実は、言い忘れていたことが。
で、どうなったかと言うと。
何故か、ギルドに登録させられた。
勇一人の戦闘能力で森を抜けてきたことが評価されちゃったらしい。
失踪者探しをするなら冒険者になっておいたら損はないとかなんとか。
例えばこっちで装備を買うなら、冒険者割り引きするよとか。
装備と言われてもピンと来てはいなかったのだが、学生服とジャージの俺たちはちょっとどうかと思うし、そう言えば年齢も20歳くらいに設定して動けと言われていたのを思いだし、ならばそのサイズの着替えも必要だろうとなった。
また、こっちの世界のことを知らない俺たちにとって、ギルドマスターさんはいい情報源だ。
今なら入会無料にしてやる、というどこぞのポイント会員登録みたいなことを言われ、あれよあれよと言う間に俺たちのギルドタグが出来上がった。
それぞれの名前と登録番号が書かれた、五センチほどの金属のプレートで、首からかけられるチェーンがついている。
「よし、じゃあ君たちの世界から来た奴の情報が入ったら教えてやるから、定期的に聞きに来いよ。宿と武器や防具の店はギルドタグを見せたら割り引きが効くから、とりあえず見せてみるといい。頑張れよ。」
失踪者を探すために異世界へ乗り込んできたというのがどうやら気に入られたようだ。
今の姿では、子どもが、と止められるかとか思ったが、どうやらこの世界では十代半ばなら成人扱いらしい。
日本でも数百年前の武士ならだいたい元服の年だから、そんなもんかと納得する。
教えてもらった宿を確認し、同じく冒険者用の服と防具が売っていると教えられた店がいくつか並ぶ辺りで俺たちは立ち止まった。
「じゃ、各自買い物して用意ができたらさっきの宿集合で。」
翔が、じーさんから支給された軍資金を配って、解散。
さて... 買い物かぁ...
正直なところ、異世界用の服と言われても何買ったらいいかさっぱりわからず、とりあえず入った店の試着スペースでこっそり年齢をいじった。
腕輪の年齢設定アイコンを開き、20歳で決定。
「... おおお?」
なるほど... そんな感じか。
身長がそんなに変わらなかったので、今着てるジャージのまま試着スペースから出て、店員のお姉さんに相談。
変な色の変な服着て入ってきた異邦人の客が、何故か髪型とか変わって出てきたことに胡散臭さマックスのお姉さんだったが、ギルドタグを見せてギルドマスターさんの紹介だと言ってみるところりと接客モードになった。
異世界の柔軟性すげぇ。
あんまり物々しい装備を付けるのも気恥ずかしかったので、動きやすい服と、初心者向けだと言う簡易レザーアーマーを見繕ってもらった。
服は着替え用に数着。下着も、なんかよくわからなかったが数着。
それから、ずっと懐で大人しくしていてくれたクロちゃんを入れるためのポーチ。
着替えて鏡に映った自分を見てーーうーん、やっぱり、ハズいなぁ。
選んでいる途中で勇や翔に会わなかったのが、幸いなのか逆に精神的ハードル上がったのか。
むむむ...
なんだかドキドキしながら、待ち合わせた宿へと向かう。
まー、あれだ。
勢いで行こう!
「お待たせー。いやー、どんなの買ったらいいかわかんなくて難しいな!」
宿の前で待っていた二人に、後ろから声をかける。
「せやなぁ、けっこう迷ったわーーって、誰や!」
ピョン、と大袈裟に跳んで後ずさった勇は、もともと一七〇以上はあった背がさらに伸びた長身に黒っぽい服を着ている。
装備は俺と同じようなレザーアーマーに、籠手やすね当てをつけているのがなるほどと思う。
その後ろで声もなく驚いた顔をしている翔も、勇ほどではないが背が伸びている。
成長期男子の発育恐るべし。
俺がたぶん五センチかそこらしか伸びていないので、元の姿なら俺の方が翔より僅かに高かったはずなのにすっかり抜かされて、なんか悔しい。
そんな翔は比較的、元の世界の服装に近いコーディネートをしている。
紺色のズボンにベージュっぽいシャツ。防具なし。
そんな翔が、数回口をパクパクしてから、
「葵... ?」
やっと声を絞り出す。
「おう。待たせたな。」
照れ隠しにへらりと笑って見せる俺に、勇が喚く。
「お前ーー年齢どころか性別変わってんで?!」
そうだよなー、やっぱりそういうことで驚いてるんだよなぁ...
店員のお姉さんにはスカートやショートパンツをお勧めされたが、生足に慣れないのと明らかに防御力低いじゃんということで固辞し、妥協案でぴたりとしたスキニー風のズボンをはかされた。
ズボンでいいのか? パンツって言うのか? 色は黒。
トップスはロンTのような白い服で、着ると腰回りが隠れてミニスカ風になった。
その上からベージュのレザーアーマーを付けるとコルセットのようにウエストを締められ、わりと体の線が強調されて苦情を言ったのだが... 変にぶかぶか着たり男性用を付けたりした方がみっともなくなりますよ!とお姉さんは一刀両断。
そして、髪の毛は背中の方まで伸びていた。
「あー... 勘違いされてんのは分かってたけど... 俺、ああ見えてもともと女なんだわ。」
頭をポリポリと掻いて告白すると、今まで大人しくしていたクロちゃんが腰に付けたポーチから顔を出してキューンと鳴いた。