反省会
目が覚めたら、宿の自分の部屋で、一人ベッドの上で寝ていた。
そもそもここはどこだっけ?ぐらいの状態から、徐々に意識がはっきりしてくる。
そっか、昨日いろいろあったんだった。
起き上がって、まだ少しクラクラする頭を押さえて、ゆっくり立ち上がる。
ふと傍らを見ると、ベッドの上でクロちゃんが首を傾げてこちらを見ていた。
そうか、一人じゃなかったね、と指で頭を撫でる。
隣の勇たちの部屋をノックすると、二人ももう起きていた。
ーー二人とも、まだ生傷が痛々しい。
「おはよう。けっこう寝てたな。」
ごく普通に翔が言う。
「先朝飯食うてたで。」
「ーー昨日、ごめん!」
流れをぶったぎって、あたしは頭を下げた。
「や! 別に! 気にしてへんし! 別に嫌やなかったし!」
「... あんなに、流血して骨折したのに、嫌じゃなかった... ?」
マゾか?
いぶかしげに顔を上げると、何故か立ち上がってた勇は顔が赤く、しかもそこからさらに赤くなった。
「ーー嫌やった! 痛かった!」
「お、おう... ごめん。」
沈黙。
「... まぁ、とりあえず、風呂入ってこいよ。昨日強制スリープみたいに寝ちゃっただろ。体調どうだ?」
「ちょっとクラクラする。じゃあ、お言葉に甘えて... 」
気まずけにどしんと椅子に座り直した勇に首をかしげつつ、俺は翔に言われるがまま浴室に向かった。
体を洗ってさっぱりして、宿の朝食をとると、だいぶ体調が戻ってきた。
「確かに、顔色もようなったわ。」
改めて部屋を訪ねた俺の顔を見て、勇が言う。
「MP切れみたいなものだったのかなぁ、広範囲無差別攻撃かましたあとに治癒能力も使ったから。」
同じく、今度は翔が呟く。
「あのー、それなんですけど、... 昨日俺は一体何をしたんでしょーか... ?」
恐る恐る尋ねると、勇と翔は顔を見合せ、
「... だから、広範囲無差別攻撃。」
「そこんとこもう少し詳しく... 」
一言で済まそうとする翔に食い下がる。
「って言われても、やった本人がわかってないもの、俺らだってわかんねーよ。一瞬だったし。」
「せやなぁ... なんでか知らんけど、あのときコウモリが葵の方にばっかり群がって... 」
「ああ... あれ、なんでだったんだろう? O型だからかな?」
首をかしげたあたしに、
「蚊か。ーーまぁ、でも血を吸うから似たようなもんなんかな... 」
勇も首をかしげるが、翔は
「あれじゃね? 吸血鬼が好きなのは若くて美しいーー」
え。
「ああ、処女の血。」
翔の言葉で不覚にもドキッとしたが、そのすぐ後の勇の言葉でカッと頬が熱くなった。しかも、自分で言っておいて何故か俺の顔を見て赤くなる勇に、思わず手が飛ぶ。ペチンといい音。
「いっ! おま! まだあちこち痛いねんぞ!?」
「うるせー! ばかっ」
「ーーうん、今のはお前が悪い。人があえて言わなかったことを... 」
「フリなんかと思たわ...」
「フリだとしても踏みとどまればいいだろ... 」
俺が膨れつつ気持ちを落ち着けている間に、勇と翔はなんか言ってる。
ーーなんだ、今の色んな不意打ちは。全く。
「あー... ほら、それで?」
しばしの沈黙を打開するように、翔が勇に振る。
「あ、ああ... ほんで、あかんと思って助けようとしたら、水蒸気爆発みたいなんが起きて、吹っ飛んだ。翔はようあれで大怪我せんかったな?」
「とっさにバリア張ったから... けど、それでも防ぎきれなくて、それなりには飛んだけど。だから、バリアが耐えてる間少し、見えてたのは... 」
思い出すように、翔は口元に指を当て、
「龍... みたいに見えたかな。青白い龍が竜巻みたいにコウモリを巻き込んで殲滅してた。」
「えげつな。」
「... 龍、ですかー... 」
聞いても覚えがない俺は、さっきのセクハラショックからは立ち直って呟く。
「まぁ、覚えてないもんはしょうがないんじゃね? コウモリに囲まれて死ぬかと思って無我夢中ってことだろ。」
「そうです... 」
「そういうところがあるって自覚して、以後気をつけるように。」
「はい... 」
「以上。」
「... 怒ってないの?」
あまりあっさりした物言いに、ちょっと涙目になって言う。
「昨日怒ったじゃん。」
続けてあっさりな翔。
「そうだけど... 怪我までさせちゃったのに...」
「まぁ、治してくれたんもお前やしな。しかもぶっ倒れるまで。」
勇もケロリと言う。
「そうだな。それにーー」
翔は少し目を伏せた。
「うん?」
「俺も、もっとあのときできたことがあるはすだと思って。葵にコウモリが集まったとき、驚いてないでバリア張るとか引っ掴んで転移するとか、もっとサポートするべきだった。ごめん。」
「翔... 」
「俺もや。もっと早く加勢すればよかった。修行が足りんわ... 」
「...」
お前ら...
「くそー、いい奴かっ」
ーー抱きつこうとしたら逃げられました。