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絶望、後に希望


 鬼山さんは満身創痍。 

 わたしはまだ動けない上に、動けたとしても中級魔術くらいしか発動できない。 

 

 それに対し、敵の魔物は五体健在。 内一体は、防御特化の魔物。 その全てが、三種の強化魔術で強化済み。 ゴスロリ女も無傷だ。

 

……どうあがいても絶望的だ。 

 薊海里は薊海里で厄介だった。 けれど、このゴスロリ女は……? あまりにも、凶悪な力を持ちすぎている。 反則的だ。 

 どの強化魔術の効力も上級相当。 三つも重ね掛けができる上、それを一体どころか、二十体に対して使用することができる。 

 更に、強化の持続時間が長い。 未だに効力が切れていないなんて、ふざけている。 その上、回復魔術ときた。

 

 こんなとんでもない相手に、ここまでやれただけでも凄いと思う。 そうだ。 わたしたちはよく頑張った。 褒めちぎられてもいいくらいに頑張った。

 

「まさか、ここまでだとはな……」

 

 鬼山さんはまだ諦めていない。 身構えて、魔物の出方を伺っている。 

 一見、まだ戦う力があるように見える鬼山さんだが、相当無理をしているに違いない。 全回復した魔物たちの攻撃に対処することができるとは思えない。

 

「……………………」

 

 鬼山さんは「死ぬなら俺が死んだ後に死ね」と言っていたが、そんなのはゴメンだ。 

 かといって、わたしが先に死ぬのも嫌だ。 そもそも死にたくない。 仮にどうしても死ぬことになるのだとしたら、一緒に死んでやる。 赤信号、皆で渡れば怖くない。

 

「蕭条……?」

「わたしもまだ、戦えます……!」

 

 立ち上がる。 やっと、痺れは治まったようだ。 このまま、まな板の上の鯉状態なのは嫌だ。 

 何より、あのゴスロリ女が気に食わない。 最期の最期まで、抵抗する。 一度はすんなりと死を受け入れそうになってはいたが、今は違う。 自分でも、ここまで心境に変化があることを不思議に思う。

 

「ふふ……。 いいわ、最後までわたしを楽しませなさい!」

 

 魔物がわたしたちに躙り寄り、狙いを定める。 

 すぐにでも飛びかかり、その鋭い爪でわたしたちを切り裂くつもりだろう。 

 中級魔術でどれくらいダメージを与えられるかわからないけれど、少しでも動きを封じることができれば……。

 

「蕭条……!」

 

 魔物がピタリと動きを止める。 

 完全な静。 

 これが動に転じた瞬間を見極める。 早すぎても、遅すぎてもいけない。

 

 

 

 来る――! 

 そう思い、魔術を発動しようとしたその時だった。

 

「へ……?」

 

 目の前で、魔物が一体砕け散った。 何か、赤い光の塊のような物体が、魔物に直撃したのだ。 

 あれは、鬼山さんの魔術ではない。 そもそも、鬼山さんは動いていない。

 

「何よ……。 何なのよ、これ……!」

 

 ゴスロリ女が狼狽える。 当然だ。 回復魔術により全回復したはずの一体の魔物が、いきなり砕け散ったのだから。

 

「あ……」

 

 どうしてすぐに気づかなかったのだろう。 

……見知らぬ人がいる。 宝石のルビーのように赤く輝く瞳を持つ、黒髪の青年。 制服を着ているということは、学生だろうか。

 

 もしかして、魔物を倒したのは。 ……いや、そんなわけあるだろうか。 通りすがりの学生が、強化魔術で強化された魔物を、たった一撃で。 ありえない。

 

 だとしたら、この学生はなんなのか。 魔物はどうして砕け散ったのか。 噛み合わない。 かといって、あり得ないことを認めるわけには……。

 

「誰かと思えば……。 何故、あなたがこんなところにいるのよ?」

 

 ゴスロリ女が赤眼の青年に問いかける。 知り合いなのだろうか。

 

「それはこっちのセリフだ。 蟻塚ありつか、お前こそ何でここにいる」


 蟻塚。 ゴスロリ女の名前だろうか。 この二人は一体、どういう関係なのだろう……?

 

「先にわたしの質問に答えなさいよ。 まさか、また散歩に来たとでも?」

「そう答えたいところだが、今回は違う。 その二人を助けに来たとでも言っておこうか」

 

 その二人。 わたしたちのこと……?

 

「何よ、あなた、この二人と知り合いなの? そもそも、魔物を見て動じないどころか、倒してしまうだなんて、あなた何者よ? あなたも魔術師なの?」

「いや、魔術師ではないな」

「じゃあ、何なの? 訳がわからないわ……! 魔術師でもないそこらの一般人が、わたしの魔物たちを倒せるはずがない。 いいえ、一般人どころか、魔術師だってそう簡単に倒せないはずだわ」

「そこまで考えられるのなら、わかっているんじゃないか? 俺は一般人でもないし、魔術師でもない存在だってことだ」

 

 わたしと鬼山さんは、ゴスロリ女と赤眼の青年の会話をただ黙って聞くしかなかった。 

 状況が飲み込めない。 認めたくないけれど、やはりこういうことなのだろう。

 

 この赤眼の青年は、わたしたちを助けに来た。 

 そして、魔物を一撃で粉砕した。 

 この青年とゴスロリ女は顔見知りだった。 

 それで今、何やら言い合っている。

 

「………………あっ」

 

 ここでやっと、あることを思い出す。 

 家守桃子やもりとうこの家に住むという、もう一人。 人のカタチをした、大量破壊兵器と噂される存在。 

 まさか、この青年が……。

 

「わかるわけ、ないじゃない。 魔術師でも一般人でもないなら、何だって言うのよ!」

「……魔人だよ。 蟻塚が今操っている魔物の同類って言えば、わかりやすいか?」

 

 魔人? 魔物の同類? わからない。 わからないことが多すぎる……。

 

「蕭条……!!」

「えっ……?」

 

 鬼山さんの声を聞き、はっとする。 

 油断していた。 混乱して、周りが見えていなかった。 

 魔物はまだいる。 魔物の一体が、わたしに向かって襲いかかって来ようとしている。

 

 そして、今度こそ、わたしはこの目で見てしまった。

 

「会話をする前に、こいつらを片付けるべきか」

 

 赤眼の青年に一蹴される、魔物の姿を。

 

『ギ――』 

 

 青年の脚は、軌道が読めないほどの速さで魔物に衝突し、その身体を木っ端微塵にする。

 

「残り、三体だな」

「っ……!」

 

……どうやら、わたしたちは助かったようだ。 けれど、素直に喜べない。

 

 鬼山さんも、わたしと同じ気持ちなのだろう。 何が何やらと言った様子だ。 戸惑いを隠せていない。

 あの青年が味方だとして、魔人とは何なのか。 魔物と同類とはどういうことなのか。 常軌を逸したあの強さの正体は。

 謎は深まる一方だ。 もっと、色々なことを考えるべきなのに、それらを覆い尽くすかの如く、疑問が波のように押し寄せてくる。

 

「………………」

 

 とにかく、今はただ、赤眼の青年とゴスロリ女のやり取りを見ていよう――。 

 見ていることで、わかることがあるのかもしれないのだから。

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