オ部屋
「こんな状態で人工重力発生装置が止まったら、えらいことになりますよ」
再生可能なプラスティック容器をえり分けて、俺は持っていたビニール袋に入れていった。
食べ物が残っている場合は、生ごみ用の別のビニール袋に食べ残しを入れる。
俺は嫌な臭いに顔をしかめた。
「入港時には片付けるつもりで……」
彼女の声は消え入りそうだった。
「戦闘時も止まりますけど」
「ごめんなさい……」
プラスティックごみと生ごみの分別仕分けが終わり俺は燃えるごみの分別に着手した。
鼻をかんだティッシュや化粧に使ったと思われるコットンをテキパキとビニール袋に入れていく中で脱ぎ散らかした下着に出くわした。
小さな白いパンティだ。
「これは洗濯ということでいいですか?」
さすがにいきなり手に取ることはせずに、指をさして彼女に聞いた。
所在なさげにもじもじと突っ立っていたリンドルース中尉は、慌てて俺の方に手を伸ばしてきた。
「あっ、恥ずかしいから見ないで!」
「じゃあ、下着は自分で片づけてください! ランドリーの場所は知っていますか?」
「ごめんなさい。わかりません」
すっかりしょげ返った様子のリンドルース中尉に俺は少し辛く当たりすぎたかなと反省した。
年上で階級も上だが、大人に叱られている小さな子供のようだった。
俺は思わず孤児院のチビたちを思い出した。
そばかすだらけのナナも叱られるとこんな表情をする。
「わかりました。あとで案内します」
俺はリンドルース中尉の目を見て、努めて優しく言うようにした。
「すごい! 自分の部屋じゃないみたい」
化学雑巾で机の上をきれいに拭き、散乱していたごみを全て片付け、お掃除シートをつけたモップで床をピカピカに磨き上げた。
ベッドメイクはホテル並みだ。
「お礼に私が御飯を作ってあげます」
リンドルース中尉は小躍りして軽いステップを踏むと、俺に笑顔を向けた。
「恐縮です」
不覚にもリンドルース中尉のことを『かわいい』と思ってしまった俺は少し口ごもりながら答えを返した。
御飯を作るといってもどうせフリーズドライの宇宙食にお湯を入れて蒸らすだけだ。
でも、リンドルース中尉にやってもらえるのは悪い気はしなかった。
「鶏肉のトマト煮とビーフシチュー、どっちがいい?」
「鶏肉のトマト煮で」
リンドルース中尉は軽くうなづくと、机の横の棚から円筒形のプラスティック容器を二つ取り出した。
「じゃあ、行きましょう」
彼女はすっかり元気になっていた。
ついでにランドリーに洗濯物を持っていくことにした。
「なんで、食糧が余分にあるんですか?」
「量が多くて、一回じゃ食べ終わらないのよ」
きっちり一日分が機械で配給されるはずなのに食糧のストックがあることに疑問を抱いた。
確かにビーフシチューは昨日のメニューだ。
「軍隊の食事って、明らかにマッチョな男性向けのカロリー設定よね、デブになったらどうしてくれるのって感じ」
足りないことを心配するマリオみたいなやつがいる一方、食べきれない人がいるというのは意外だった。
リンドルース中尉は随分と表情が生き生きしていた。
クールな雰囲気の彼女をかっこいいと思ったが、こちらの方が魅力的だ。
「ん? 何?」
「いえ、何でもありません」
彼女の横顔を見つめる俺に気づいて彼女は黒目がちの瞳を俺に向けた。
何かを見つけようとしているような彼女の視線に、俺はしどろもどろになってしまった。