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俺と彼女と宇宙輸送艦セドナ  作者: 川越トーマ
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艦内清掃

 俺は自分に気合を入れなおすと、真剣に艦内清掃に打ち込むことにした。

「失礼します」

 手始めに副長室に入った。

 ちなみに艦長は中央制御室で執務中だったため、清掃は後回しにせざるを得なかった。

「早速、悪いな」

「いえ」

 クラウゼン副長は机に座ってタブレット型の端末を操作していた。

 チラリとみると食糧や日用品の艦内在庫をチェックしているようだった。

『そうなんだ。その手のことも副長の仕事なんだ……』

 俺は少し驚くとともに間違っても学生気分で食糧や日用品をちょろまかすのはやめようと心に誓った。

 性格のきつそうな副長のことだ、見つかったらきっと酷い目にあわされるだろう。

『マリオにも言っとかなくちゃだな』

 俺は掃除すべき場所を確認するため室内に視線を走らせたが、室内は驚くほど片付いていた、

 机の上はきれいに磨かれ、ベッドメイクはホテルのように完璧で床の上には塵一つない。

 化学雑巾と使い捨てのお掃除シートをつけたモップと分別仕分け用のごみ袋を抱えた俺は、とりあえずモップで床清掃を開始した。

「ずいぶんきれいなお部屋ですね」

 髪の毛やほこりなどが見当たらない床にびっくりした俺は、心の底からそう思って思わず口に出した。

「士官として当然のたしなみだ」

 クラウゼン副長は鼻にかけた様子もなく、タブレット端末を操作しながら答えた。

「奥さんと娘さんですか?」

 副長に視線を移した俺は机の上のフォトスタンドに気づいた。

 きれいな若い女性と五、六歳のかわいい女の子が写っていた。

 普通、フォトスタンドと言えば、デジタルの画像データをスライドショーで映し出すものが一般的だが、残念ながら艦内には電子機器は持ち込めない。

 艦内で家族写真を見るために、昔ながらの紙に印刷して持ち込む人間も多かった。

「ああ」

「凄い美人の奥さんとかわいらしい娘さんですね」

 お世辞ではなく、本当に美人で、本当にかわいかった。

「ああ、とても美人だったし、かわいかった……」

『すごいなあ、自分の奥さんと娘を褒められて謙遜するどころか自慢するなんて……』と思わず笑みを漏らしそうになって、語尾が過去形だったことに気が付いた。

 胸元に冷たいナイフを押し当てられたような気分になった。

 副長の表情を見るとプラスの感情は一切浮かんでいないように見えた。

 触れてはいけない話題だったらしい。

「申し訳ありません」

「いや、こちらこそ悪かった……残念ながら死んだよ。この間の地球の無差別攻撃で」

 二ヶ月ほど前のことだ。

 火星の高速機動艦隊を模倣した地球の艦隊が火星の絶対防衛圏を超高速で突破し、地上への攻撃を行った。

 核ミサイルは国際条約でその使用を禁止されていたため通常爆薬ではあったが、一〇〇〇発近いミサイルが火星に襲い掛かった。

 衛星軌道上に展開する防衛艦隊や軌道要塞からなるミサイル防衛システムにより敵ミサイルの九九パーセントは迎撃したものの、残りは火星の首都タルシスシティに到達した。

 いくつものビルが倒壊し、数万人の非戦闘員が犠牲になった。

「理不尽ですね」

「俺は地球の奴らを許さない。決してな」

 静かな口調だったが、ぞっとするような冷気を漂わせていた。

 きっと、この人は俺なんかよりもはるかに地球艦隊と戦いたかったんだろうなと思った。

 輸送船で辺境任務なんて不満だったに違いない。

 しかし、副長はそんな雰囲気はまるで感じさせなかった。

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