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強化魔術


「あははははは! どう、凄いでしょ? わたしもこの子がここまで頑丈だったなんて、知らなかったんだけど……」

 

 耳を塞ぎたくなるような笑い声。 不快だ。 わたしはまったく笑えない状況だというのに。

 

「でも、考えてみれば当たり前よね。 ただでさえ頑丈なのに、わたしが強化魔術でもっと頑丈にしているんだから」

 

 全く効いていない……。 とまではいかなくても、これは酷い。 もっとダメージを負ってくれたっていいはずだ。 

 一体、どれほど攻撃を与えれば、あの魔物を倒せるのだろう……。

 

「せっかくだし、教えてあげるわ。 わたしの使用した強化魔術は全てで三つ。 一つは攻撃力上昇の強化魔術。 もう一つは速度上昇の強化魔術。 どちらも素の二倍近くは上昇しているわ」

 

 ここまではわたしの予想通り。 

 この流れなら、最後の一つは防御力上昇の強化魔術。 そのはずだ。

 

「それで、最後の一つだけれど……。 これは他の二つと比べて、だいぶ凶悪よ。 一言で言えば、あらゆる耐性を向上させる魔術。 元々耐性の低い者に使っても、そこまで恐ろしくないけれど、元々耐性の高い者に使えば、その効果は絶大なものになるわ」

 

 防御力上昇の強化魔術ではなく、耐性を向上させる魔術……? 

 わたしや鬼山さんの場合は、雷属性耐性の魔術を使用している。 その耐性を向上させることが出来るのなら、確かに強力だ。 雷属性によるダメージを更に軽減することが出来る。

 

「例えば、その子みたいに特別頑丈な魔物よ。 その子は元々、炎、氷、雷の三属性に耐性があるの。 その三つの属性の攻撃魔術によるダメージなら、半減できるほどのね」

 

 信じられない。 三つの属性に耐性を持っているなんて。 

 

「素の耐性が高いから、耐性を向上させる強化魔術によって、この子は無敵の盾となるわ。 完全無効とまではいかなくても、あなたたちの攻撃で倒されることはない。 だって、あなたたち、もうそろそろ限界なんでしょ?」

 

 鬼山さんは必死に攻撃を続けるが、防御特化の魔物に邪魔をされ、これ以上魔物を倒せずにいる。

 

「くっ……!」

 

 そしてついに、全身に帯びていた電撃が消え失せ、強化魔術の効果が切れる。

 

「鬼山さん……!」

 

 それだけではない。 攻撃特化の魔物が再び動き出す。 

 大きなダメージを負いながらも、目の前の獲物を狩る執念に衝き動かされ、躙り寄ってくる。

 

 急ぐ。 

 鬼山さんが危ない。 雷の槍を形成する。 

 そして、指輪が崩れる。 魔術使用時の負荷をこれ以上受けれなくなったのだろう。

 

 これでもう、わたしは上級魔術を使えないだろう。 けれど、今使わなければ、取り返しのつかないことになるかもしれない。

 

「何をするのかと思えば、またそれなの? 無駄なことを……」

 

 ゴスロリ女の言う通りだ。 わたしがこの魔術を使ったところで、防御特化の魔物に防がれてしまったら意味がない。 

 そもそも、わたしたち二人が残りの力を全て注ぎ込んだとしても、防御特化の魔物は倒せないだろう。

 

 だから、わたしの狙いは別にある。 それを悟らせないよう、わたしは行動する。 これは、鬼山さんの行動を参考に思いついたアイデアだ。 危険は伴うが、やってみる価値はある。

 

「蕭条!? 何を……」

 

 わたしの行動に困惑する鬼山さん。 

 それもそのはず、わたしは雷槍を右手に、走っているのだ。 防御特化の魔物に向かって、まっすぐに。

 

「うふふふふ……! まさか、ゼロ距離からならどうにかなるとでも思っているのかしら?」

 

 そんなことは思っていない。 もし、効果があったのだとしても、優先すべきことではない。 この貴重な一発を当てる相手は、防御特化の魔物ではない。

 

『キィィィィィ……』

 

 わたしの接近に気づき、敵意を向ける防御特化の魔物。 

 全身に恐怖が駆け抜ける。 頭が真っ白になりそうなのを、何とか耐える。

 

 魔物はすぐ目の前だ。 

 脚に力を入れる。 腹を括れ、蕭条八重。 死ぬ気になれば、なんだってできる。 ……わけはないけれど、今だけはそうであって欲しい――!

 

「はあっ……!」

 

 跳ぶ。 鬼山さんが攻撃特化の魔物の上に跳び乗ったように、わたしも防御特化の魔物の上に跳び乗る。

 

「まさか……!?」

 

 しかし、ここからは鬼山さんとは違う。 

 あくまで防御特化の魔物は踏み台だ。 邪魔な障害物を利用したにすぎない。 跳び乗ってすぐに、離れる。

 

「ッ――!!」

 

 宙に浮かぶわたし。 この状態で狙いを定めるのは困難だけど、やるしかない。 

 標的とわたしとの間に阻む者が存在しない、今がチャンスだ。

 

「はぁぁぁぁああ!!」

 

 位置エネルギーを僅かながら加味した、一点集中の一撃を解き放つ。 

 狙いは攻撃特化の魔物。 

 圧倒的な攻撃力を誇る敵だろうと、先に倒してしまえばいいだけの話だ。

 

『ギィィィィイイイイ!』

 

 放たれた雷槍は、攻撃特化の魔物の身体を斜め上から射抜くように命中する。 

 鳴り響く絶叫。 

 そして、魔物は黒い砂と化して崩れ去る。

 

「蕭条、伏せろ!」

 

 声に反射的に反応し、伏せる。 頭上を通過する、電撃。

 

『キィィィ……!』

 

 どうやら、防御特化の魔物がわたしを襲おうとしていたようだ。 

 鬼山さんの攻撃により生じた隙を見て、魔物の攻撃範囲から逃れる。

 

「……助かりました」

「それはお互いさまだ。 逃げる余力がまだある内に、さっさとここから離れるぞ」

 

 残る魔物は、防御特化の魔物を含めて六体だ。 飛行能力を有した攻撃特化の魔物はもういない。 格段に逃げやすくなった。

 

「よくもやってくれたわね……」

 

 ゴスロリ女は憤りを隠せない様子だ。 まさか、ここまで魔物を失うことになるとは思っていなかったのだろう。

 

「でも、いいわ。 とても面白いものが見れたし。 もっとサービスしてあげる」

 

 ゴスロリ女が何か妙なマネをする前に、わたしと鬼山さんは逃走する。 まだ、走るだけの力は残っている。

 

「ふふふふふ……! あなたたちは逃げられないわ!」

 

 あの魔物たちは確かに素早いが、逃げ切れないわけじゃない。 単純で直線的な動きだし、幸いにも、この魔物たちに飛び道具の類はなさそうだからだ。

 けれど、もし、まだ魔物たちに隠された能力があるのだとしたら……。

 

 

 

『――――ギギギギギギギギギギィイイイイイイイイ!!!!』




 聞こえたのは、防御特化の魔物の咆哮。 鼓膜を劈くような、けたたましい声だ。 

 しかし、どこか今までの鳴き声と違うような……。

 

「………………!?」

 

 突如、全身を襲うのは、今までに感じたことのない強い脱力感。 体に力が入らない。 

 どこか痺れるような違和感がある。 何より、頭がぼんやりとする。

 

「何だ……これは……!」

 

 どうやらわたしだけじゃなく、鬼山さんも同じ状態らしい。 跪いて、動けずにいる。

 

「あははははは! どう? 凄い効き目でしょ?」

 

 ゴスロリ女が近寄ってくる。 逃げようとするが、体がうまく動かない。

 

「頑丈なあの子はね、ただ頑丈なだけじゃないのよ。 覚えているかしら? 最初、あなたたちを発見して、仲間を呼ぶように鳴いたのを。 あの子の鳴き声は特別で、色々な効果を持っているのよ」

 

 しゃがみ込むわたしを見下ろすゴスロリ女。 


――なんて、楽しそうな顔をしているのだろう。

 

「そして、今の鳴き声の効果は、相手を麻痺状態にさせることよ。 試したことはないけれど、もっと至近距離で聞いていたら、気絶するか、死んでいたかもしれないわね。 それほど強力な効果を持っているのは、現にあなたたちが今体験しているでしょう?」

 

 まさか、こんなに凶悪な能力を隠し持っていただなんて。 

 後もう少しで逃げ切れたというのに。 何も、考えられなくなる。

 

「わたしはあの子が鳴き出す前に耳を塞いでいたから、あまり影響を受けずに済んだわ。 でも、あなたたちと他の魔物たちは、動くこともままならない」

「っ…………!」

 

 動きたいのに動けないことが、これほどまでに辛いとは……。

 

「ああ、魔物たちにも効果があるといっても、人と比べるとそうでもないのよね。  ……わたしの言いたいことがわかるかしら?」

 

 魔物たちを見る。 鳴き声を発した防御特化の魔物含めて、全ての魔物がわたしたちと同様、動きを止めている。

 

「うふふふふ……! わたしはあなたたちに何もしないわ。 ただ、見るだけ。 あなたたちを殴ったり、蹴ったりだなんて野蛮なことも当然しない。 優しいでしょ?」

 

 しかし、魔物たちは一体、また一体と再び動き始める。 わたしたちはまだ動けずにいると言うのに……!

 

「いや……!」

 

 必死に脚を動かそうとする。 けれど、すぐにふらついて、倒れ込みそうになる。

 

「蕭条……!!」

 

 鬼山さんがここまで必死な形相をするのを見たのは、初めてかもしれない。 言いかえれば、それほどまでにこの状況は絶望的だということ。

 

……わたしたちは、ここで死ぬのだろうか。 

 ここ数ヶ月で、わたしたちは何度も死にそうになった。 それでも何とかなっていたのは、運が良かっただけなのだろうか。

 

 ここに来て、ついに運が尽きたのだろうか。 そういえば、幸運値が上昇する魔術とか、あるのかな。 あったら習得していたかった。 こんな時に、役に立つだろうし。

 

「ふふ……。 楽しかったわ、あなたたち」

 

 最期に聞く声が、こんなゴスロリ女の声だなんて……。 きっとわたしは、ゴスロリ服を呪う地縛霊になるだろう。

 

『キィィィィィイイイ!!』

 

 数体の魔物たちが、わたしたちに向かって飛び掛かる。 すぐに、瞼を閉じる。 

 この魔物たちにぐちゃぐちゃにされて殺されるのは、きっととても痛いだろうけど、目を閉じればそんな無修正グロ画像を見なくて済む。 

 少しでも、恐怖から逃れて死にたい。 それくらいの悪あがきをする気力は残っている。

 

「……………………?」

 

 おかしい。 走馬灯が流れているわけでもないのに、こんなに時間がかかるものだろうか。 

 まだ、わたしは攻撃を受けていない。 確かに瞼を閉じる前に、魔物たちが飛び掛かっていたはずなのに。 

 

 恐る恐る、瞼を開く。 

 そこにいたのは、鬼山さんだった。

 

「えっ……!?」

 

 鬼山さんは、素手で魔物の攻撃を受け止めていた。 そして――。

 

「……ッ……!」

 

 繰り出される、回し蹴り。 その一撃は、魔物の頭部に見事命中し、首を刈り取る。

 

「な……何で、動けるのよ!」

 

 ゴスロリ女が慌てふためく。 わたしも同様に、事態が飲み込めない。

 

「何で動けるかだって? 元々使用している魔術の影響で、痺れには慣れているんだ。 だから、動けるようになるのも早い」

 

……そんなバカな。

 

「そもそも、お前はロクに戦闘経験もないだろう? どの魔術がどれくらいの効力を持っているだとか、どの魔物の能力がどれほどのものなのかとか、全部調べたのか? ……調べていないだろ? お前は十分、俺たちを倒す力を持っていながら、根拠のない自信から勝機を逃しまくっているただのアホだ。 俺がこのまま動けずにいると決めつけた時点で、賢くない」

 

 よく見ると、魔物の攻撃をわたしから庇った時に生じた傷なのか、腕から新たに流血している鬼山さん。 もしかすると、言うほど余裕な状態ではないのでは……。

 

「後、お前もアホだ。 蕭条」

「えっ」

「戦闘時に自ら視覚情報を断つだなんて、何を考えている。 もしかして、死ぬと思っていたのか。 大馬鹿者め」

「う……」

 

 悔しいけど、反論できない。

 

「いいか? どんな絶望的な状況だろうと、生きることを諦めるだなんて真似をするな。 少なくとも、俺の目の前ではな。 死ぬなら俺が死んだ後に死ね」

「し、死ねって……!」

 

 なんてメチャクチャなことを言うんだこの人は。 

……でも、こんな絶望的な状況なのに、何だか気が楽になった。 それに、全身の痺れもだいぶ和らいできた。 もう少しで、動けそうだ。

 

「……何よ、強気になっちゃって。 形勢逆転でもしたつもり? まだ魔物は残っているのよ。 それに……」

 

 残る魔物は、防御特化の魔物を含めて五体になった。 しかも、そのほとんどが既にダメージを負っている。 防御特化の魔物以外ならば、倒せるかもしれない。

 そんな淡い希望を抱いたのがいけなかったのか。 

 ゴスロリ女が、何やら新しく魔術を発動する。 

 

「わたしもまだ、こんな魔術が使えるのよ!」

 

 宙に浮かび上がる、大きな光の輪。 その光の輪から注がれる輝きは、五体の魔物たちそれぞれの身体に降り注ぐ。

 

「これって……」

 

 輝きに包まれ、魔物たちの傷は癒やされていく。 まるで、時間が巻き戻ったかのように。

 

「……お前、回復魔術も使えるのか」

「あははははは! そうよ。 しかもこれは、上級魔術。 あの程度の傷だったら、全回復できるわ。 今度こそヤバイんじゃない、あなたたち?」

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