リサさん
「あっ……」
下着を無事に洗濯機に突っ込み、食糧配給装置脇の給湯器に立ち寄ったところまでは順調だった。
しかし、フリーズドライの宇宙食に熱湯を注ぎ込む段になって、リンドルース中尉は素っ頓狂な声を上げた。
「どうしましたか?」
見るとプラスティック容器からお湯があふれていた。
どう見ても入れすぎだった。
「……中尉の分は自分が作ります」
「……ごめんなさい」
意気揚々と自分の部屋を出たリンドルース中尉だったが部屋に戻るときはしょげ返っていた。
仕事中と違って、プライベートでは随分と喜怒哀楽のはっきりした人だ。
「いつものより、おいしい……ダイスケくんて、何でもできるのね」
『いや、お湯を適量入れただけなんですけど』
彼女の部屋で椅子に腰かけて、俺は妙に味の薄い鶏肉のトマト煮をつついていた。
「ところで、中尉はどんな任務のために、この艦に乗ってるんですか? この間、見事な手際で航路計算をチェックしていましたが……」
「あのね、ダイスケくん、堅苦しいから、中尉って呼ぶの、やめてくれる?」
クリーム色のジャージ姿でベッドに腰かけていた彼女は、ビーフシチューを飲み下しながら少し拗ねたように言った。
「えっ、じゃあ、リンドルースさん……」
「そこは普通、リサさん、でしょ。君そんなんじゃ彼女とかいないでしょ」
「ほっといてください」
「嫌だ、図星?」
「図星ですとも」
「そっかぁ、彼女いないんだ」
リサさんは少し嬉しそうだった。精神的な優位を取り戻したのだろうか。
「それより、質問に答えてもらってません。中……じゃなくて、リサさんはなんでこの船に乗ってるんですか?」
「私の本当の仕事は、目的地に着いてからよ」
急に笑顔が引っ込み、リサさんは真顔になった。
仕事がらみだとやはりこういう表情になるのだろうか。
「小惑星帯の資源採掘基地にですか?」
「そういうふうに聞いてるの?」
「えっ? 何か違うんですか?」
「ううん、別に違ってはいないわ」
「行きは燃料を届けて、帰りは作業員を連れて帰ると聞いていますが」
「あってるわよ」
「じゃあ、なんで?」
まだ、何かあるように彼女は匂わせるのだろう。
「ひ・み・つ」
なぜか、俺に向けた小悪魔のような微笑は寂しそうだった。




