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俺と彼女と宇宙輸送艦セドナ  作者: 川越トーマ
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艦内見学

「まずは居住区だ。居室は全部で一八ある。お前たちの部屋は、ここと……そこだ。好きな方を使うといい」

 そう言いながら、クラウゼン副長は俺たちのものとなるはずの部屋の一つを開けた。

 ウナギの寝床のような居室内はベッド、机、収納スペースがコンパクトにまとめられた大変狭いものだった。

 内装はほとんど白一色だ。

 士官学校の学生寮とは違って個室なのが、ありがたかった。

「居室は定員よりも一名分多いんですね」

 福利厚生の設備に並々ならぬ興味を持っているマリオがようやく口を開いた。

「ゲストルームだ。どの艦艇も実習生用に少なくとも一つは用意している」

 戦時中でなければ、俺たちもいきなり正式配属とはならず、実習生として扱われたんだろうなとふと思った。

「実習生ではないが、ゲストルームは現在使用中だ」

 そう言いながら、副長はゲストルーム扱いの居室をノックした。

「中尉、副長のクラウゼンです。艦内を案内します。一緒に来てください」

 そんなに広くないはずの居室内をパタパタと動き回る気配がして、内開きのドアが開いた。

 そして、火星宇宙軍の赤と黒の軍服を見事に着こなした若い女性士官が現れた。

「よろしくお願いします」

 それは乗降口で見かけた、リサ・リンドルース中尉だった。

 白磁のような白い肌に、大きな黒い瞳、漆黒の髪をショートカットにした知的な美人だ。


 副長は厳しい雰囲気ではあったが、艦内を親切に案内してくれた。

 副長の説明は的確でわかりやすかった。

「シャワー室、トイレ、洗濯室、トレーニングルームは共有だ。使用上のルールは、今渡した『艦内生活の手引き』という小冊子に書いてあるから、よく読んで頭に叩き込んでくれ」

「はい」

 リンドルース中尉も含めた俺たち三人は副長から雑誌サイズの冊子を渡された。

 共有スペースは居室エリアのすぐ近くにあり、実用一点張りで何の装飾もない味気ないものばかりだった。

「これは自動の食糧配給装置だ。情報端末をかざすと一日分のフリーズドライ食品が配給される仕組みだ。横にある給湯器でお湯を入れ、もどして食べる」

「あの、通常の一人前で足りない場合は?」

 よせばいいのに、マリオが間抜けな質問をした。

「我慢しろ」

「はい」

 クラウゼン副長の視線は冷たかった。

 居室エリアと共有スペースの説明が終わり、蚕棚のような兵員輸送室を横目に見ながら、俺たちは一〇〇メートル以上、味気ない艦内通路を移動した。

 リンドルース中尉も一緒だったが、クラウゼン副長の醸し出す張り詰めた雰囲気のおかげで、話しかける機会を完全に逸してしまった。

 リンドルース中尉も真面目な人らしく、不必要な発言は一切しなかった。

「この艦は、レーザー核融合エンジンを採用している。ここが、その制御室だ。推進機関は操艦担当がメンテナンスの責任を負っている。普段は中央制御室で操作するが、修理が必要になった場合、ここに来ることになるので、よく覚えておけ」

「はい!」

 俺は緊張感をもって返事をした。

 制御室は鉛入りの強化ガラスの窓で巨大なレーザー核融合炉を見下ろす位置に設置されていた。

 数名も入ればいっぱいになる狭い部屋は、セキュリティ対策のため情報端末で入退室管理を行っていた。

 内部を詳しく見ることなく俺たちは制御室を後にすると、また、味気ない艦内通路を長い間、移動した。

「ここがミサイル格納庫、こちらも修理が必要な場合は火器担当が対応することになる」

「はっ!」

 位置関係で言うと居室や中央制御室のあるエリアとは正三角形の頂点を形成するようなところに二か所、ミサイル格納庫は設けられていた。

 艦を回転させるときの重量バランスの問題と、誘爆が発生した場合の安全の二つを意識した配置だと思われた。

 その後、巨大な貨物室を見せられて、艦内見学は終了した。

 今回、輸送するのは核融合エンジンの燃料として使用する水素とヘリウムの放射性同位元素、重水素とヘリウム3であり、すでに搬入作業は終了しているとのことだった。

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