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俺と彼女と宇宙輸送艦セドナ  作者: 川越トーマ
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捜索作業

「生存者の捜索を行う。副長、捜索班を編成し、指揮してくれ」

 イワノフ艦長はそこまで言うと、ぐったりと艦長席に沈み込んだ。

 敵は完全に機能停止する直前に今までばらまいていたリモートミサイルに最後の指示を送ったのだろう。

 『勝った!』と思って油断した瞬間に、してやられた。

「捜索班を編成し、指揮します」

 クラウゼン副長は力を失っている艦長に敬礼すると我々の方に向き直って低い声を響かせた。

「各担当のチーフは捜索班の要員を一名選出せよ」

 各担当のチーフは艦に残留し、基本若手が捜索班の要員として選出された。

 当然のように俺とマリオは捜索班の要員となった。

「副長、わかっていると思うが、生存者は敵も収容しろ」

 俺たちを率いて中央制御室を出ていこうとしているクラウゼン副長の背中に向けて、イワノフ艦長は疲れたような声をかけた。

「敵もですか……わかりました」

 一瞬、不服そうな表情を見せた副長は表情を引き締めて敬礼した。

「私でもできることがあったら何か命じてください」

 艦長席の隣のゲスト席にいたリサさんが、立ち上がって艦長に視線を向けていた。

「では救急セットを用意してエアロックの近くで待機してください」

「はい、待機します」

 リサさんは仕事の時の凛とした表情で敬礼し、俺たちとともに中央制御室を後にした。


「見事にバラバラだな」

 クラウゼン副長が暗い顔でつぶやいた。

 俺たちは副長の指揮の下、船外作業用の小型艇を使って暗黒の宇宙空間を漂う宇宙巡航艦バステトの残骸を捜索していた。

「とりあえず中央制御室を含む残骸を捜そう。乗員のほとんどはそこにいたはずだ」

 副長の言う通りではあったが、内部から爆発したバステトの残骸は、それが艦首部分なのか艦尾部分なのかもわからないような状態だった。

「あれじゃないでしょうか?」

 マリオが身を乗り出して残骸の一つを指さした。

「どれだ?」

「あの大型電磁誘導砲の砲身を含む残骸です。あれは巡航艦バステトの中央部分に装備されていたはずです」

「その通りだ。よく見つけた」

 クラウゼン副長は声を弾ませると、マリオの見つけた残骸に近寄った。

「…………」

 俺たちは言葉を失った。

 小型艇に取り付けられたサーチライトが宇宙巡航艦バステトの中央制御室だったと思しきものを照らし出した。

 どの艦の中央制御室にも設置されている大型モニターの半分が焼けただれたものが残骸の亀裂から見えた。

 微かに原形をとどめたモニターは、そこが中央制御室であったことを主張していた。

「降りるか?」

 副長が俺たちに顔を向けた。

 恐らく、降りて探しても生存者は期待できないような状況だ。

 副長にしては珍しく俺たちに意見を聞いてきた。

「降ります」

 何故か俺は即座に答えていた。

 無駄かもしれないが、そうしないと俺たちを守ってくれた宇宙巡航艦バステトの乗員とその家族に顔向けできないような気がした。


「ひどいもんだな」

「ああ」

 俺たちは全ての機能を停止した真っ暗な艦内で、船外作業服に取り付けられたサーチライトを頼りに生存者を捜していた。

 中央制御室は爆発によって切り裂かれ、高熱に焼かれ、かつての機能的な美しさが想像できないようないびつな残骸と化していた。

「ダイスケ、ここはどれくらいの温度になったんだろう」

「さあな」

 副長は船外作業用の小型艇に残り、残り四人が二人一組で捜索作業を行っていた。

 俺はマリオとペアだった。

「マリオ、御遺体だ」

 俺はコンソールデスクの下に横たわる焼け焦げた赤い簡易宇宙服を見つけた。

 ひび割れたヘルメットの中を覗き込むと顔は真っ黒に炭化しており性別すらわからなかった。

「うっ」

 マリオは思わず顔を背けた。ごく自然な反応だ。

 俺は用意していた遺体収納用の袋に遺体を収納しようとした。

 無重力状態とはいえ、さすがに一人では辛かった。

「マリオ、手伝ってくれ」

「……わかった」

 一瞬躊躇したマリオは意を決したように俺の作業に手を貸した。

 さすがに普段の陽気な様子は影を潜めていた。

「この様子じゃ、やはり生存者はいないか……」

 その後も生存者には出くわさず、俺とマリオだけでも三人の遺体を収容することになった。

「俺、もう、だめかも……」

 ヘルメットをくっつけた状態でマリオがつぶやいた。

 このやり方だと通信装置を使わなくても会話ができるので、同行しているクラウゼン副長に聞かれずに済んだ。

「俺もだ」

 生存者を救出するという喜びがあれば、この辛い作業も報われたのかもしれなかったが、結局辛いだけの作業になった。

 しかし、われわれが生きて帰り、遺族に遺体を引き渡せるのであれば、この作業も意味のあるものになる。

 イワノフ艦長が言っていたように遺体がないと、なかなか死にきちんと向き合うことができない。

 宗教家の息子の俺はぼんやりとそんなことを考えていた。

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