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俺と彼女と宇宙輸送艦セドナ  作者: 川越トーマ
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小惑星ウルジーナ

 中央制御室の大型モニターにジャガイモのような形の小惑星が映し出されていた。

 当直中だった俺は、そのタイミングに立ち会うことができた。

「これが小惑星ウルジーナ……」

 自動航行装置が制動をかけ、宇宙輸送艦セドナは急速に速度を落とし始めた。

「接舷準備、総員、中央制御室に集合せよ」

 イワノフ艦長が館内放送を入れる声が聞こえた。

 何の変哲もない小惑星だった。

 周辺に火星の大艦隊が集結しているなんてことも当然なかった。

 資源採掘を行っているとのことだったが小惑星の表面には採掘跡はほとんど見られなかった。

 丸い穴がいくつか空いていたが奥がどうなっているのかはわからない。

 艦内のデータベースを確認すると、一か所に巨大な採掘口を作り小惑星をくりぬくように掘り進んでいるとあった。

『何のために?』

 俺が素朴な疑問にとらわれていると、アナン中尉のほか当直外の人たちがばらばらと現れた。

「おはようございます」

「おはようございます」

 中央制御室であいさつが交錯し、あっという間に席が埋まった。

 リサさんやマリオも席に着いた。

「無事に到着しましたね」

「ああ」

 珍しくクラウゼン副長が朗らかにイワノフ艦長に話しかけ、逆にイワノフ艦長はなぜか不機嫌そうだった。

「人工重力発生装置停止」

 宇宙輸送艦セドナは回転を止め、またあの不快な感覚が蘇ってきた。

 採掘口は、直径五〇〇メートルとのことだったが、直径二九キロの小惑星ウルジーナとの対比ではささやかな大きさに見えた。

 採掘口には両開きの巨大な鋼鉄製の扉が設けられ、我々の進入を阻んでいた。

「こちら、輸送艦セドナ、ゲート開放ねがいます」

 ウーラント少尉が、呼び掛けてしばらくすると、ゆっくりとゲートが開いた。

「微速前進。気をつけて進め」

「微速前進」

 イワノフ艦長の指示に従って、アナン中尉が注意深く輸送艦セドナを進めた。

「なんで、こんな巨大な推進装置がこんなところに……」

 直径五〇〇メートルの採掘口の中央には、超弩級戦艦の推進機関をいくつも束ねたようなものが、まるで塔のようにそびえていた。

「我々の運んだ燃料は、こいつのための燃料だ。このウルジーナを動かすためのな」

 アナン中尉が慎重に舵を操作しながらも俺のつぶやきに答えてくれた。

 俺たちは輸送艦セドナよりも遥かに巨大な推進装置に沿って『上昇』し、入口から一〇〇〇メートルほど入ったところで、推進装置でできた『塔』の基部に接舷した。

 『塔』の基部を上にするような位置取りだった。

 ビジュアル的に何となく違和感があったが、これなら推進装置が作動した際、加速による疑似重力が『下』に働く。

「接舷完了」

「御苦労だった。総員このまま待機。ウーラント少尉、ウルジーナの作業班と回線つなげ」

 アナン中尉は大きく息をつき珍しく笑顔を見せていた。

 長い緊張から解放された笑顔だった。

「お疲れ様です中尉。この小惑星は一体何なんですか? 動かすってどういうことですか?」

 俺は、いろいろな人間に質問したのに、今まではぐらかされてきた質問を改めてアナン中尉にぶつけた。

 例えどんな軍事機密だったとしても、もう隠す必要はないだろう。

「こいつは我が軍最強の移動要塞として建造された。既存のどんな電磁誘導砲もミサイルもこいつには歯が立たない。例え核ミサイルを使っても破壊することはできないだろう」

「本当にあったんだ……秘密兵器」

 俺は以前マリオがしきりに熱弁をふるっていたことを思い出した。

「な、俺の言ったとおりだろ!」

 突然、マリオが後ろの席から嬉しそうに会話に参加してきた。

「しかし、武装がついていないようですが……」

 小惑星の表面には光学兵器も電磁誘導砲もミサイルの発射装置もなかった。

 そして、このゲートの内側も巨大な推進装置があるだけでがらんとしていた。

「そのとおり、残念ながら、この要塞は未完成だ。最終決戦には間に合わなかった」

「じゃあ、なぜ……」

 貴重な燃料を大量に投入して動かそうとするのだろう。

「それでも、この小惑星は最終兵器足りうるのさ、その巨大な質量ゆえにな」

「え?」

「爆弾さ。こいつは撃墜不能な大量破壊兵器として使われる」

 俺の目にはアナン中尉の笑顔が禍々しいものに映った。

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