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魔術無効化

  

 戦闘が始まってから何分が経過したのだろうか。 

 未だ、鬼山さんの体を纏う雷が解除されていないことから判断すると、三分も経っていないはずなのはわかる。 

 でも――。

  

「くっ……!」

 

 この短い時間内で、目まぐるしく変化する戦況の優劣。 

 実際に経過した時間よりも、わたしの体感時間はずっと長く感じられた。

 

 果敢に攻め続ける鬼山さんを相手に、男はその強靭的な脚力でこちらの死角に回り込み、地属性魔術により形成した岩石を砲弾のように浴びせてくる。

 わたしと鬼山さんは飛んでくる岩石への対処に追われ、思うように攻撃が出来ずにいる。

  

 かと思えば、鬼山さんは男の動きを予測して男が移動するであろう先へと雷を放って男の動きを少しでも遅らせようとし、見事それが成功することもある。 

 そうして生じた隙をわたしは見逃さずに狙い、攻撃を加える。 

 

 男はもちろんその攻撃を避けたり、攻撃によって相殺したりするわけだが、時間制限付きの強化魔術を使用している鬼山さんがのんびりと敵の行動を見守るわけもなく、チャンスさえあれば猪突猛進といった具合に攻めていく。

  

「……ッ……!」

 

 こちらの攻撃は、何発か当たっている。 効いていないことはないはずだ。 

 けれど男は、まだまだ余裕があるようで、ダメージを受けている様子を見せていない。 

 それどころか、不利な状況の陥ってもすぐにそれを覆してくる。 

 わたしたちはともかく、ただ力を与えられただけであるはずのこの男が、どうしてここまで強いのか。 正直、理不尽だなと思う。

 

「クハハハハハ! いいぞ、その調子だ……!」

 

 それに、男は戦闘を愉しんでいた。 その戦い方はメチャクチャで、ただ持っている力を見せつけるように振るっているだけのようにも見える。

 だというのに、こちらはそのメチャクチャな戦いぶりに苦戦し、攻撃をうまく当てられずにいるのだ。 それだけ男の攻撃は激しく、その動きは素早かった。

 

 それでもわたしたちが何とか対応できているのは、今までの戦闘経験があったからだ。 

 特に、前回の蟻塚美門率いる昆虫型の魔物との戦闘は、良い経験になった。 強化魔術により激しく動き回る魔物たちとの攻防は、慣れてさえしまえばあのスピードの戦いでなければ遅く感じるほど、戦闘時の思考と行動の反応速度を成長させてくれるものだった。

 

「侮るな……!」

 

 男の手により勢い良く投げ放たれた岩石を回避し、男の懐へと入り込む鬼山さん。 

 岩石は、後ろの木々をへし折って、大きな破壊音を鳴り響かせる。

 

「……っ……!」

 

 鬼山さんの動きは、まるで瞬間移動でも使ったかのように速かった。 

 恐らく、強化魔術による一時的なものだろう。 流石に男もその動きの速さに驚いたのか、急接近した鬼山さんに対し、すぐに対処できていない。


「喰らえ――」

 

 雷を込めた拳。 それを、男に向かって繰り出す鬼山さん。

 

「ぬぅ……!」

 

 しかし、あと僅かのところで後方へと跳躍され、直撃を回避される。 

 その一部始終を見ていたわたしは、当然攻撃の準備を終えているわけで、

 

「………………!!」

 

 わたしに狙われていることに気づく男。 

 思っていたよりも反応が早いが、これも折り込み済み。 止まっている的を狙えるなんて、最初から考えていない。 

 鬼山さんのように、敵の行く先を予測して攻撃する。

 

 もちろん、これは考えているほど簡単なことじゃない。 敵の行く先を予測することが出来たとしてもだ。 

 現時点では何もないところに向けて、攻撃回数に限りのある上級魔術を放つのは、心理的に抵抗のある行為だ。 

 いっそ、単体特化ではなく広範囲の上級魔術を使おうかと弱気になってしまうが、巻き添えの危険性もあるし、あと何回も使用できない上級魔術を出来る限り有効に活用したい思いがある。

 

 ここは、余計な迷いを捨てる。

 

「…………はあっ!」

 

 僅かな動きを目で捉え、雷の槍を解き放つ。 狙いは、男の右前方。 果たして、男の行く先は――。

 

「何……!?」

 

 予測は当たり、男はわたしが攻撃した場所に吸い込まれるよう向かう。

 もし、男に魔術を無効化する力がなければ、この一撃で確実に仕留められていただろう。 

 そう思うほど、我ながら見事な的中具合だった。 が、男には魔術を無効化する力がある。

 

「消えろ……!」

 

 男がそう言い放った次の瞬間、わたしの繰り出した雷槍は、男の肉体に当たる直前、捻じ曲げられるように掻き消えていった。 男が魔術を無効化したのだ。

 

「よくやった、蕭条……!」

 

 舞い降りたチャンスを見逃さんと地を蹴る鬼山さん。 雷を纏ったその身を輝かせ、男の元へと跳び、蹴りを放つ。

 

「ぐぅ……!」

 

 蹴りを受け、吹き飛ばされる男。 

 鬼山さんは男を追い、攻撃を続ける。

 

「まだだ――」

 

 怒涛の追撃。 

 男も地面より鋭い岩石を突出させ、鬼山さんの進路を妨げようとするが、疾駆する鬼山さんを止めるまでには至らず。 

 男は、肉体強化こそしているものの、鬼山さんほど格闘センスがあるわけではなく、接近戦においても押され始めていた。

 何より、鬼山さんの攻撃には雷属性が付与されている。 雷属性耐性魔術を使用していない生身の人間なら、その攻撃を受けて平気なわけがない。

 

「終わりだ……!」

 

 鬼山さんの全身に帯びていた電撃が、右拳に集まっていく。 

 周囲は青白く明滅し、これから繰り出される一撃が強力であることを予感させる。

 

「くっ――」

 

 戦闘を愉しんでいた男も、自らの身が未だかつてなく危険な状況に置かれていることを理解し、流石に顔を強張らせていた。

 しかし、諦めた様子はなく、どうにか状況を覆さないかと思案しているようにも見える。 

 わたしは、男がどう動いてもこちらの優勢が保てるよう、冷静に状況を判断し続ける。

 

「はぁぁぁぁああああ!!」

 

 青く輝く拳を携え、男に殴り掛かる鬼山さん。 

 先程男の懐へ入り込んだ時のように、一瞬で距離を詰めていた。 

 この速さなら、男に回避させる時間はもちろん、魔術を発動する暇さえ与えることなんてないはずだ。 

 先程のように魔術を無効化されたとしても、鬼山さんの殴打を受けることは必至。

 

「――――ッ!?」

 

 しかし、男は宇治さんたち三人の魔術師を相手にして勝利した相手。 そう簡単に倒されてはくれなかった。 

 鬼山さんが男を殴る為に踏み込んだ地面は、泥濘ぬかるんでいたのだ。 もちろん、元々泥濘ぬかるんでいたわけではない。 ここ数日間、雨は降っていなかった。

 これは、男の魔術によって仕掛けられていたものだ。 恐らく、戦闘中に設置されたのだろう。

 

「かかったな――」

 

 男には、僅かな時間さえあれば十分だった。 

 鬼山さんは思わぬ罠で動きを滞らせながらも攻撃を続けようとするが、男はその攻撃を間一髪で躱し、鬼山さんから距離を取ろうとする。

 

「クソッ……!」

「ほぅ……。 時間切れか」

 

 そして、鬼山さんの雷属性付与の強化魔術は解除される。 

 今の鬼山さんは、肉体強化魔術により強化されている状態ではあるが、雷属性付与の強化魔術を使用したことによりだいぶ消耗している。 あまり、無理はできないだろう。

 

「………………!?」

 

 だから、こういう時にわたしが前へ出る。 わたしと鬼山さん二人が同時に動けなくなるのは良くないが、一人だけなら……。 

 ほんの少しの時間でも、動きを止めて休めることが可能なら……! 

 

 人数で勝っているわたしたちならではの、戦い方だ。 男に休む暇を与えることなく、鬼山さんを休ませる。

 

 既に、わたしは移動を済ませている。 鬼山さんのように近接戦闘をするわけではないので、近づきすぎてはいけない。 遠すぎず、近すぎずだ。

 

「させんぞ――!」

 

 わたしの動きに警戒し、急接近してくる男。 

 鬼山さんが疲弊している時に危険を冒すようなことは避けたかったが、近づいてくるのなら仕方がない。

 

 すぐにでも、魔術を発動する準備は出来ている。 

 作戦変更だ。 

 敵をギリギリまで引きつけて、敵の攻撃を躱し、即座に近距離で上級魔術を発動する。 近距離でのカウンターを狙う。

 

「………………!」

 

 集中する。 

 男はまだわたしたちに見せていない攻撃もあるかもしれない。 あらゆる方向からの攻撃を想定しなければならない。

 

 男はわたしの元へ迫りながら、地属性魔術による攻撃も繰り出してくる。 

 地面より勢い良く突き出してくる岩石は、発動時に地中から聞こえる音がある為、音を聞き逃さなければ避けられない攻撃ではない。 

 

 しかし、立ち位置を変えざるを得ない点は厄介だ。 

 また、魔術ではなくその凄まじい身体能力から投げ放たれる岩石も、まるで投石機から発射されたかのような破壊力を持っており、避けないわけにはいかないので、男が攻撃する度に移動することになる。

 

「避け続けるだけでは俺には勝てんぞ……!」

 

 迫りくる男。 

 男は、遠距離からの攻撃ではなく、やはり自らの手でわたしを仕留めたいようだ。 

 

 そしてこの時、わかったことがある。 この男は、ただわたしたちに打ち勝つのが目的ではないのかもしれないと。 

 これだけ強力な遠距離からの攻撃に、効果は薄いものの足場を悪くさせてこちらの動きを停滞させる設置魔術。 

 身体能力も極めて高く、その上魔術を無効化する力まであるのだ。 もっと良い戦い方だってあるはずなのに、男には無駄打ちが多い。 魔術使用回数を気にしているようで、気にしていない。

 

「潰れろ――」

「……っ……!」

 

 男の腕が振り下ろされようとしていた。 男は、わたしのすぐ背後まで近づいてきていたのだ。

 タイミングを見誤ってはならない。 恐怖から焦る気持ちを必死に抑え、脚に力を入れる。

 

「――――ッ!?」

 

……今だ。 身を翻し、上級魔術を発動する。 

 狙うは、男の胴体。 激しく輝きながら、直進する雷の槍。

 

「消えろ……!」

 

 しかし、またしてもわたしの攻撃は、男の体に当たる直前、無効化されていた。 

 男の反撃を警戒し、少し距離を取る。 

 そして、二発目を撃つタイミングを測る。

 

――二発目をすぐに撃つことも可能だった。 けれど、そうしなかったのは、あることを試してみたくなったからだ。

 

 男の魔術を無効化する力を実際に見ることで抱いた、ある考え。 

 それは、男の魔術無効化は、いつでも使えるわけじゃないのではという疑いだった。 

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