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俺と彼女と宇宙輸送艦セドナ  作者: 川越トーマ
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積み荷

 次の日、当直待機中の俺は、当直明けのマリオの部屋を掃除するという名目で、彼と無駄話をしていた。

 マリオの部屋は顔に似合わずきれいなので、やることはほとんどなかった。

「それで、ダイスケは若い女性士官と個室で二人っきりになったっていうのに、何もしなかったと?」

「そうだけど」

 俺は昨日のリサさんとのエピソードをマリオに話していた。

「ドアを閉めてと言われたのに?」

「彼女がドアを閉めてと言ったのはそう言う意味じゃないと思うけど」

 部屋に入ってすぐ『ドアを閉めて』と言ったのは散らかってる部屋を通りがかりの人に見て欲しくなかったから以外に考えられない。

「ダイスケ、『据え膳食わぬは男の恥』っていうだろ」

「珍しくあってるな、ことわざ。大分能力が上がったな」

「ごまかさない。そういうときは口説かないと失礼に当たるだろ」

「失礼って、それは、どういう文化なんだ?」

「文化ではない、女性に対するマナーの問題だ。しょうもない草食動物だな。それに俺は守備範囲外だが、ダイスケは守備範囲内だといってただろ」

「じゃあ、お前は守備範囲の女性と二人きりになったら、フルオートで口説くのか?」

「その通りだ」

 マリオは自信満々に胸を張った。

「わかった。大した奴だ。お前は」

 俺は多少げんなりしたものの、ある意味マリオがうらやましいと思った。

「ところで、ダイスケ、気になって調べたんだけど、やっぱなんか変だわ」

 俺が黙り込んでしまったので、マリオは話題を変えた。

「何が?」

「積み荷のことなんだけど。この艦、超弩級宇宙戦艦一〇〇隻分以上のヘリウム3と重水を搭載している」

「すごいね」

 積み荷の内容については知っていたが、あまり興味がなかったので量については注意を払っていなかった。

 単位が大きすぎてそれがどんな意味を持つのかピンと来なかった。

「わかってる? わが火星の全備蓄量の三分の一を超える量だぞ」

「ええっと、行くのは、ただの資源採掘用の小惑星だよね」

 やっと俺は自分たちの艦が運んでいる積荷の重要性に気がついた。

「おかしいだろ? 貴重なエネルギー資源を軍事的にあまり意味のない資源採掘基地に運ぶなんて、それも地球との最終決戦が近いというこの時期にだ」

「それで、名探偵マルコーニさんの意見としては?」

「うむ、ワトソン君、私の推理としては、これから行くのは大艦隊が駐留している火星の秘密基地だよ。我々は極秘任務を帯びて、艦隊に燃料を届けるわけだ」

 マリオは床に固定され前後にスライド式で動くようになっている椅子の上で偉そうにふんずりかえった。

「しかし、わが軍には、そんな隠し玉はなかったと思うけど」

「甘いな。『将を射んと欲すれば、まず馬を射よ』だよ」

 微妙に残念なことわざセレクションだ。

「そこで使うべきことわざは、『敵を欺くには、まず味方から』じゃないのか?」

「いずれにしてもだ、完全に油断している地球艦隊の横から、秘蔵の火星艦隊が襲い掛かるというわけだ。痛快じゃないか」

「そうかな……」

 マリオは想像力がたくましい。

 普段なら『そんなわきゃないだろ!』と一笑に附すところだが、昨日のリサさんの思わせぶりな態度が気になって完全に否定することができなかった。

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