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俺と彼女と宇宙輸送艦セドナ  作者: 川越トーマ
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重要任務だが

「どうした。ダイスケ。元気ないな。しがない輸送艦任務だと思ってたけど、実は大戦の行方を左右する重要任務だったわけだ。お前の希望も叶ったんじゃないのか?」

 その日の当直が終わり、休憩に入ろうと宇宙輸送艦セドナの居室エリアに戻ると廊下でマリオと行き会った。

「確かに重要任務だった。マリオが推測したとおりだ」

「そうだろ、おまけに美人のリンドルース中尉とコンビを組めるなんて憎いぞ。このこの」

 マリオはぽちゃぽちゃした顔に屈託のない笑顔を浮かべていた。

 俺を励まそうとしてくれているらしい。

「俺の望んでいた仕事とは言えない……」

「どうかしたのか? いざ、重要任務だとわかったら、ビビったのか?」

「おまえ、ウルジーナの破壊力わかってるか?」

 俺は周囲の様子をうかがってから、低い声でマリオにたずねた。

「ん? 直径二九キロだと大都市をひとつ消し飛ばすレベルだろ?」

「いや、地球人すべてを皆殺しにするレベルだ。女も子供も。どこにも逃げ場はない」

「馬鹿げてる!」

 マリオの表情が珍しく険しくなった。

「俺も馬鹿げてると思う。だが、事実だ。リサさんが詳しく説明してくれた。俺は非戦闘員も平気で戦争に巻き込む地球のやり方が気に食わなかった。でも、今度は俺たちがそれをやろうとしている。しかも地球のやったことを遥かに超える規模で……」

「そうか……彼女に何て言おう……」

 しばらくして、マリオは大きなため息をついた。

「彼女って?」

「フローラ・フランクール少尉、地球のステルス艦のただ一人の生き残り」

「そう言えば、そっちの仕事はすっかり忘れてた。まかせっきりにしてゴメン」

 当直前待機の時間も、当直の時間もリサさんの手伝いを命じられていたので、その他の雑用ができる時間がちっともなかった。

 そう言えば捕虜の食事の世話が必要だったのだ。

 知らないうちにマリオに負担をかけてしまった。

「いいってことよ……彼女を発見したとき彼女に覆いかぶさって死んでた奴がいただろ」

「ああ」

「あれは彼女の恋人らしい」

「おまえ、そんなことまで、聞き出したのか?」

「聞き出したというより、そんな話の流れになったんだ。自然とね。かわいそうだな。目の前で自分の恋人が死んじゃうなんて」

「そうだな」

「俺たち下手すると、そんな不幸な人間を何十億人と生み出しちゃうことになるんだな」

「ああ」

 俺は、マリオが俺と同じような感性を持っていたことにほっとした。

「しかし、お前、やっぱり凄くいい奴だな」

「今頃わかったのか?」

「ただ、彼女にこちらの作戦のことは気づかれるなよ。さっき、『彼女になんて言おう』なんて言ってたけど、言うことじゃないからな」

「確かにその通りだ」

「それから、あんまり親しくなるなよ。相手は敵なんだから」

 俺はマリオの惚れっぽいところが心配だった。

「俺のことを心配してくれてありがたいけど。孤独な人間には救いが必要だよ。ま、俺たちも救いが必要になるかもしれないけどね」

 俺よりもマリオの方が牧師の息子っぽいよなと、ふと思った。


「ダテ准尉、マルコーニ准尉、皆さんを客室に案内しろ」

 小惑星ウルジーナの中央制御室にホラン大尉以下三〇名の技術者全員が集まっていた。

 燃料の注入作業が終わったため、クラウゼン副長は宇宙輸送艦セドナの兵員輸送室に彼らを案内するよう俺たちに命じた。

「ご案内します」

 高速エレベーターは二〇人乗りだったため、技術者を二班に分け、俺とマリオがそれぞれ引率することになった。

 俺が引率したのはホラン大尉のいるグループだった。

「准尉はひょっとして繰り上げで士官学校を卒業させられたくちか?」

 やや太った白髪交じりのホラン大尉は意外というか、やはりというか、とても気さくな人で、エレベータで横に立った俺に話しかけてきた。

「はい、大尉、そのとおりです」

「そいつは災難だったな。世が世なら、まだ学生時代を謳歌していただろうに」

「仕方ありません。戦時ですから」

「まあな。だが学生時代は貴重なものだ。士官学校なんて拘束が多くて嫌だったろうが、それでも社会に出ると懐かしい思い出だ。長く経験すれば、それだけ思い出も増えたはずだ」

「そんなものですか」

 確かに教官たちの厳しい御指導の思い出が強烈だったが、長く過ごせばビアンカやジェームスたちとの楽しい思い出もその分増えたに違いない。

「そういう意味では、リンドルース中尉は気の毒だな。優秀すぎたお陰で楽しいはずの学生時代は思い切り短く、周囲は年上の人ばかりだったろうから」

 突然、知りたい話が向こうからやってきた。

「リンドルース中尉は、おいくつくらいなんですか?」

 俺は何食わぬ顔でホラン大尉に直球で聞いてみた。

「多分君と同じくらいじゃないか」

 大尉は俺の疑問に親切に答えてくれた。

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