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制約

 

 もし、魔術無効化の力がいつでも使えるのなら。

 回数に限りなく好き放題使えたり、常に効力が維持され続けているのなら、男はわたしたちの攻撃を回避する必要なんてない。

 でもそうしないのは、魔術無効化の力にもそれなりに制約があることの裏付けにほかならない。

 

 具体的に、どのような制約があるのか、今までの戦闘内容からわたしなりに考えてみる。 

 わたしの攻撃は、男の体に当たる直前で空間ごと捻じ曲げられた。 体に当たる直前……つまり、魔術無効化の力は男の体を覆うように、ごく小さな範囲内だけで効力を発揮するもの。

 しかも、その持続時間は決して長くない――。 

 

 この考えが正しいかどうか確かめる為に、魔術無効化の力を使わせてから数十秒後に上級魔術を放つ。 

 少し時間を置いてからというのがポイントだ。 

 すぐに二発目を撃ってしまうと、その短い持続時間内に攻撃することになって、一発目と同じように無効化されてしまうかもしれないからだ。

 

「お前の魔術が俺を貫くことはない……。 絶対にな」

「………………!」

 

 男は今度こそはとわたしに迫り、攻撃を繰り出してくるが、わたしはそれを回避し続ける。 

 男の攻撃を避けるのは難しくなかった。 何せ、男の攻撃は強力だが、ワンパターンすぎたからだ。 

 

「まだっ……!」

「何……!?」

 

 そして、男がわたしの攻撃を無効化してから三十秒ほどが経過したその時に、わたしは男の不意をつくように素早く上級魔術を発動し、二発目の雷槍を解き放った。

 

「ぬぅぅぅ……!」

 

 男は果たして……無効化魔術を使用しなかった。 

 一直線に迫りくる雷槍から逃れようと、自らの身を勢い良く投げ飛ばすように横へ跳んでいた。 

 その様子は、今までの動きと比べるとだいぶ無理をしているように見えた。 こうなると、男の無効化魔術は、連続での使用は不可能だということだろうか。

 

「中々やるではないか。 あと少し狙いが良ければ、俺を殺すことが出来たかもしれんぞ」

 

 男はまだまだ戦えるといった様子だ。 この男、わかってはいたが、魔術使用回数がわたしたちよりもだいぶ多い。 

 

 男の魔術無効化の力について、効果の範囲が狭く、持続時間が短く、連発不可だということがほぼ確定だとしても、ここまでわたしは上級魔術をたくさん使用しすぎてしまった。

 せっかく魔術無効化の仕組みがわかりかけたところで、魔術が使えなくなってしまってはどうしようもない。 これからどう立ち回っていくべきか――。

 

「さて……。 そろそろ終わらせてやる。 すぐに殺しはしない……。 まずは動けなくしてやる」

「……っ……!」

 

 考える時間はない。 男はまた、わたしに襲いかかろうと身構える。 

 三度目の正直なんてのはゴメンだ。 どうにかして男の勢いを止めなければ。 でも、どうすれば……。

 

「――ッ!?」

「…………?」

 

 わたしは何もしていないのに、男は怯み、動きを止める。 

 今すぐにでも跳躍しそうだった男の右肩に、投げられた石が直撃していたのだ。

 

 今のうちに、距離を取る。 

 攻撃をしても良かったが、後一回上級魔術が使えるかどうかという状態だ。 男のすぐ近くで魔術が使えなくなるのは避けたい。

 

「ほう……。 俺が魔術によって生み出した岩石を利用したか」

「ただ石を投げるだけなら、新しく何か魔術を使用する必要もないからな。 魔術の節約にもってこいだ」

 

 石を投げたのは、鬼山さんだった。 

 既に肉体強化魔術を発動している鬼山さんなら、ただ石を投げるだけでもそれなりに威力はある。 

 敵の魔術を利用した、うまいやり方だ。 けれどこれの意味するところは、男も魔術使用回数を節約して戦えるということでもある。

 

「魔術の節約か。 ならば、こういうことも可能だと教えてやろうではないか」

 

 と言って、男は鋭利な岩石の破片を手に取る。 

 柄があるわけではないが、まるで石斧のようなそれにどれほどの殺傷力があるのかわからないわけがなかった。

 

「………………!!」

 

 男が跳ぶ。 素手でもわたしを一発で叩き殺すことが可能だったであろう男は、今、武器を持っている。 

 攻撃速度が若干低下しているとしても、リーチが長くなり、殺傷能力も向上しているので、先程までと同じように対処して何とかなるわけがない。

 

「どうした? 動きが鈍くなってきたではないか」

「――っ!」

 

 上級魔術をたくさん使用した上に、常に全力で動き回っていたからか、頭では男の攻撃に反応できても、体の方がついていかなくなってくる。 

 後少しでも動きが遅れてしまうと、男の振るう凶器の餌食になりかねないというのに。

 

「蕭条……!」

 

 そんなわたしの状態を知ってのことか、男は狙いをわたしに集中させていた。 

 鬼山さんは何とかして男の動きを止めようとするが、武器のない現状、鬼山さんが男に接近戦を仕掛けるのは難しい。 

 投石による支援も、わたしに当たる可能性があるからか、躊躇ためらっている。

 

「はあっ……!」

 

 呼吸が乱れる。 鋭く空を切る音が頭の後ろの方から聞こえてくる。 

 

 そして――

 

「……ッ……!」

 

 背中に異様な熱さが生じる。 わたしは、瞬時に男に切られたのだと理解する。

 

「これで終わりだ――」

 

 背後に感じる、男の気配。 男は、傷を負って動きを止めたわたしに、更なる一撃を繰り出そうとしている。 

 このままわたしが動かなかったら、わたしは死ぬ。 

 けれどまだ、わたしの体は動くみたいだ。 幸い、背中の傷はそこまで深くないのだろう。 

 出来る限り、この肉体を現在位置から遠くへ移動させるよう、必死になる。

 

「ほう……。 まだ動けるのか」

 

 男の声が聞こえる。 ということは、男の攻撃から何とか逃れることができたということか。 けれどまだ、男は攻撃を止めない。

 

「だが、このままお前が逃げ続けることは不可能だ。 他の誰よりも、お前自身がそう理解しているのではないか?」

 

 男は跳躍の構えを見せる。 今度こそ、わたしを仕留めるつもりだ。 

 男の言う通り、このまま逃げ続けることは難しい。 次の攻撃も何とか回避したとして、その次の攻撃を回避できる可能性は限りなく低い。 

 わたしは、確実に追い詰められていた。

 

「………………」

 

 だったらここで、同じような行動を取り続けるわけにはいかない。

 

「……何?」

 

 まさに男が襲い掛かってくるという直前に、わたしは上級魔術を発動した。 

 これでもう、この戦闘においてわたしは魔術を使えないだろう。 肉体を酷使し、体力も限界で、更に傷を受けたことによる失血もある。 

 つまりわたしは、今すぐ気絶してもおかしくないような状態だ。

 

「はぁぁぁあああ!!」

 

 そんな状態になってまで、わたしが最後の力を振り絞るように上級魔術を発動したわけ。 

 それは、男が魔術無効化の力を再使用できるのか確かめたかったからだ。 わたし一人だけで戦っているのなら、やろうとはしないことだが、わたしは一人で戦っているわけではない。

 

「無駄な足掻きを……」

 

 男が地を蹴り、襲い掛かってくる。 

 わたしが上級魔術を発動したというのに、真正面から向かってくるとは。 魔術を無効化する力は、まだ使えるということだろうか。

 

「死ね……!」

 

 男を貫かんと一直線に伸びていく雷槍。 

 それを、真正面から魔術無効化の力によりねじ伏せる男。 

 けれど、魔術無効化の力を使ったことで、男は少しだけ動きを止めていた。 それが、わたしに少しだけ時間を与えてくれる。

 

「……っ……!」

 

 転がるようにして、男の振るう石斧から逃れる。 間一髪だ。 

 もちろんわたしは死ぬつもりなどないので、この後どう男の攻撃から逃れるかも計算済み。 

 もう魔術が使えないのなら、敵の魔術を利用してやればいいだけのこと。

 

「…………ぬぅ!?」

 

 もう一撃を繰り出そうと動く前に、バランスを崩して動きを一瞬止める男。 男がわたしを仕留めようと降り立った地面は、泥濘んでいたのだ。

 

「どうだ? 自分が仕掛けた罠にやられる気分は……」

「………………!!」


 そうして生じた隙を狙い、駆けつける鬼山さん。 

 男はすぐに反撃をしようと試みるが、攻撃の初速は鬼山さんの方が上回る。

 

「ぐっ……!」

 

 男の手から石斧が払い落とされる。 

 そして、鬼山さんは男の肉体へと拳を叩き込んでいく。

 

「お前はここで倒す……!」

 

 殴打の応酬が続く。 

 互いに素手となった今、有利なのは鬼山さんのようだ。 強化されているとはいえ、男の肉体にもダメージが蓄積されているに違いない。 動きが次第に遅くなってきているのが見てわかる。

 

「――――ッ!?」

 

 鬼山さんの蹴りが男の腹部に見事入る。 

 苦しげに声を漏らす男。 

 鬼山さんは、そのまま男に魔術などで反撃されぬよう、攻撃を続ける。

 

「………………」

 

 わたしの体は、もう動かなかった。 今出来ることは、ただ目の前の戦いを見守ることのみ。 

 

 鬼山さんは、わたしが集中的に狙われていた間に体力を回復させていたのか、随分とキレのある動きを見せている。 

 男も一方的に殴られっぱなしというわけではないが、鬼山さんの猛攻を前に、思うよう動けずにいる。 

 じわじわと追い詰められていくその様は、まるで土俵から押し出されそうになっている力士のようだ。

 

「………………?」

 

 押し出される……? 

 この戦いは、ベーゴマや相撲じゃあるまいし、場外に押し出したところで勝ちではない。 

 なら、どうして鬼山さんは、男をどこかへ追い詰めるように攻め続けるのか。 

 攻撃し続けることは、体力的に厳しいはずだ。 ただ敵を倒すのなら、そこまでする必要はない。 急所を確実に狙っていった方が体力を温存できるはず。 

 もしかして、動けなくなったわたしが攻撃されないようにする為だろうか……?

 

「………………!」

 

……いや、違う。 それだけじゃない。 

 この既視感……。 以前の戦いでも、鬼山さんは似たようなことをやっていた。 鬼山さんは、男をどこかへ誘い込んでいるのでは……!?

 

「くっ……!」

 

 男を強く突き飛ばすように蹴りを放つ鬼山さん。 そして――

 

「……ッ……!?」

 

 男が地面に倒れ込んだ次の瞬間、その魔術は発動した。

 魔人である人見啓人が仕掛けた、広範囲設置魔術。

 ネアレスの脅威からこの街を守るための、防衛トラップが発動したのだ。

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