。 火、氷、雷の三属性だけだがな。 その三属性ならば、九割以上ダメージを軽減することが可能……」
かけてもらっている……? つまり、その属性耐性魔術は、この男自身の魔術によるものではない。
「……ネアレスの魔術によって、お前は強化されているというわけか」
「そうだ。 肉体強化魔術、三属性耐性魔術、そして、自然治癒魔術……」
「……お前の魔術使用回数が多いのは、自然治癒魔術により体力が回復しているからというわけか」
おかしいと、思ってはいた。
薊海里や蟻塚美門も、ただ力を与えられただけなのにあれだけ強い魔術を使っていた。
それを鑑みても、この男は強すぎるのだ。 体格差だけでここまで変わるとも考えにくい。
「さあ、どうする? 疑問が解けたところで、お前たちは窮地を脱することなど不可能……。 もう、使えないのだろう? 魔術を」
では、どうしてこの男がここまで強いのか。
それは、男がネアレスという魔人からの祝福をフルに受けていたからだったのだ。
「くっ……!」
躙り寄ってくる男。
動けないわたしを守るように、わたしの前に立つ鬼山さん。
「安心しろ……。 すぐには殺さない。 ゆっくりと、少しずつ、その命を削り取ってやる」
わたしたちは今度こそ、絶望的な状況下に置かれていた。




