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俺と彼女と宇宙輸送艦セドナ  作者: 川越トーマ
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辞令交付式

 宇宙輸送艦セドナの中央制御室は、コンピューターシステムの端末と大小様々なモニター画面に埋め尽くされた部屋で窓はなかった。

 代わりに正面壁面に大型スクリーンが設置され外の景色を映し出していた。

 広さは人間が二〇名も入ればいっぱいになる程度で、座席は映画館のように階段状に四列設置され、最前列に三名分、二列目と三列目は六名分、最後列には艦長席と副長の席、そして予備の席が配置されていた。

 各種モニターやスクリーンに表示されたデータが際立つように照明は薄暗く調整され、キーボードを叩く音やコンピュータを冷却するためのファンの音が微かに響いていた。

「最少当直人数は五名だが、現在は出港を控えているので全員配置についている」

 宇宙船では通常、二四時間三交代制のシフトを導入しており、宇宙輸送艦セドナの場合、操艦、索敵、通信、そして火器二名の五名が最少当直人数だった。

 年齢はともかくとして女性士官もいた。

 策敵担当の士官は長い栗色の髪をアップにした小麦色の肌と赤いルージュが印象的な女性だった。

 少なくとも、おっさんばかりと言うわけではなかった。

「おはようございます!」

 俺とマリオは艦長席の前に案内された。

 艦長は強面の熊のような大男で、頭髪は癖のある赤毛だった。

 彼はのっそりと立ち上がると、こげ茶色の瞳をまっすぐ俺たちに向け、ゆっくりと、近寄ってきた。

 夜道だったら思わず身構えてしまっただろう。

「よく来たな。早速だが、セレモニーを済ませてしまおう。副長!」

「はっ!」

 長身で引き締まった体型の猛禽類のような男が弾かれたように立ち上がった。

 短く刈り上げたライトブラウンの髪を整髪料できれいになでつけており、薄茶色の瞳は冗談が一切通じそうにない峻厳な光を放っていた。

 副長は紙にプリントアウトした『辞令』を手に艦長の横に立つと、そのうち一枚を艦長に渡した。

「ダテ・ダイスケ准尉」

「はい!」

 艦長の低い声が響き、俺は一歩前に出て敬礼した。

「操艦担当を命ずる」

「ダテ・ダイスケ、操艦担当を拝命します」

 俺は艦長から『辞令』を受け取ると、一歩後ろに下がった。

「マリオ・マルコーニ准尉」

「はい!」

「火器担当を命ずる」

「マリオ・マルコーニ、火器担当を拝命します」

 もうすでに情報端末を通じて配属は内示されていたので、まさしくセレモニー以外の何物でもなかった。

「輸送艦セドナ乗組員は諸君を歓迎する。私は艦長のイヴァン・イワノフだ。まずは、この艦に慣れてくれ。案内は副長に頼む」

 イワノフ艦長の階級章は中佐だった。

 戦闘艦なら巡航艦を任される階級だった。

 補給艦は軍の中では重視されているらしい。

「私は副長のクリストファー・クラウゼンだ。よろしく頼む」

 クラウゼン副長の瞳は鋭い光を放ったままだった。

 階級は少佐、小型艦の艦長か、大型艦の副長を任される階級だ。

「はっ!」

 俺たちは緊張を緩めることなく敬礼した。

「では、ついて来たまえ」

「はい!」

 中央制御室を出る直前、改めて室内を見回したが、不思議なことに先程の女性士官、リサ・リンドルース中尉の姿は見えなかった。

『正規の乗員じゃないのかな?』

「早速だが、輸送艦セドナの諸元は把握しているか?」

 中央制御室を出て、廊下を歩きだした途端、クラウゼン副長は鋭く質問を浴びせてきた。

「全長四〇〇メートル、最大積載量五〇万トンの大型輸送艦であります」

 俺は即座に答えた。

 一瞬、マリオに回答の権利を渡そうかと思ったが、きっと、奴は把握していない。

 チラリと視線を送ると、案の定、眼球が自信なさげに泳ぎ回っていた。

「ふむ。乗員の人数は?」

「定員は十七名。他に兵員を二〇〇名ほど乗せることが可能です」

「武装は?」

「迎撃ミサイル発射管二、防衛用パルスレーザー砲二、以上であります」

「合格だ。期待しているぞ」

「はい!」

 俺は小さく安堵の息を吐いた。

 印象通りの厳しそうな人だった。

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