フードファイター・やえ
「注文した品が来たみたいだぞ」
語尾伸び店員が料理を持って再々登場。 もはや安心感さえある。
「お待たせ致しましたぁ~」
生ハムサラダとマルゲリータピザがまずやってきた。 他のメニューと比べて早く簡単に作れるのだろう。
他のはまだ来ないようで、店員は去っていった。
「別に俺を待つ必要はないぞ。 気にせずに食べてくれ」
「では遠慮無く……。 いただきます」
昼食も摂っているはずなのに、何だか凄く久々に食事をするかのような感覚に陥る。 あんな戦いをした後だからだろうか。
とにかく、まずはサラダからいただく。
「………………」
生ハムの塩気が、口の中で良い感じにレタスの味と混ざり合う。 このバランス、悪くない。 しょっぱすぎず、かといって塩気がなさすぎるわけでもない。
次にピザを食す。 ピザカッターを使うのは久々だ。 ピザなんて普段食べる機会ないし。 冷凍ピザにはピザカッターなんて使わないし。
「………………」
うん、普通にピザだ。 美味しい。 脳内にあるピザのイメージと一致する紛うことなきピザの味。 価格に対して不満のないレベルだ。
「…………あの」
「なんだ?」
「食べてるところをそんなに見られると、恥ずかしいというか……」
食べている間、鬼山さんは頬杖をついてじーっとわたしの方を見ていた。 気のせいかと思って食べ続けていたけれど、気のせいじゃなかったみたいだ。
恥ずかしいことをしているわけじゃないのに、何だか恥ずかしい気持ちになってくる。
「よく食べるなぁと感心して見ていただけだ。 気にするな」
「気にしますから……」
思わず赤面するくらいには気になる。 食べ方、変じゃないかなとか。
「よく食べると言えば、昔動物園で見た小動物の食事の様子は見ていて面白かったな。 あいつら、餌を小さな両手で抱えて、むしゃむしゃむしゃむしゃと一生懸命咀嚼しててさ。 本当に愉快だったよ」
「それは、わたしがその小動物みたいで愉快だってことですかっ!?」
「そうだが」
ここですんなり肯定する辺り、流石だなと思う。 褒めてないけど。
「そうだがじゃありませんよ! あんまりわたしのこと、からかわないでくださいよね……」
「他の料理も来たみたいだぞ」
「話をそらさない!」
「すっかり元気そうだな」
「これは、から元気です!」
とはいえ、食事をすることで体力が回復したことは事実だ。
胃に食物が届くだけでこんなにも変わるものなのかと思う。
ゲームなんかで、食べ物をアイテムとして使用し、すぐにHPが回復するだなんてことがある。
そんなことあるわけないでしょうと思っていたけれど、別にあれはそこまで現実離れしたゲーム世界だけのことってわけじゃないみたいだ。
「失礼致しますぅ~」
語尾伸び以下略。
トマトスパゲッティと和風ハンバーグセットがやってくる。
鬼山さんの視線がどこに向けられているかつい意識してしまう。
鬼山さんの頼んだ品が来ているのだから、わたしの方を見ることはもうないだろうけど、つい気になって鬼山さんの方を見てしまう。
「……ん? さっきの仕返しか? そんなにこっちを見ても、この飯はやらんぞ」
「要りませんよっ!」
鬼山さんの相手をしていると、調子が狂って仕方がない。 変な汗が出る。
今は余計なことを考えず、目の前の食事に集中して、心を落ち着かせよう。
「…………もぐもぐ」
会話することもなく、黙々とモグモグする。
トマトスパゲッティは想像していたよりだいぶ美味しくて、得した気分。
これなら問題なく完食できそうだ。 お腹がどんどん満たされていく。
でも、デザートは別腹だ。
「失礼致しますぅ~。 お待たせ致しました、デザートの抹茶パフェでございますぅ~」
ちょうど食べ終わってすぐのタイミングでデザートがやってきた。
この店員、中々凄い。 こちらの様子を伺っていたのだろう。 デザート類はキッチンではなくホールが作るらしいし。
「では、ごゆっくりどうぞ」
「…………!?」
語尾が伸びていない……?
……最初からそう喋ればいいのに。
「デザートを食べているところ悪いが、この後のことについて少し聞いてくれ」
「はい?」
舌にじんわり溶けこむような甘み。 摂取される糖分に脳が歓喜しているという時に、鬼山さんが話しかけてくる。
「疲れていて、シャワーを浴び、すぐにでも寝たい気持ちはあるだろうが……。 簡単にネットで調べられる情報はまず互いに共有しておき、そこから導き出される結論によっては明日の計画を今日の内に決めておきたい。 いいか?」
「はい、いいですよ。 あの眼鏡の男の人が殺人犯だとしたら、先を急ぐ必要がありますからね」
やはり人として、どんなに自分と関係のない人間の命であっても、救える命があるのなら救いたいとは思う。
「調べた結果によっては、俺たちはかなり忙しくなるかもしれない」
「……そうですね」
これは、話し合いで解決できるような問題ではない。 また、戦闘することは避けられないと考えが方が良いだろう。
その時、わたしはちゃんと戦えるだろうか。 恐怖に屈し、動けなくなったりしないだろうか。 頭をよぎるのは不安ばかり。
今回はなんとかなったけれど、はっきりわかってしまったことがある。
わたしは、自分が思っているほど、強くない――。
「ごちそうさまでした」
デザートの抹茶パフェを食べ終える。
「よし、さっさとホテルへ戻るか」
鬼山さんが伝票を持って席を立つ。
レジへ向かう鬼山さん。 お金の管理はわたしではなく、鬼山さんがしている。
「ありがとうございましたぁ~」
店員の挨拶を背に受けながら、ファミレスを後にした。




