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俺と彼女と宇宙輸送艦セドナ  作者: 川越トーマ
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孤立

 俺はウルジーナの中央制御室にたどり着くと、まずドアをロックした。

 特に必要がなかったので俺は拳銃を携帯していなかった。

 武装兵がやってきたらひとたまりもない。

 とにかく殺されたり拘束されたりする前にイワノフ艦長の指示通りウルジーナの軌道を変更して推進装置を破壊しなくてはならない。

 破壊……俺は大変なことに気がついた。

 軌道変更の前に遠隔操作で推進装置を爆破されてしまえば、ウルジーナはこのまま慣性航行で地球に向かう。

「畜生!」

 時間との勝負だ。

 武装兵がやってこないということは、副長は推進装置を爆破しようとしているに違いない。

 俺は慌てて推進システムや航法システムを起動させた。

 完全に停止状態の核融合エンジンは動かせるようになるまで時間がかかる。俺は焦った。

 問題は航路計算だ。

 何も考えず適当に針路を変えると、ウルジーナは太陽系内を何年かさまよった挙句、火星や地球に衝突するかもしれない。

 でも、のんびり計算している時間はない。

『とりあえず、適当に針路を変えるしかないか!』

「適当はやめてよ、ダイスケくん」

 俺の心の声を聴いたかのように聞きなれた声がした。

 ウルジーナの中央制御室に、リサさんがいることに俺はやっと気がついた。

「リサさん、なんで?」

 たまたま、ここに用があったのか? 

「艦長の連絡を受けたからよ」

『そうか、あの時、艦長が連絡していたのは副長ではなく、リサさんだったんだ』

「ちなみに副長の放送は信じてないから、安心して」

「そうだ、リサさん、急いで! 推進装置が爆破されてしまう!」

 世間話をしている場合ではなかった。

「大丈夫よ」

「何が!」

「爆破装置には細工しておいたから」

「へっ?」

 そう言えば、この前『万が一のとき、ダイスケくんも同罪になっちゃうから教えなぁい』なんて言ってたのは、そういうことか。

『そんなことしてたんだ……』

 大胆すぎると思う。まるでテロリストだ。

「終わったわ」

 リサさんは航路計算を終え、にっこりとほほ笑んだ。

 丁度そのとき、核融合エンジンが使用可能になったことを示すアラームが鳴り、ランプが灯った。

「あとは計算結果を推進システムに落とし込めば……」

 リサさんの発言は爆発の衝撃に遮られた。

「なんだ!」

「まさか……だめ、動かない!」

 リサさんが推進システムを操作して青くなっていた。

 俺は正面の大型モニターを画面分割して、ウルジーナの内部及び外部に設置されたカメラのデータを表示した。

 カメラの一つは宇宙輸送艦セドナの様子を映し出していた。

「セドナが……」

 宇宙輸送艦セドナは、ミサイルとパルスレーザー砲で、ウルジーナの巨大な推進装置を攻撃していた。

 足元から断続的に爆発の衝撃が沸き上がってきた。

 火花が散り、塔のような推進装置はおびただしい量の破片をまき散らしながら砕けていった。

 副長にしてみれば事前にセットした爆発物だけに頼る必要などなかったのだ。

「そんな……」

 俺もリサさんも、爆発の衝撃に耐えながら呆然とその光景を眺めるしかなかった。

 やがてセドナはゲートに向かって下降し、ウルジーナの中から出ていった。

 そしてゲートが閉じた瞬間に、今までとは違う種類の小さな爆発の衝撃が襲った。

「えっ……」

 大型モニターの映像が消えた。嫌な予感がした。

「だめだ! ゲートが開かなくなった!」

 閉じたゲートを開放しようとして、俺はゲート開閉システムが全く機能していないことに気づいた。

 推進装置を破壊したうえでゲートを封鎖する。

 これは攻撃が確定した場合の予定の行動だった。

「閉じ込められたのね」

「そうみたいですね」

 俺たちは、小惑星ウルジーナに置き去りにされた。

 生きたまま爆弾の中に入れられ、そのまま地球に向かって進んでいた。


「ごめんね、ダイスケくん」

 リサさんがうつむきながら俺に話しかけてきた。

「謝る必要なんて、どこにもないと思いますけど」

 俺は極力優しい声で答えた。

「だって巻き込んじゃったし、推進装置の破壊も止められなかったし……」

 最後の方は涙声だった。

「リサさんは何も悪くありません。とっても頑張りました。俺がウルジーナに来ないで、まず副長をとめればよかったんです」

 後から考えればその通りだった。

 副長を取り押さえ艦長殺害の罪で副長の権限を剥奪できれば、今頃のんびりウルジーナの針路変更をしているだろう。

 ただ、その場合、丸腰の俺が艦長のように射殺されているという可能性も高かった。

「ああ、どうしよう。もう、ウルジーナを止めることはできないわ。地球も私たちもおしまいよ……」

 リサさんは悲しげに叫んで顔を覆った。

 俺の言葉は心に届かなかったようだ。

「あきらめちゃダメです」

「じゃあ、どうすればいいの?」

 リサさんは泣き腫らした目を俺に向けてきた。

 その頼りない様子は孤児院の俺の妹のナナみたいだ。

 俺がしっかりしてリサさんを支えなくてはという使命感にかられた。

「とりあえず使えるシステムを確認しましょう。今は使えなくても時間の許すかぎり直せるものは直しましょう」

 本当は俺がどうしたらいいか聞きたいくらいだった。

「わかったわ」

 リサさんはうなずきながら、すがるような視線を俺に向けていた。

「俺はウルジーナ内部の設備や回線の詳しい損害状況を確認してきます。リサさんは中央制御室内で各種システムをチェックしてください」

 俺は平静を装っていたが、自分が死ぬこと、リサさんを助けられないこと、地球人全員を殺してしまうこと、イワノフ艦長殺害の冤罪をかけられていること、といった不安がかわるがわる頭の中に湧き上がって、その不安に押しつぶされそうだった。

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