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俺と彼女と宇宙輸送艦セドナ  作者: 川越トーマ
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特別任務

「これより通常の交代勤務体制に移行する。当直明けの者は休憩、次の当直の者は待機せよ」

 出港して一時間ほど経ってから、艦長から全員での勤務体制解除の指示がなされた。

「それでは休憩に入ります」

「失礼します」

 一〇名ほどの士官たちがバラバラと席を立った。

 俺はシフト上、次の当直扱いで待機、マリオは当直明け休憩の扱いだった。

 さすが学校出たての二人を同じ時間に当直を任せるリスクはとらないらしい、賢明な判断だ。

 それとも他にも意図があるかもしれない。

「ダテ准尉、マルコーニ准尉、ちょっと来てくれ」

 中央制御室から出ようとする俺たちを副長が呼び止めた。

「はい」

 雰囲気から察するに怒られるわけではないらしい。

 追加の説明か、何かの指示か。

「悪いが待機中は、二人で手分けして艦内清掃を行ってくれ」

 何となく予期した通り雑用の指示だった。

 機械化できない雑用は、新入りで階級も一番下の者がやるのは仕方がない。

 俺とマリオのシフトをずらした本当の理由はこちらかもしれない。

「概ね、一週間で居住区と共有エリアを一巡するように」

「かしこまりました。使用者の承諾を得て各居室も清掃するという理解でよろしいでしょうか」

「そのとおりだ」

 実は各居室の清掃は免除されるのを期待して確認したのだが、残念なことに免除にはならなかった。

『自分の部屋は自分で掃除するというルールにすればいいのに……』

「掃除はくれぐれもしっかり頼むな。俺はとってもきれい好きなんだ」

 艦長が横から口をはさんできた。熊のような顔に笑顔を浮かべていた。

「はっ、かしこまりました!」

 上官への絶対服従をたたき込まれている俺たちは、思わず姿勢を正して返事をしていた。


 いろいろと不満はあったものの、とりあえず個室がもらえたのは嬉しかった。

 士官学校では二人部屋だったのでプライバシーも何もあったものではなかった。

 当直待機中の任務として、とりあえず艦内清掃しか割り当てられていなかったので、まず、手始めに自分の部屋をぴかぴかに磨きあげた。

 実は俺は掃除は嫌いではない。

 父子家庭に育ったので、もともと家事全般こなすことができる。

 おまけに士官学校の学生寮でしごかれたので、掃除、洗濯、アイロンがけの腕はプロ級だと自負していた。

 しかし、悪辣な地球人とかっこよく戦うことに憧れて軍人になったのに、主な仕事が艦内清掃と天体観測では仕事に対するモチベーションは、いやがおうにも上がらない。

 覇気にかけた雰囲気で次の部屋を掃除しようと廊下に出ると、俺の部屋をノックしようとしていたマリオと鉢合わせした。

「やあ、ダイスケ、早速頑張ってるね」

「おう、マリオ。暇そうだな」

「当直明けだからね。当然だよ」

「当直しないでいきなり休みなくせに」

「そういうな。シフトを組んだのは俺じゃあない」

「まあ、そうだな」

「ところで、あの副長さん、凄いエリートらしいよ」

 廊下の左右に視線を巡らせ、誰もいないことを確認してから、マリオは低い声で言った。

「へえ」

「最年少の少佐で、何でも、今まで参謀本部付けだったらしい。セドナ勤務となったのは、つい先日みたいだ」

「お前、そんな話、どっから仕入れて来るの?」

「エヴァさん」

「誰? それ」

「索敵担当のエヴァ・エステバン中尉だよ」

『ああ、あの長い栗色の髪をアップにしている。小麦色の肌の女性士官か』

「まだ三時間くらいしか経っていないのに、女性からファーストネームを聞き出して、おまけに乗組員の個人情報まで仕入れるなんて。おまえ情報部にでも行ったほうがよかったんじゃないのか?」

 情報部の仕事はスパイ活動だ。

「褒め言葉と受け取っておこう」

 マリオは鼻の穴を膨らませると話を続けた。

「それよりもだ。これで俄然真実味を帯びてきたぞ」

「なにが?」

 マリオはその丸い顔をグイと俺に近づけてきた。

「この宇宙輸送艦セドナは重要任務を帯びているんだ」

「どんな?」

「それは、まだわからない。しかし、大戦の行方を左右するような重要な任務に違いない」

「それはないだろう」

「なぜ?」

「俺とお前が配属された」

 俺の身も蓋もない発言に、マリオは軽くため息をついた。

「……自虐的になるのはやめようぜ」

「変な妄想をするのもやめた方がいいと思うぞ」

「ダイスケ、まだ気にしてるのか? 『人生いたるところ剣山ありだ』どこに行っても人間活躍の場はあるもんだ」

 俺は思わず吹き出しそうになった。

「剣山じゃ大惨事だろ。それをいうなら『人間至るところ青山あり』だ」

「さすが、博識だな。俺が日本文化の師と仰ぐだけのことはある」

 俺が笑いをこらえながら説明するとマリオは笑いながら答えた。

 どうやらマリオは気落ちしている俺を慰めるためにいろいろと気を遣ってくれたらしいということに、俺はようやく気がついた。

 ことわざを間違えたのもわざとだと思う……多分。

「ありがとう、マリオ。気を遣わせて悪かった」

「何、気にするな」

 もうぐずぐず考えるのはやめよう。

 マリオではないが『石の上にも三年』というではないか。

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