ジェームス
「ダイスケ、『ミケーネ』でやる卒業記念パーティー、来るだろ」
マリオがクラスメイトの女子生徒に話しかけるために俺から遠ざかると、今度はジェームス・ジャクソン准尉に声をかけられた。
『ミケーネ』は宇宙ステーション内の洒落た西洋料理の店だった。
結婚式の二次会などに使われる比較的フォーマルな店だ。
今夜は同期だけで集まって、卒業祝いのパーティーをする予定だった。
「ああ、行くとも」
「待ってるからな」
シルバーブロンズで火星の海のように澄んだブルーの瞳を持つジェームス・ジャクソン准尉は俺に手を振ると、他の同期に声をかけるために遠ざかっていった。
彼は、とても感じのいい爽やかな男で、長身で胸板が厚く、肩幅も広いため、火星宇宙軍の赤と黒の軍服がとても似合っていた。
ジェームスは端正な顔立ちで学業成績も優秀であったため女性陣にとても人気があったが、それを鼻にかける様子もなく、深い付き合いをしている女性もいないようだった。
彼の名誉のために付け加えると、女性と付き合っていないからといって、同性愛者だとか肉体的に欠陥があるというわけではないようだった。
真面目で誠意にあふれる人柄で、同期のなかで幹事役を買って出ることも多かった。
卒業記念パーティーもジェームスの企画だ。
ジェームスは自分ではあまり冗談は言わないが人の冗談話は好きらしく、俺とマリオが冗談のようなやり取りをしていると横で聞きながら楽しそうに笑っていた。
そういうわけで、マリオほどではないが、まあ仲のよい友達だと俺は思っていた。
もっとも彼は男性女性問わず友達が多いので、俺はその中の一人に過ぎなかったが。
俺は、彼がイケメンだろうが、女性に人気があろうが、学業成績が優秀だろうが、嫉妬を感じたことはなかった。
しかし、今日はじめて俺はジェームスがうらやましいと思った。
さきほど知り合い全員の配属先を情報端末で確認したところ、ジェームスの配属先は航宙母艦ヴァルキュリアだった。
火星宇宙軍最大、最強と称される大型艦で、全長六〇〇メートル、遠隔操作でミサイル攻撃を行う無人攻撃機を六〇〇機搭載し、乗員は五〇〇名。前回の地球との艦隊決戦でも大活躍した戦闘艦だ。
はっきりって俺が一番乗りたかった艦のひとつに彼は乗組員として選ばれていた。