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俺と彼女と宇宙輸送艦セドナ  作者: 川越トーマ
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秘密兵器

「すみません、リンドルース中尉は一体、おいくつなんですか?」

 俺とリサさん、そして作業員若干名が、ウルジーナの中央制御室に残り、艦長やホラン大尉たちはウルジーナ内部の巡視に出かけていた。

 俺はウルジーナの航法システムのスイッチを入れ、起動待ちしているリサさんに思わず質問した。艦長たちがいたらできない質問だ。

「ダイスケくん、女性に年齢を聞くのは失礼なことだって、幼稚園で習わなかった?」

 リサさんは仕事モードのクールな表情で、俺に冷たい視線を投げつけた。

「いえ、あの、すみません」

『聞かなければよかった』

「私の年齢がそんなに気になる?」

 恐縮する俺を見つめるリサさんの目に、小悪魔のような光が宿った。

「いえ、あの、気になります」

「教えてあげなぁい」

 小さい子が意地悪するような口調だった。

「そんな」

 近くにいたウルジーナの作業員が『何事か?』という表情で俺たちの方を振り返った。

「そう言えば、以前、秘密にしたことがあったわね」

 リサさんは、ウルジーナの作業員たちの様子を窺うように周囲に視線を走らせながら仕事モードの口調に戻した。

「どれですか? いろいろあったような気がしますが」

「私の任務のことよ!」

 『散乱する生ごみ』とか、『脱ぎ捨てたパンティ』とか、余計なこと言ったら殺すと目が叫んでいた。

「ああ、それですか」

「まったく……」

 リサさんは『やれやれ』という表情になった。

「ウルジーナは、量産された完成品じゃなく、唯一無二の試作品よ、取り付けられた推進装置が設計どおりの性能を発揮してくれるかどうかわからない。だから、現場で機器を調整し、天体観測結果に応じて航路計算を適宜やり直していく必要があるの。私はそのための要員よ」

 完成品を操縦するのとは異なり、研究者・開発者サイドの能力が求められるというわけだ。

 聞きようによっては自慢のようにも聞こえた。俺のひがみだろうか?

「小惑星ウルジーナを地球にぶつけるとのことですが、どれくらいの破壊力なのでしょうか? 見当がつかないのですが」

 少なくともこの小惑星と同じくらいの大きさの都市はきれいに消滅するんだろうなということくらいは想像できた。嫌な話だ。

「直径五〇メートルの小惑星でも、直径一キロくらいのクレーターができるの」

「ウルジーナの直径は二九キロですよね……」

 ということは直径六百キロくらいのクレーターができるということだろうか? いや待て、そんな簡単な倍率計算じゃないだろう……

「ちなみに恐竜が絶滅したのは直径一〇キロの小惑星が衝突したせいだといわれているわ」

「じゃあ、恐竜絶滅以上の被害ってことじゃないですか!」

 俺は思わず大きな声を出してしまった。作業員たちがまた振り返った。

「衝撃波と熱風が地上の生きとし生けるものすべての命を奪い、大地震と大津波が地上のすべての建造物を破壊しつくすでしょうね。例えその惨事を生き延びたとしても地球は衝撃で舞い上がった塵に覆われ、何百年にもわたって闇と寒さが支配する死の星になるわ」

「ウルジーナの破壊力は核兵器以上じゃないですか、許されるんですか? そんな兵器を使用することが」

 リサさんは何の感情も感じられない視線を航法システムのモニターに向け、キーボードを操作し始めていた。

「核兵器の使用は国際条約で禁止されているけど、これは核兵器じゃないから条約違反ではないわ」

『それじゃあ、地球が我々に行った無差別爆撃よりもひどいじゃないか!』

「分かっているのか? 兵士でもない人間が……何の罪もない子供も、みんな死ぬんだぞ!」

 俺は声を押し殺した。

「黙って! あなたそれでも兵士なの! これは命令なのよ!」

 俺はこんなことをするために軍人になったのではない。

 これじゃあ俺たちは軽蔑していた地球人以下だ。

「仕方ないじゃない。戦争なんだから」

 リサさんの声は消え入りそうに小さくなった。

「ごめん、わかった。リサさんに言っても仕方のないことだった」

 俺は押し黙ると天体観測を始めた。

 リサさんに対する尊敬や親愛の念が冷えていくのを感じながら。

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