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人見啓人は人見知り

 

「……さて、まずは二人の治療でもするか」

 

 蟻塚美門の率いる魔物たちとの戦闘は無事終了し、俺たちは桃子と俺が住んでいる家のリビングにいた。

 あのまま運動公園に居続けてもしょうがないので、とりあえず家へ移動したというわけだ。 家の中の方が、何かと都合が良い。

 もちろん、蟻塚美門も連れて。 ……あのまま運動公園に放置するわけにもいかないしな。

 

「啓人、回復魔術が使えたんだ」

「ああ。 一応上級魔術だけど、一人ずつにしか使えないから、そんなに性能が良いわけでもない」

 

 最初に、男の方の傷を治癒する。 

 傷のある箇所に手をかざし、回復魔術を発動する。 青白い光が、手に灯る。

 

 次に、女の方の傷を治癒する。 

 先に治癒した男ほど傷を負ってはいないが、随分と疲れている様子だ。 無理もない。

 

「よし、これで大丈夫なはずだ」

「凄い……。 治ってる……」

 

 二人とも完治した様子。 で……。

 

「……蟻塚は治療する必要ないよな」

「そうね。 わたし、傷は負っていないもの。 それよりも、あなたたちのことについて知りたいわ。 早く教えなさいよ」

 

 こいつ、まったく反省していないな……!


「なるほど、頭の治療が必要か」

「……殴打するわよ?」

 

 とはいえ、ちょうど二人の魔術師も来ているわけだ。 俺についての話をするのも悪くない。 

 何より、蟻塚はネアレスと出会っている。 魔人のことについて知っておいた方が良さそうだ。

 

「啓人。 とりあえず食事の用意をしようと思うけど……」

「それはありがたいな。 是非頼む」

「その間、軽く自己紹介でもしててね」

 

 と言って台所の方へと去っていく桃子。


「……えっと」

「…………………」

 

 桃子め……! 俺が人見知りだと知っておきながら……!

 けれど、これから同居する人物について何も知らないのも気持ちが悪い。 ここは素直に自己紹介をしておこう。

 

「……紹介が遅れてしまったな。 俺は鬼山竜紀おにやまたつき。 今年で二十六歳になる。 主に使うのは、雷属性魔術だ。 どれほどの期間世話になるかわからないが、よろしく頼む」

 

 モタモタしている間に、先を越される。 この人物が、あの桃子が優秀だと評する鬼山竜紀か。 

 スラッとした高い背丈に、整った顔立ち。 そこはかとなく漂うミステリアスな雰囲気。 この人物は、一体どのような人生を歩んできたのだろう。 非常に気になる。

 

「えっと、わたしの名前は蕭条八重しょうじょうやえ。 鬼山さんと同じく、雷属性魔術を主に使うわ。 歳は十九。 さっきは助けてくれて、ありがとうね」

 

 もう一人は、わりと歳が近いようだ。 桃子は五木と同じくらいの身長だと言っていたが、こうして近くで見てみると、五木より若干背が低いことがわかる。


……それにしても、年上に見えない。 比較対象が、蟻塚や桃子だからか?

 

「俺は人見啓人。 十七歳だ。 えっと……」

「………………?」

「……二人は年上だし、敬語を使った方が良いのか?」

 

 今更遅い気もするが、一応確認。

 

「わたしは別に、敬語じゃなくても気にしないけど……」

「俺も構わん」

 

 良かった。 頭の中でわざわざ敬語に変換して喋るのは面倒だからな。 

 

「わたしには敬語を使ってもいいわよ」

 

 蟻塚が何やら言ってるけど、無視しよう。

 

「……桃子から俺のことを聞いていたかわからないけど、俺は魔人と呼ばれる存在なんだ。 魔人だなんて言われてもよくわからないと思うから、魔人について説明する前に……」

「ねぇ。 無視なんて酷いんじゃない? わたし、重要参考人なんでしょ? 丁重に扱いなさいよ」

「……あのな、お前は現行犯でもあるんだぞ」

「現行犯? わたしが何をしたって言うのよ」

 

 蟻塚がここまでだとは……。 ここはビシっと叱ってやらなければ。

 

 と思っていたら、

 

「何をしたって……。 わたしたちを殺そうとしておきながら、よくそんなことを……!」

 

 蕭条八重が先に怒り出してしまった! これはマズい。

 

「わたしは殺そうとなんかしてないわよ。 殺そうとしていたのは魔物でしょ」

「まだそんなことを……! この、ゴスロリ女!」

「ええそうよ、わたし、ゴスロリ女ですが何か?」

「何その態度! そもそもわたし、年上なんですけど!?」

「年上に見えないわね。 精神的にも肉体的にも」

「肉体って……! 聞き捨てならないんだけど!」

 

……精神的に年上に見えないってのは良いのか。

 

「だって、事実でしょ? 誰がどう見ても、わたしの方が発育が良いと言うに決まってるわ」

 

 た、確かに……。 具体的にどこがとは言わないが!

 

「ぐ……! せ、成長途中だから……」

 

……十九歳でその言い訳は厳しい。

 

「老化途中の間違いじゃなくて?」

 

 蟻塚……。 お前、度胸ありすぎだろ。

 

「何ですって……!! いいわ、魔物を失ったあんたなんて、怖くないんだから! 表へ出なさい!」

「嫌よ。 勝てないとわかっていて戦うほど、愚かじゃないわ」

「~~~~~~~~ッ!!」

 

……このままだとバトルが始まりかねない。 そろそろ止めなければ……。

 

「おい、蕭条」

「何ですか鬼山さん! わたし、今取り込み中なんですけど!?」

「……気持ちはわからんでもないが、少し落ち着け。 今から重要な話が聞けるかもしれないんだぞ。 喧嘩をするなら明日にしろ」

「ぐ……。 ……それもそうですね。 えっと……、人見啓人君? 話、止めちゃってごめんね」

「いや、悪いのは全部こいつだから、蕭条さんは謝る必要ないよ」

「……フフン」

 

 フフンってなんだよ。

 とにかく、鬼山さんのおかげで何とかなった。 気を取り直して……。

 

「魔人について説明する前に、二人は魔物についてどこまで知っているんだ?」

「魔物が魔術に反応して凶暴化したり、死ぬと黒ずんで砂みたいになるのは知ってるけど……。 魔物の正体については……」

「じゃあ、質問を変えよう。 魔物の正体は一体、何なんだと思う?」

「……俺は第二世界の生命体だと考えているが、どうだ?」

 

 第二世界についても知っているのなら、話は早い。

 

「正解だ。 魔物は第二世界の生命体。 第二世界の人々は、魔物の脅威と日々戦っている」

「第二世界? 何よ、それ……」

 

 面倒くさいが、蟻塚にも簡単に説明してやるか。 無関係ではなくなったわけだし。

 

「この世界とは別の世界だよ。 異世界ってやつか」

「……妄想じゃないわよね?」

「蟻塚の使っていた魔術や、操っていた魔物たちは妄想だったか?」

「……どうやら信じるしかないみたいね」

 

 信じてくれるみたいだ。 というか信じるしかないよな。

 

「話を続けると、そもそも何で第二世界に魔物が誕生したかというとだな……」

「人を殺す為、だろう?」

 

 あれ……?

 

「……違っていたか?」

「いや、その通りなんだけど……。 何故それを知って……」

「運動公園での話を聞いていたからな」

 

 そういえば、そうだった。 蟻塚にそんな話をしていたな。

 

「そこで気になったんだが、何故魔物たちが人を殺す為に生まれたと断言できるんだ? 魔物に人の言語が扱えるわけでもないだろう? ならば、魔物が人を殺す為に作られたと誰が伝えたんだ?  それとも、魔物は人が作ったとでも言うのか?」

 

 次々と疑問をぶつけられる。 中々の鋭い指摘だ。

 

「それについて話す前に、魔物がどうして人を殺そうとしているのか、その理由を説明するよ。 蕭条さん」

「はい?」

「さっき、魔物が魔術に反応して凶暴化すると言っていたけど、どうしてそんな習性が魔物にあるんだと思う?」

「それは……。 魔術が、嫌いだからとか?」

 

 適当に答えたのかもしれないが、そう間違っていない。

 

「ある意味正解だ。 魔物にとって、人が魔術を使うだなんてことは、許されざることなんだ。 そもそも、人に魔術が使えてしまったこと自体、何かの間違いみたいなもので、その間違いを正す為に魔物は生み出されたんだ」

「生み出された? やはり、魔物は何者かに作られた生命体なのか」

「ああ。 作られたって言っても、作ったのは人じゃない」

「人じゃないだと? それじゃあ、一体……」

「神。 と言うのが、一番適切な表現だろうな」

「神だと……?」


 毎度、神だなんて言葉を使うのには抵抗があるが、仕方ない。


「俺を含め、魔人なんかは『星の意思』とも呼んでいるけどな。 神と呼ぶにしろ、『星の意思』と呼ぶにしろ、あれが人の理解の範疇を超えた存在であることは間違いない。 俺だって、あれが自ら動けず、可能性の塊でしかないことがわかっているくらいだ」

 

 最も、あれの化身である存在もいるにはいるが、話が脱線しそうだからここで話すのはやめておこう。

 

「何だか、凄い話になってきたじゃない」

 

 これからもっと凄い話になるんだけどな。

 

「これまでの話を整理すると、人が触れてはいけなかった魔術の力を手に入れた人間に裁きを与える為、神が人を殺す生命体である魔物を生み出した。 そういうことでいいのか?」

「ああ。 ここまで話してようやく魔人の話ができる。 もうだいたい予想できてると思うけど、第二世界の人々は魔物に対抗する為、更に魔術を発展させて戦力を強めていったんだ。 そして、魔物の数は減っていった。 これでおしまいなら良かったんだが、そんな人間たちに対抗すべく、人を滅ぼす為の存在がまた新たに誕生してしまったんだ」

「まさか、それが……」

「そう。 それが俺を始めとする、魔人と呼ばれる存在だ。 正直言うと、人とほとんど変わらないんだけどな。 生まれつき魔術専用の器官があったり、ちょっと特殊な能力があるくらいだ」

 

 流石に衝撃的な事実だったのか、愕然とした様子を隠せない二人。 ……いや、三人か。 蟻塚もそれなりに驚いている。

  

「失礼を承知で聞くが、魔人が人を滅ぼす為の存在と言うのなら、君は俺たちにとってとても危険な存在なんじゃないのか?」

 

 失礼だなんてとんでもない。 その辺りもちゃんと話しておきたかったところだ。

 

「それなんだが、俺は確かに魔人だけど、人を殺してやろうという気は一切ないんだ。 別に殺人は、食事や睡眠のように生きる為必要な行為というわけでもないし、『星の意思』の影響を強く受ける第二世界と比べて、こっちの世界ではその影響もほとんどない。 人混みや他人の視線なんかは苦手だったりするけど、それは単純に対人恐怖みたいなものだから、殺してやろうとまで発展はしない」

「そうか。 なら安心だが……」

 

 と言いながらも、表情は安心した様子ではない。 当たり前か。


「……まあ、こんな風に言われても信じられないとは思うけど、俺は桃子たちに協力したいと本気で思っている。 そのことを、これから行動で証明していきたい。 具体的に言うならば、元凶を探し出し、抹殺する。 こればっかりは、魔術師だけでどうにかするのは難しいからな」

 

 少々物騒だが、あいつをどうにかするならば、殺すくらいの覚悟じゃないといけない。 そのことを、この二人にもわかってもらわなければ。

 

「元凶を探し出し、抹殺するだと……?」

「元凶って、まさか……」

「ネアレスのことね」

 

……そういえばいたな。 元凶である人物に力を与えられたのがここに。

 

「その通り。 蟻塚、お前に力を与えた奴が全ての元凶だよ」


 それにしてもネアレスの奴、わざわざ蟻塚に名前を言うとはな。 蟻塚とどんな会話をしていたのだろうか。

 

「……ネアレスというのは一体何者なんだ?」

「ネアレスは俺と同じく、第二世界からこの世界にやって来た魔人だ。 俺もつい最近、ネアレスがこの世界に来ていることを確信したんだけどな」

「今は仲間というわけじゃ……」

「ないな。 そもそも、同じ魔人だからといって、そこまで仲間意識があるわけでもないんだ。 一応説明しておくと、第二世界には俺を含めて十人の魔人がいる。 でも、この十人皆が皆、仲良いわけでもない。 魔人とはいえ、人とほとんど変わらないからな。 たった十人でも、気の合う気の合わないはある」 


 性格はもちろん、人類を滅ぼすやり方についても意見が食い違うことがあった。 魔人は一枚岩ではないのだ。


「そして俺は、ネアレスとあまり仲が良くなかった。 つまり何が言いたいかというと、俺はネアレスと戦うことに対して抵抗はないってことだ」

「そうなのか……」

 

 半分くらいは納得してくれたようだ。

 

「……えっと、君がわたしたちの味方として、ネアレスという名前の魔人と戦ってくれるのはわかったけど、そもそも何で君は、こっちの世界に来ることが出来たの?」

 

 正直めんどくさい質問だ。 答えるのに色々と説明する必要が生じる。 今は適当にはぐらかしておこう。

 

「運が良かったとでも言うのかな。 俺は、魔人としての使命から逃れたかったんだ。 それで、ちょうどこの世界へ通ずる『扉』を見つけたから、この世界に逃げてきたんだ」

「魔人としての使命って……」

「もちろん、人類を滅ぼすことだ。 俺はそれが嫌だった」

「待て。 魔人の使命が人類を滅ぼすことなら、そのネアレスという奴は何の為にこの世界へ来たんだ? まさか、この世界の人間を滅ぼすつもりなのか?」

「それはわからない。 俺もネアレスがどうしてこっちの世界に来たのか、何がしたいのか、よくわからないんだ。 でも、一つだけハッキリ言えることがある」

 

 あまり仲が良くなかったとはいえ、ネアレスがどういう奴だったのかはちゃんと覚えている。 あいつは……。

 

「ネアレスは、人の命を奪うことに躊躇ためらいなんて全くない。 魔人としては正しい在り方だな」

 

 だからこそ、今の状況は不気味だ。 

 あいつがその気になれば、人類史上例を見ないレベルの大量殺人さえ可能なはず。 

 それなのに、何人かの人間に力を与えるだけで、ネアレス本人が何か目立つようなことをする気配はない。 これは一体、どういうことだろうか。

 

「そんな奴が俺たちの敵だというのか……」

「東日本連続猟奇殺人事件の犯人の一人である薊海里も、そいつに力を与えられたわけよね。 そして、宇治さんたちを殺した犯人も、きっとそいつに……」

「二人が戦った魔物たちも、ネアレスが第二世界から持ってきたんだろうな。 そしてここにも、ネアレスに力を与えられた人物がいるわけだ」

 

 蟻塚を見る。 

 俺の話を信じてくれているようだが、実のところ、蟻塚はこれからどうするつもりなのだろうか。 力を与えたネアレスのことを、どう思っているのだろうか。

 

「わたしのことね。 わたしもまさか、あいつがそこまでとんでもない存在だったなんて、知らなかったわ」

「蟻塚。 お前も鬼山さんと蕭条さんに対して少しでも罪の意識があるのなら、力を与えられたことについて詳しく話してくれないか?」

「そうね。 いいわよ、別に」

「え」

 

 素直すぎて拍子抜けする。 蟻塚のことだから、もっと面倒くさいやり取りになるのかと思っていたが、そんなことはなかったようだ。


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