そんなのありか05
余りにもコックコートを纏った己の似合わない姿に愕然となっていると…迎えが…来た…
マジでぇ?
いや、呼び鈴なんてぇもんがあるんだねぇい、此処。
っかさぁ…現在居るのが寝室でぇ、居間には簡易キッチン、バーカウンターなんてぇのも設置されている。
いやさぁ、広い部屋を簡易的に区切っててな。
生活空間っうよりなんつぅーか、お洒落さん空間な訳よ。
ん?意味分からん?大丈夫、俺も言ってて分けからんからさぁ、ふぅ。
あと…檜風呂と広いトイレと洗面所って…無駄に空間を浪費するのがVIPなのかねぇ。
いや、贅沢な寛ぎの空間って言われればさぁ、まぁ、いや、うん、どうなんだ~ねぇ。
そんなラチも無いことを考えながら居間を経て入り口っーか玄関へと。
いや、本当に独立した玄関となってっかんよぉ。
ほーんっと、此処…住めんじゃねぇ?
いや…金がもたんか…
そんなVIPな空間に気圧されるつつドアを開けると…恰幅の良い貫禄のある男性が立っていた。
っか…よぉい…明らかに大物っう感じのオーラが、ねぇぃ。
もしかせんでも、この人が…ホテルのグランシェフなんだろーねぇい。
「始めまして、矢鷹と申します。
お待たせ致しましたでしょか?」
思わず、ビッと背を伸ばして応対ってな。
「おお、これはご丁寧に、私は当ホテルにて総料理長を務めさせて頂いておる坂崎と申します。
この度は大林様へご提供なさる料理の補助をさせて頂けるとか。
光栄の極みに存じます」っときたもんだ。
いや、さぁ、うん。絶対に情報の齟齬が発生してっよな、これ。
この侭では恐ろし過ぎるので、取り敢えずは意思の疎通ってな。
「取り敢えず、一度中へ入って頂けますか?」
そう告げて彼を室内へと招き入れる。
彼も促されて部屋へと入りVIPな居間へとな。
ゆったりとした革張りソファーへと収まり…って、すんげぇ座り心地だよなぁ、これ。
座り心地に一瞬驚きやしたが…コホン。
んでぇ、俺が喋ろうって思った訳なんだが…
「それで、どの様に進められるのですかな?」ってグランシェフがワクワクって感じでな。
うん、先を越されましたな、うん、参ったねぇ。
ま、気を取り直してっと。
「いや、その前にですね…どうも情報の齟齬が有るようなので、一度お話してからですねぇ」
「齟齬…ですか、な?」
不思議そうに俺をマジマジって見ている坂崎氏へ俺は今回の出来事の経緯を説明して行く。
話を聞いていた坂崎氏は、キョトンって感じになり…最後には笑い始めた、な。
「クククククッ、そんな小説じみたことが本当に起こりうるのですなぁ」
いや…楽しそうやね、あんた…
当事者の俺は笑い事じゃねぇんだがよぉぃ。
「ふむふむ、分かりました。
では一度、どの様に作られたのか、一度お聞かせ頂けますかな?」
そう告げてきたので、俺がカレーを作った手順を説明して行く。
っかさぁ、会社で使用した材料と手順をレポーティングして印刷して来ている。
それを見せながらの説明だがな。
社会人として資料をあらかじめ準備するなど当然のことだかんねぇぃ。
「ふぅむ…随分と多くの材料を煮込まれておりますなぁ」
顎髭を扱きつつ告げるグランシェフ坂崎氏。
そんな彼へと俺は俺の持論を告げる。
「プロの料理人に告げるのは汗顔の至りなのですが…私はカレーは汁物だと思っていますので」
「ほぉぅ、汁物…です、かな?」
面白そうにマジマジと俺の顔を見てくる坂崎氏。
「ラーメンなどがスープが命って言っていますが…カレーこそスープ、出汁が命と考えています。
何せラーメンは麺を啜る食べ物ですが…カレーはスープ自体を食すような物ですから。
美味い出汁が土台として有り、初めてカレーと言う料理が生きる、そのように考えているのですよ」
俺が告げると…「ふぅ~むぅ」って腕を組み考え始める坂崎氏。
そんな彼が徐に告げる。
「面白い!実に、面白い考えですな、それは。
出汁に拘るカレーですか…着眼点が非常に宜しい、宜しいが…手間と金が掛かりそうな代物ですなぁ」
少々呆れたような感じでな。
だから俺は肩を竦めて応えた訳よ、うん。
「いや…これって独身男性が手慰み程度に始めた趣味料理ですからねぇ。
家庭の主婦やプロの料理人では割に合わないから、手は出さんでしょうよ。
所詮は趣味人料理って感じで酔狂な者でないと作らない代物でしようから…」
材料費、手間、作成時間、拘束時間…数多を鑑みて、どう見ても割に合わない料理だよなぁ、うん。
「確かに…ですが、これはこれで面白そうでは、ありますなぁ」ってニヤリっと。
おおっとぉ、坂崎氏、乗り気ですなぁ…
なにせ今回は材料費を含めお代はウチの会社持ちってなっている。
時間も調理作成用に確保されているって来たもんだ。
しかも…ホテルの調理機材も使い放題ってきたら…此処は、ほれ、趣味的に全力で走ってみますかねぇ。
なんてぇ思っていると…坂崎氏も同意見だったみたいで…2人顔を見合わせニンマリってな。
うん、あれだ、あれ。
越後屋とお代官様が顔を見合わせニンマリ高笑いって…俺達ゃぁ悪もんけぇぃっ!