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ウォータースライダー

 

「人見君~!」

「お?」

 

 蟻塚を置いていき、しばらく一人で流されていると、プールサイドの方から五木の声が。

 

「あれ、五木一人だけか」

 

 五木の姿を発見したので、プールから出て話しかけることにする。

 

「さっきまで八重さんと一緒にいたんですけど、ちょっと空気を読んでみました」

「え? どういうこと?」

「八重さんが鬼山さんと二人きりになれるよう、ちょっと頑張ってみました!」

「ああ、なるほどね……」

 

 恋のキューピッドにでもなるつもりなのだろう。 五木、そういうの好きそうだし。

 

「年の差カップル、いいですよね……。 これは邪魔するわけにはいきませんよね!」

 

 うっとりとした表情でそんなことを言う五木。 随分と楽しそうだ。

 

「五木は年上好きだったりするの?」

「わ、わたしですか!? わたしは、えっと……! 好きになった人が好きなタイプというか……」

「何だそりゃ……」

 

 何とも五木らしい回答。

 

「……そういう人見君は、どうなんですか!?」

「俺……?」

「はい! 是非、聞きたいです……!」

「…………う」

 

 何だろうかこのプレッシャーは。 

 実際に詰め寄られたわけでもないのに、まるで壁際にでも追い詰められたかのような気持ちになる。 この五木から逃げ出せる気がしない……!

 

「……そうだな」

 

 好みの異性のタイプがないはずはないのだが、いざ聞かれてみると困るものだ。

 そんな一言で答えられるようなものでもないような気がするし、答え方によっては五木に変な誤解を生みそうだし。 さて、どう答えたものか。 

 

「おっ、二人ともこんなところにいたのかよ」

「お?」

 

 どう答えるべきか迷っているところに、勇人がやってくる。 正直助かった。

 

「勇人か。 もしかして、俺たちのことを探してたのか?」

「まあ、そんなとこだな。 そろそろ他の場所へ移動しねーか?」

 

 言われてみれば、結構長い時間流水プールにいたような気がする。

 

「そうだな、次は造波プールでも行くか?」

「わたしは構いませんよ。 流れるプールは十分堪能しましたし」

「じゃ、決まりってことで。 ところで勇人、蟻塚と桃子のことも探してたりするのか?」

「あの二人は放っておけばいいだろ。 人見が探したいって言うんなら、俺は止めねーけどな」

「じゃあ放っておくか。 二人も単独行動の方が好きそうだし」

「だな、それがいいと思うぜ」

「うん。 わたしもそれが、いいと思う」

「………………」

「………………」

 

 まさに神出鬼没。 声のする方を振り向くとそこには、桃子がいた。

 

「えっと……」

「待って、啓人。 何も言わなくていいよ」

「………………?」

「わたし、単独行動が好きだから。 わたしのことは気にしないで、いいよ」

 

 思いっきり聞かれていた。 言い訳の余地なしである。

 

「そうは言っても……なぁ?」

 

 と言って勇人と五木に同意を得ようと試みるが、

 

「………………」

「………………」

 

 二人とも目を逸らしやがる……! この薄情者め。

 

「啓人、本当にわたしのことは気にせず、三人で遊んできていいから」

「桃子はその間、何を……?」

「啓人のストーキング」

 

 気にせずに遊べるわけがない。

 

「ストーキングはやめようか」

「安心して、先っぽだけだから」

「うん、意味がわからん」

 

 結局、今度高級菓子を献上するという約束により、桃子の怒りを何とか鎮めた俺。

 そして、流水プールに流され続けているシャチと蟻塚も回収し、俺たち五人は造波プールへ向かうことになったわけだが。

 

「一時間に一回しかやらないんだな」

「そんで、一回十分だとよ。 まあ、あんまり長いよりはいいんじゃねーか?」

「あっ、そろそろ始まるみたいですよ!」

 

 いざ、造波プールを体験してみると、何というか……。

 

「……どうだった、五木?」

「面白かったですよ! あんな風に波を起こせるものなんですね」


 確かに面白くはあった。 面白くはあったんだ。 だが……。

 

「勇人はどうだったよ?」

「悪くなかったな。 でもよ、もっと刺激が欲しいとは思わねえか?」

 

 勇人の言うとおり、刺激が足りなかったのだ。

 

「勇人。 お前なら同じことを考えていると思っていたぞ……!」

「やっぱ人見も同意見みたいだな」

 

 相変わらず勇人とは気が合う。 

 

「そんなお二人さんにちょうどいいものがありますよ!」

「……ん?」

 

 五木が指をさす方を見てみると、

 

「ウォータースライダーか……」

 

 そこにはウォータースライダーが。 水の流れるながーい滑り台を滑り落ちる遊戯施設だ。 

 時計を見てみれば、プールで遊ぶ残り時間もそんなにあるわけじゃないし、せっかくだからウォータースライダーを楽しむのもいいかもしれない。

 

「……よし、あれで遊ぶか!」

「いいぜ、人見。 滑る前に逃げ出すなよ?」

「当然だ」

 

 あれなら強い刺激を得られること間違い無し。 

 

 そう確信してウォータースライダーに辿り着いたのはいいものの、

 

「……これ、思っていたよりも、だいぶ危ないんじゃ……」

 

 まず、スタート台がだいぶ高い。 遠くから見る分にはそこまで高いとは思わなかったが、実際にその場に来てみると、ここまで高いのかと尻込みしてしまう。

 それに、滑り台の形状がとぐろを巻いていて、チューブの中を滑り落ちるタイプではないから、途中でコースアウトするんじゃないかと不安になってくる。 

 こうやってウォータースライダーで遊べるってことは、過去に大きな事故が起きたわけじゃないんだろうけど、だからといって安心できるものでもない。

 

「人見君? どうかしたんですかー?」

 

 俺の次に滑る五木が心配そうに声をかけてくる。 あんなに張り切っておきながら、やっぱ滑りませんじゃ格好がつかない。 ここは、覚悟を決めてやろうじゃないか。

 

「よし、行くぞ……!」

 

………………。


……………………。


…………………………。

 

「……し、死にそう……」

 

 より強い刺激が欲しい。 そんなことを言っていた俺が馬鹿だった。

 どうやら俺にはこういう遊戯施設は向いていないようだ。 途中、絶叫していたことや、脳が萎縮しそうなほどの恐怖を味わったことだけは覚えている。 それくらいに恐ろしい体験だった。

 

「……は、勇人……!?」

「…………し、死ぬ……」

 

 俺の少し後に滑った勇人も、俺と同じく死にそうになっていた。 本当に気が合うな。 色んな意味で。

 

「何よ、二人ともだらしないわね」

「ぐっ……!」

 

 勝ち誇った顔をした蟻塚が、俺たち二人の惨めな有様を見に来る。 何という屈辱。

 

「啓人、こういうの苦手なんだね。 可愛い」

「何で桃子たちはそんなに平気なんだ……」

 

 蟻塚も桃子も俺と同じウォータースライダーを滑ったというのに、ピンピンしておられる。

 

「人見君、大丈夫ですか?」

 

 俺のグッタリぶりを見て心配になったのか、五木が近くに寄ってくる。 五木も元気そうだけど、まさか……。

 

「……五木は何ともないのか?」

「啓人、紗羽さんはね、もう三回も滑るくらいこのウォータースライダーを気に入ったみたいだよ」

「………………」

 

 男としてのプライドがズタボロにされた、一夏の出来事であった。

 

 

 

 そんなこんなで、楽しかったプールの時間も終わりが近づき、

 

「そろそろ帰る時間ですかね?」

「だな。 鬼山さんたちを見つけ次第、帰り支度をするか」

 

 午後からどこにいるのかわからない鬼山さんと蕭条さんを探すことに。

 

「二人の仲、進展してますかね……!?」

「五木、ホントそういうの好きだな……」

「だって、気になりませんか、あの二人の関係性!」

「それは、まあ……」

 

 言われてみれば、俺もあの二人については知らないことが多い。 

 どのような経緯で魔術師となり、どうしてあの二人が組んでいるのだろうか。 どこか、釈然としない部分がある。 以前の家守恭介との電話もあって、余計に。

 

 とは言っても、俺が見たところ、二人とも信頼できる人物であることには違いないだろう。 桃子に対して何か企んでいるようにも思えないし、俺に何かしようとも思って無さそうだ。

 

 だとすれば、この違和感は、一体……?

 

「人見君……?」

「ん? ああ、悪い悪い、ちょっとボーっとしてた」

 

……今は余計なことを考えている場合じゃないな。 とにかく、俺たちはネアレスを倒さなければいけない。 二人の関係性がどうだとか、考える必要はないんだ。

 

「こんなところでボーっとしていたら危ないですよ? ……あっ、あれって、八重さんたちじゃありませんか?」

「お、ホントだ……」

 

 無事二人を発見する。 二人も俺たちに気がついたようだ。

 

「二人が見つかったことだし、俺は桃子たちを呼んでくるよ。 五木は二人と一緒に管理棟前に行っててくれ」

「はい、わかりました!」

 

 五木と一旦別れ、桃子たちの元へと向かう。

 

 最初は俺を含め七人もいて、どうなるものかと思っていたが、何とも楽しい時間だった。

 またこうやって遊ぶことができればいいなと気の早いことを考えながら、俺はプールサイドを歩み続けた。

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