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とりあえず森を抜けよう

「で、どうするんだその生き物。」

 じーさんとの通信を切った翔が、ため息混じりに言う。

「... とりあえず、連れていっていいかな?」

 さすがに寝てたんじゃ肩から落ちそうなので、今はそっと両手に乗せている。

「飼えないぞ? 一緒に居られるのは最大一週間だぞ。その一週間も、遊んでるんじゃなくてやることあるんだぞ。」

「... はい。」

 ぐうの音も出ないがーーでもこっちにいる間に里親に託せる可能性とかゼロじゃないし。

 

「ほな、行くか。」

 勇が立ち上がり、俺がたちもあとに続こうとした、そのとき。

 

 寝ていた黒毛玉が、ぴくんと跳ね起きて藪に向かってシャー!と一声鳴いた。

 反射的にそちらを見たとたん、藪から飛び出したのはーー体長一メートル以上はあろうかという、ムカデだった。


「ーーっ?!」

 ビジュアル的ダメージを受けて声もなく三人で後ずさるが、ムカデの方はこちらを警戒しながらもむしろ距離を詰めてくる。

 ーーこちらの世界の生き物は好戦的、か。

 虫って一体どんな攻撃をしてくるんだろう。普通のムカデのこともよく知らないしな。


「どうする?」

「できれば逃げたい。」

 訊いた俺に答える翔。虫嫌い、とひきつった顔が語っているが、俺もムカデは好きじゃない。そしてこんなでかいのは嫌いだ。


「よし、逃げてみるか。先に行き!」

 勇が言い、

「え、でも。」

 俺も戦える、と言おうとすると。

「お前今両手ふさがってるやろ。追って来ないようなら俺もすぐ逃げるから、先に行き。」

 視線は大ムカデに向けたまま、勇がきっぱり言う。

 俺は手のひらの毛玉を見て、目を伏せた。


「自信は?」

 翔が聞き、

「ある。」

 勇が短く答える。

「葵、行くぞ。」

 言われて。

 ガルルルル、と、ウサギっぽくない唸り声を出す毛玉を胸に抱いて、俺は走り出す。


 ギチギチーーと、軋むような音がした。

「ちっ、やる気かっ。」

 勇の声が聞こえ、やっぱり心配で振り向くとーー


 勇が放った衝撃波で頭部にヒビが入り、大ムカデはのたうち回っていた。

「さすがに堅いんか。」

 仕留められなかったことを分析するような勇に、往生際悪く鎌首を持ち上げるムカデ。

 しかしその持ち上げた上半身(?)は、勇の中段蹴りの格好の餌食だった。

 ビシッとやたら綺麗な型で入った蹴りは、胴体と頭部を分断する。

「ーーすげ。」

 気づけば翔も立ち止まって振り返り、目を丸くしていた。


「いけたわー。」

 俺たちの視線に気づき、何でもないような軽い口調で言う勇。

「... お前、何か格闘技やってる人?」

「空手をちょっとなー。」

 訊いた俺に、ちょっと照れ笑いで答える。

「どうなることかと思ったけど、これなら村まで大丈夫そうだな。そいつも役に立ちそうだし。」

 そう言った翔の視線は、俺の方を向いていた。

「え?」

 俺今全く役に立ってないけど。ーーあ。

 俺の手の中には、またくつろぎ始めてる毛玉。

「せやな、そいつが気づかんかったら、俺ら対応遅れてたわ。」

「さすが野生動物。」

 勇と翔がニヤリと笑う。

「ーーだろ? 助けてよかったろ?」

「調子にのんなや。」

「行くぞ。」

 シャー!

「ーーえ。」

「うわ、今度は蛇やわ。」

「ーーっ!!」

 ... 森は危険がいっぱいらしい。




「くそ、やっとか。」

 建物が見えてきて、翔は心底げんなりした様子で言った。

 あれから一時間ほど森の中を歩いた間に、中型犬くらいの大きさのイモムシとか、一メートル級のゲジゲジとか、何か虫系ばっかりに数匹出会った。

 そのたびクロちゃんが早めに気配を察知し、そして勇が迎撃して事なきを得たのだが。


 ちなみに、クロちゃんというのはウサギもどき毛玉に付けた名前である。安直だけど。


 道に出てからはモンスターに襲われることはなかったが、そこから今までも30分ほどはかかっただろうか。

 戦ってた勇より翔がぐったりしているのは、でかいイモムシやゲジゲジからのビジュアル的ショックをいちいち受けていたせいだろう。

 なら転移は使えないのかと途中で訊いたところ、行ったことない場所への転移は着地点座標の設定に自信がないのでリスキーだとのこと。


 それはともかくーー


「ついたー!」

 村の入り口で、俺は思わず拳を突き上げた。

 慣れない世界でしかも森の中を歩くのは、なかなか疲れるものだった。

「まずは宿探しかな... 」

 翔が歩みを進めながら辺りを見回していると。


「お前ら、ひょっとして異世界の連中か?」


 通りかかったおっさんに声をかけられて、俺たちは思わず身構えた。ーーそして気づいた。


 おっさん、そしてその向こうに見える何人かの村人は、西洋系の髪と肌の色。

 洋服も、俺らからすると見慣れない、レトロな感じの服。


 対して俺たちは、黒目黒髪平らな顔族で、俺は中学指定ジャージ、翔がブレザーで勇が詰襟。


 この村との違和感半端ない。


 てか、村人は異世界を把握してるのか。

 どんな感じに把握してるんだろ。


 ーーどうする?

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