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深夜のファミレス

 

 魔物についての調査をするにあたって、生死問わず魔物を捕獲しておきたかったわたしたちだけれど。

 

「……砂だな」

「……砂ですね」

 

 砂のようになってしまっては、どう調査したらいいものか。

 わたしたちの組織に高度な科学力のある協力者などいないのだから。

 

「まあ、魔物は無事倒せたんだ。 眼鏡には逃げられたが、しょうがない。 深追いはNGだ。 何より、俺たちもそれなりに消耗しているからな。 ……全ては回収できないが、この砂を少しだけ持ち帰るか」

「……はい」

 

 と返事をした直後、ぺたんと地面にお尻を付き、座り込むわたし。 

 心身共に無理をしすぎたのか、体に力が入らない。 生まれたての子鹿よりもうまく立てそうにない。

 

「……大丈夫か? うまく歩けないのなら、肩くらい貸してやる」

「えっ……!?」

 

 こんな状態のわたしを目の前にしたら、そのくらい提案してもおかしくはない。 

 でも、肩を貸すってことは……。

  

「それともなんだ、おぶってもらわないと移動できないほど消耗しているのか?」

「そっ……そんなことはないです! 大丈夫です!」

「……本当か? 俺の経験上、大丈夫って言う奴は、大抵大丈夫じゃないんだ」

 

 おんぶしてもらったら楽だろうけど、流石にしてもらうわけにはいかない。 恥ずかしすぎる。

 

 でも、真面目に考えてみると、鬼山さんの立場からすれば、いち早くホテルの方へ戻って休息し、明日からのことを考えて態勢を整えておきたいはずだ。

 

 わたしがこんなところで強がったり恥ずかしがったりしてモタモタするのは良くない。 

 だからせめて、肩くらいは遠慮無く貸してもらおう。

 

「か、肩だけ貸してもらえれば……」

「ああ、わかった。 ほらよ」

 

 鬼山さんに支えられ、なんとか立ち上がるわたし。 

 全身の力が入りにくい為、だいぶ鬼山さんに体重をかけてしまっている。 

 鬼山さんも相当疲れているだろうに、申し訳ない気持ちになる。

 行きとは違い、酷く消耗した状態で街の方へと歩いて行くわたしと鬼山さん。


 わかってはいたけれど、肩を貸してもらうってことは、密着するということ。

 

「………………!」

 

 近い……! 

 思いっきり、体が当たっている。 

 鬼山さんの体温を感じる。 

 それに、匂いも……!

 

 落ち着くんだか落ち着かないんだか、よくわからないゴチャゴチャとした気持ちになる。

 聞こえるのは、わたしたちの足音と、虫の鳴き声と、自分の心拍音と、鬼山さんの呼吸音。

 

 変に意識すると、なんだか緊張してしまう。 顔が熱い。 沈黙が気まずく感じてくる。

 

……何か話しかけて気を紛らわせようか。 このままだと、街についた後、鬼山さんから話しかけられて冷静に対応できる気がしない。


「あの……」

「ん?」

  

 何を話すか考えていなかった……!

 この際、どんなくだらないことでもいいから話す内容を考えなきゃ。 疑問に思っていることを聞いてみるとかでもいい。 何か気になることがあったような……。

 

「……どうした?」

「え、えっと……。 そっ、そういえば! 瀬宮せみやさんってどんな人なんですか?」

 

 瀬宮さんは、施設の魔術師の一人だ。 

 わたしはまだ、直接会ったことはないが、何でも探知魔術のスペシャリストらしい。

 現在、わたしたちの捜索方法は、まず瀬宮さんが探知魔術により大まかな範囲の特定をし、その範囲をわたしたちが捜索するといった流れになっている。

 

「瀬宮か。 そういえば、蕭条は会ったことがなかったな」

 

 わたしが直接会ったことがないのには、理由がある。 

 それは、瀬宮さんはどこかに身を潜めているからだ。

 なぜなら、探知魔術自体が貴重なもので、それを得意とする瀬宮さんがいなくなってしまっては困るからだとか。 

 

 当然、わたしたちのように現場へ赴くことはない。 

 どこか安全地帯に引きこもり、ひたすら探知魔術を発動する。 

 それが瀬宮さんの仕事ということになる。

 

「瀬宮がどんな人間か……。 そうだな、あいつは一言で言えば……」

 

 鬼山さんは少し考え込んだ後、

 

「……とにかくうるさいやつだ」

 

 と言った。

 

「うるさい、ですか?」

「ああ。 とにかくうるさい。 お前もそのうち、通話してみるといい。 俺の言っている意味がよくわかるぞ」

「は、はぁ……」

 

 うるさいと形容される人物と通話したいとは思わないわたしであった。

 

「ところで、この後の予定だが……。 まず、ホテルへ戻る前にどこかで食事を済ませるぞ。 幸い、服がボロボロになったわけじゃない。 目立つ汚れさえなんとかすれば大丈夫だろう」 

「わかりました。 ……どこかって言っても、どうせ牛丼屋かどっか何ですよね」

「俺だってずっと同じものを食べるのは飽きる。 たまには蕭条の希望くらい聞いてやるぞ。 あんなに盛大に吐いたんだからな、食べたいものを食べるのがいいだろう」

「なっ……!?」

 

 せっかく忘れようとしていたのに……!

 

「わたしだって、吐きたくて吐いたわけじゃないんですからね! 必死に我慢したんですよ、あれでも!」

「我慢してどうこうなるものじゃないってことだな。 急に吐き出すからびっくりしたんだぞ。 せめて吐く前に予告でもしてくれればな。 今から十秒後に吐きますよって」

「できるかっ!」

 

 すっかりいつもの調子に戻ったわたしたちは、途中休憩も挟みながら街へと近づいていく。 


 すると――。

 

「ファミレスがありますね」

「ファミレスだな。 ここにするのか?」

 

 正直な話、わたしはだいぶお腹が減っていて、早く食べ物を胃に収めておきたいと思っている。 お腹が空きすぎて気持ち悪い状態だ。 

 つまり、なんでもいいから早くご飯食べたい。

 

「ここにしましょう」

 

 幸い、まだ今なら深夜料金は発生しない。  

 

「もう一人で立って歩けるか?」

「少しの距離だったらなんとかなると思います」

 

 戦闘が終わってから時間が経過しているのもあって、幾分か体力は回復したようだ。 

 何より、帰り道を歩く際、鬼山さんに支えてもらっていたのが大きい。

 

「じゃあ、離すぞ」

 

 レンタルしていた肩を返却。 支えなしで立つ。 

 まだ、全身に力が入りにくいけれど、店内へ入って席まで歩くくらいなら問題なさそうだ。

 

「では、入りましょう」

 

 もうそろそろで深夜料金が発生するという時間帯。 

 元々あまり人が来ない場所なのか、客は少なく、店内はだいぶ落ち着いていた。

 

 友人と駄弁っている学生。 仕事終わりの社会人。 暇を持て余すご老人。 

 

 こんな時間帯でも色んな客層がいるものだ。 流石、ファミレス。 

 深夜まで空いていて、ダラダラのんびりできる店が他にあまり無いのだろう。

 

「いらっしゃいませぇ~。 二名様でよろしいでしょうかぁ~?」

 

 やたらと語尾が伸びた喋り方をする店員が接客しにやってくる。

 

「はい」

「禁煙席と喫煙席、どちらがよろしいでしょうかぁ~?」

「禁煙席で」

 

 鬼山さんは煙草を吸わない。 

 本人曰く、特に吸いたいとは思わないから吸わないだけだとか。 鬼山さんらしい理由だ。 

 

「こちらの席へどうぞぉ~」

 

 店員の案内した席に座る。 

 少々ふらつきながらも、なんとかここまで歩くことができた。

 

「ご注文が決まりましたら、お呼びくださいませぇ~」

 

 店員が去っていく。 

 

「さて、何を食べるか」

「………………」

 

 メニューを見る。 

 お腹がペコペコだからか、どれも結構美味しそうに見えてしまう。 今ならたくさん食べれそうだ。

 

 魔術の発動には大量のエネルギーが必要だ。 毎日しっかり食事を摂らなければならない。

 けれど、だからといってたくさん注文しまくったら、鬼山さんにドン引きされてしまいそう。

  

「よし、俺は決まった。 別に急いで決めなくていいぞ。 ゆっくり選べ」

「は、はい……」

 

 ゆっくり選べと言われても、焦ってしまう。 

 モタモタしてるとお腹が鳴りそうだし、ここは恥じらいを捨てて、明日を頑張る為にもたくさん食べることにしよう。

 

「わたしも決まりました」

「じゃあ、押すぞ」

 

 鬼山さんが呼び出しベルを押す。 店内に響き渡る呼び出し音。 

 

「失礼致しますぅ~。 ご注文をお伺い致しますぅ~」

 

 語尾伸び店員が再登場。 

 つい、誰か喋り方に対して指摘しないのだろうかと思ってしまう。 

 

 それはともかく、注文を頼むことにする。

 

「生ハムサラダとトマトスパゲッティとマルゲリータピザと抹茶パフェを。 デザートは食後にお願いします」

「……蕭条、俺の分まで頼めとは言っていないぞ」

「全部わたしの分です」

 

 嘘だろ……と言いたげな顔をする鬼山さん。 わたしは恥じらいを捨てたのだ。 こんなくらいじゃ挫けない。

  

「そ、そうか……。 じゃあ俺は和風ハンバーグセットを一つ。 以上で」

 

 注文を復唱し、内容をキッチンに伝える為、去っていく店員。

 

「まだ料理は来ていないが、今のうちに整理しておくべきことを整理しておくか」

「そうですね」

 

 水の入ったコップから口を離し、喋り始める鬼山さん。

 

「まず、俺たちは各所で目撃されている魔物を探す為、瀬宮の指示した地点に行き、魔物を捜索していたわけだが……」

「見事、魔物に会うことができましたよね。 倒しちゃいましたけど」

「……だが、魔物に会えたところで、謎は深まるばかりだった。 魔物は全部で何体いるのか。 どうやって生まれたのか。 何が目的なのか。 実際に対峙して、あの凶暴さを見て、それでも表立った事件が起きていないのはどういうことなのか。 ……もしかすると、東日本連続猟奇殺人事件に関係があるのかもしれないな」

 

 東日本連続猟奇殺人事件。 人の手ではありえない殺人。 

 確かに、魔物が関わっている可能性は高いのかもしれない。

 

「それにしても、あの双頭の魔物……。 まるで、ゲームや漫画でよく見るファンタジー世界の敵モンスターみたいでしたね。 倒してもお金は落としませんでしたけど」

「敵が直接落とす類のゲームじゃないのかもしれないな。 後で銀行口座に振り込まれたり……」

「ホントにそんなシステムだったら最高なんですけどね……。 ともかく、あの眼鏡の男の人をひっ捕まえて問いただしたりでもしない限り、魔物についての真相はわかりませんね。 また魔物探しからやり直しですか……」

 

 疲れすぎて忘れていたが、喉が渇いたことを思い出し、水を飲む。 

 喉から胃の辺りまでひんやりと冷たいもので満たされる感覚。

 

「蕭条。 気づかないのか? あの眼鏡、俺たちに中々大きいヒントを与えてくれたじゃないか」

「えっ? 何かありましたか?」

 

 なんだろう。 そもそも、あの眼鏡の男の人自体がわたしたちにとって謎すぎるのに。 

 魔術を使っていたことから魔術師であることは確かだけれど、あんな人は鬼山さんもわたしも知らない。

 

 つまり、わたしたちとは違うルートで魔術を知った人物ということになる。

 

「お前の眼は節穴か。 あの眼鏡、氷属性の魔術を使っていただろう?」

「使っていましたね」

「連続猟奇殺人事件において、体の一部が氷漬けになって発見された遺体があることを、覚えているか?」

「あっ……」

 

 そういえば、そんなことをどこかで聞いたような気がする。 

 遺体の状態だなんて話、あまり聞きたいものではないが、これだけそこらじゅうで話題になっていると、嫌でも耳に入ってしまう。

 

「もちろん、液体窒素でも使えば人体を氷漬けにするくらい可能だろうが、わざわざ液体窒素を使って人を殺す理由がわからないだろう?」

「わかりませんね……」

「だが、俺たちのような魔術師から見ればどうだ。 俺たちは、魔術を使って人を殺したと想像することができる……。 犯人はわざわざ氷漬けだなんて変わった方法を選んだんじゃない。 攻撃手段そのものが、相手を氷漬けにするものだったとな」

「……氷属性魔術による、攻撃……!」

「そうだ。 つまりあの眼鏡の男は、東日本連続猟奇殺人事件の犯人である可能性が高い――」

 

 確かにこれは、大きいヒントだ。 これで、色々なことが繋がる。

 

 眼鏡の男が使った魔術は氷属性。 氷で殺人が可能だということ。 わたしたちだからこそ辿り着く結論。

   

「……これは大変なことになりましたね……。 わたしたちが今まずすべきことは、東日本連続猟奇殺人事件についてもっと深く調べること、ですかね……」

「その通りだ。 できることなら、今すぐにでも調べたいんだがな……。 残念ながら俺のスマホはホテルにある」

 

 わたしたちは雷属性魔術を使う関係上、身につけた電子機器を壊す可能性が高い。

 

 だから、わたしこそスマホを持ち歩いてはいるものの、鬼山さんはいつもスマホをホテルなどに置いてきたりする。 二人共スマホが使えなくなるのを避けるためだ。

 

 よってわたしたちは、別々で行動すると再会するのが大変なので、できる限り一緒に行動することが決められている。

 

「お前のスマホで調べてもいいが、充電の残りはそう多くないだろう。 そういうわけで、今、俺たちにできることは腹をしっかり満たすことくらいだ。 その意味でお前がたくさん注文したのは悪いことじゃない」

「は、はぁ……」

「だがな、俺たちはなるべく節約したいんだ。 ホテルだって安く済ませようとしているしな。 成人女性に一日必要な摂取カロリーがどれほどか知らないし、そもそもお前は成人していないわけだが、いくら魔術を使用したからといって、そんなに食べる必要があるのかと言いたい」

 

 鬼山さんに呆れた顔でダメ出しされてしまう。 何か不服。

 

「……わたしには必要あります」

「どちらかというと華奢なお前にか?」

「わたしは燃費が悪いんですっ! それに、いつも鬼山さんの希望どおりにファーストフード店ばかり行ってるんですから、たまにはこれくらいの贅沢、良いじゃないですか! あんな、そこまで美味しくないお腹を満たすだけみたいな食事……。 あれは、言うならば餌です!」

 

 全国のファーストフード屋さん、ごめんなさい。

 

「俺にとって食事は、安く手早く腹を満たせるのが最善だからな。 まったく、人間が食事の必要のない生物だったらどんなに楽だったことだろうか……」

 

 そんな生物になってたまるか。 

 鬼山さんは食という行為が面倒くさくてしょうがないと感じている人間らしい。 理解不能。

 

「わたしは食事が必要な生物として生まれた以上、食という行為を楽しみたいんです。 その為ならある程度の出費くらいいいじゃありませんか! そもそも、鬼山さんのチョイスだって必ずしも節約できてるとは限らないですし」

「それは、自炊か何かをしたほうが安いだろということか? 自炊の方が高くなる場合も多いだろうが……まあ、栄養に関しては確実に自炊の方が摂れるんだ、費用対効果は自炊の方が良いに決まっているだろうな。 だが生憎、俺は調理なんて行為に一秒も使いたくない人間なんでね。 それはありえない」

「………………」

 

 この人、駄目な人だ。 そう思ったわたしであった。 

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