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蟻塚美門は挑戦する


 みんなとプールへ遊びに行ってから、数日後。


 今日は特に予定もなく、俺は家でのんびり過ごすことに決めたわけだが、


「……何か、騒がしいな」


 昼食を終え、俺は自室に篭っていたのだが、何やら一階が騒がしい。

 今日は、午後から蕭条さんと鬼山さんは外へ出かけている。 だから、一階にいるとすれば、それは桃子だけなわけだが……。

 

「よし、様子を見てくるか」


 騒がしいといっても、何か乱闘騒ぎが起きているだとか、そんな感じではない。 これは、誰かと誰かが大きめの声で会話しているようだ。

 

 誰かと誰か。 一人は桃子に違いない。 

 そして、もう一人の声にも聞き覚えはある。 しかし、この人物がまさか、本当にこの家に……。

 

「あら、あなたも家にいたのね。 人見啓人」

「………………」


 いた。 見知らぬ誰かではない。 正真正銘、蟻塚美門本人だった。

 

「……何でお前がここに?」

「お前だなんて、失礼ね。 予め桃子と約束していたのよ」

「そういえば、啓人には言ってなかった。 美門が今日、家に来るって」

「そ、そうだったのか……」


……もしかして、二人は結構仲が良いのだろうか。 でも、さっきの騒がしさは、楽しくお喋りしているという感じではなかったような……。


「……ところで二人は何してたんだ? 何か騒がしかったけどさ」

「別に、たいしたことはしてないよ。 わたしたちは、ゲームをしてたの」


 桃子の方を見てみると、何やら携帯型ゲーム機をプレイしていたようだ。 対戦が可能なレースゲームらしい。

 

「へー……。 何か意外だな、二人がゲームで遊ぶだなんて」

「別に意外でもなんでもいいけど、わたしはただ、桃子と勝負がしたかっただけよ」

「桃子と、勝負……?」


 何となく、話が見えてきたような。

 

「そうよ! 勉強でも運動でも、この前のプールでの競泳だって、わたしが桃子に負けているのよ。 それって、とても悔しいじゃない」


 そりゃ、負けたら悔しいだろうが、蟻塚の場合は対戦相手が悪すぎる。 桃子に勝とうだなんて。

 

「それで、桃子とゲーム対戦をしたわけか」

「うん。 美門があまりにもしつこかったから、勝負を受けてあげることにしたの」

「で、結局蟻塚が負けたと」

「……よくわかったわね。 そうよ、わたしは負けたのよ!」


 いや、わかりやすすぎるだろう。 蟻塚の場合、勝っていたらもっと機嫌良くなっていそうだし。


「でもまだ一回しか勝負していないの。 だから、もう一回戦しようって言ってるのに、桃子がそれに応じようとしないのよ!」

「……そりゃ、またどうしてだ、桃子?」


 これからすぐに予定があるのならともかく、元々遊ぶつもりで集まったのなら、ゲームの相手くらいしてやればいいのに。 その方が、蟻塚も大人しくなりそうだ。

 

「……あまりにも実力差がありすぎて、面白くないから……」


……なるほど。 桃子だって、ゲームをやるからには楽しみたいと思うらしい。

 けれど、こんな言い方をしたら……。

 

「っ……! 随分と上から目線じゃない! 確かにあなたは勉強でも運動でもゲーム対戦でもわたしより上よ。 だけど、わたしだってあなたに勝っている部分はきっとあるわ!」

「……別に、わたしは美門と競い合ってるつもりもないし、わたしが美門より全ての点において優れているとも思っていないんだけど……」


 心底面倒くさそうに蟻塚の相手をする桃子。 見たところ、桃子は蟻塚から勝手にライバル視されているようだ。

 

「あなたの意見はどうでもいいのよ。 ただ、ハッキリさせたいじゃない。 どの点でわたしがあなたより上なのか」

「……わたしはそれこそどうでもいいんだけど。 でも、一つ言っておくと、誰から見ても美門がわたしより勝っている点は、ちゃんとあるよ。 ね、啓人?」

「え」


 この場にいるのだから、話を振られても仕方ない。 が、いきなりだったので、どうしたものかと戸惑ってしまう。

 

「な、何よ、あなたより勝っている点って……。 人見啓人! 知っているのなら、答えなさい!」

「そ、それはだな……」


 桃子と蟻塚の一対一の構図から、何故か俺と二人の一対二の構図に変わっていた。

 どういうことかと言うと、俺は今、桃子と蟻塚から期待の眼差しを向けられているのであった。 どうしよう、すごく逃げ出したい。

 

「ほら、あれだ……」

「あれ? あれって何よ」


 誰から見ても、桃子より蟻塚の方が上回っている要素。 それは……!

 

「身長だよ、身長! 蟻塚の方が桃子より身長高いだろ?」

「………………」


 不味い。 解答をミスったか……!? 何だかとても気まずい空気が漂ってきているような……。

 

「……そうね。 そういえば、わたしの方が少しだけ身長が上ね」


……あれ? 大丈夫っぽいぞ? これでひとまず安心か。


「他には何かないの? ちょうどいいわ、せっかくあなたがここにいるんだから、男性視点でわたしが桃子より上回っている点を挙げてみなさいよ」

「他に……!?」


 なんてこった。 これで終わりかと思いきや、調子に乗った蟻塚から更なる要求が……!

 

「……えっと……」


 正直に言うと、俺は答えようとすれば答えることが可能だった。 でも、それをこの二人の前で答えることは、色々な理由があって難しい。

 

 だって、なあ……。 

 誰から見ても明らかで。

 恐らく多くの男性からすりゃ、長所と捉えられるものが……。 蟻塚には、あるじゃないか。

 

「……無理だ。 俺には答えられないよ」

「何よ、それ……! 答えがあるのなら、答えなさいよ!」


 身を乗り出し、俺へと迫る蟻塚。 その大きな胸がたゆんと揺れる。 まるで、俺の心を惑わすかのように。 つい、目を奪われる。


「……啓人、目つきがいやらしい」

「まさか、あなた……!」


 どうやら俺の視線に気づいてしまったようだ。 これは、不味い……!

 

「……まあ、いいわ。 わたしも少しは大人になったのよ、ちょっと見られたくらいでイライラするだなんて、馬鹿らしいじゃない」

「……蟻塚、お前……」


 ちょっと感動。 あの蟻塚が、ここまで余裕を持った大人になってくれたとは。 

 

「……だからって、ジロジロ見やがったら殴打するわよ? わたしが許すのは、あくまでたまたま見ちゃった程度なんだから」

「わ、わかってるよ……。 何というか、俺が悪かった……」

「でも、これでわかったね。 わたしより、美門の方が上回っているもう一つの点」

「……まさか、胸の大きさとでも言うんじゃないでしょうね……?」


 まさに、桃子が言おうとしているのはそれだろう。 が、蟻塚としてはあまり喜ばしい答えではない様子。

 

「そのまさかなんだけど、気に入らないの?」

「……わたしはあなたくらいの大きさの方が良かったわ。 こんなに大きくても、得することなんてないわよ……」


 と、割りと真面目な表情で言う蟻塚。 きっと、本当に得したと思うような経験をしてこなかったのだろう。


「そう? 得すること、いっぱいあると思うけど」

「ど、どうせ、エッチなこととかでしょ……? あるいは、徒競走でゴールテープを切る時くらいじゃない? そんなことであなたに勝っていても、嬉しくも何ともないわよ」


 ああ、言っていることが一瞬よくわからなかったが、徒競走のゴールをしたか否かの判定は、ゴールのラインに胸が届いたかどうかで決めるからということか。 ……なんつー限定的な長所。

 それよりも、エッチなことって……。 どういうつもりで口走ったのか知らないが、そんな桃子に餌を与えるようなことを言ってしまえば……。

 

「……エッチなこと? それって、具体的にどんなことなの?」

「えっ……!?」


 実に楽しそうな顔をして、蟻塚に質問する桃子。

 

「そっ、それは……」

「……それは?」

「どっ、どうでもいいわのよ、そんなの……! とにかく、わたしにとっては価値のないことなの!」


 顔を赤らめ、随分と慌てた様子で質問から逃れようとする蟻塚。


「……美門って、結構ムッツリ?」

「はぁぁあ!? 何を言ってるのかしら、わたしはオープンよ!」


 いや、オープンだと公言するのもどうかと思う。

 

「………………」

「………………?」


 このまま楽しく二人の言い争い(といっても、争っているように見えるのは蟻塚だけだが)を眺めているつもりだったが、蟻塚がいきなり俺の方をジーッと見始め、

 

「……良いことを思いついたわ」


 なんてことを言い出した。 きっと、良くないことに違いない。

 

「……良いこと?」


 桃子が怪訝そうな顔で、蟻塚に尋ねる。


「そうよ。 我ながら、ナイスアイデアだわ」


 そしてまた、蟻塚は俺の顔を見て、

 

「人見啓人。 あなた、明日わたしとデートをしなさい」

「………………はい?」

「………………ッ!!」


 脈絡なく、俺はデートに誘われたのであった。


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