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コウモリとの戦い

 転移してきた先は、薄暗い森の中。

「... 思ったより暗いんだけど。」

「木に覆われてるからな。」

 翔の服の裾掴んだまま言った俺に、翔が返す。


「てか、どこがゲートや?」

 勇が薄暗い森を見回して言った。


 もともと見えないゲートーーと言うか、つまりは時空の歪みなのだろうから、明るくても暗くても変わらないのかも知れないが、とにかくさっぱりわからない。


「一応、わざと少し座標をずらして転移した。ほら、あのあたり、地面に動物の骨が散らばってるだろ。」

「あ... ほんとだ。」

 そういえば、クロちゃんのお母さんも何かにやられてたんだよな...

「おいっ!」

 勇の声がして、ぐいと肩を後ろに引かれた。


 と、左上から俺の頭のあった位置に向かって何かの気配。

 後ろに引かれる体勢のまま、右足を気配の方へ蹴り上げる。

 べしっ!と足に当たった何かを巻き込むように体ごと半回転し、着地。

 何かは地面に叩きつけられた。


「... なんや、今のカポエラみたいな動きは... 」

 半回転した結果向き合う形になった勇がポカンとして言う。

「オーバーヘッドの応用的な? さんきゅー。」

「文化部やて言うてなかった?」

「美術部だけど体育は好きだぞ?」

「もったいないとか言われへん?」

「だって絵を描くのが好きで、体育会系のノリが嫌いなんだもん。」

 言いながら自分が蹴った何かに目をやると、大きな黒い生き物がピクピクしていてーーさらり、と灰になった。


「コウモリーー?」

 言い終わらないうちに。

 やたら速い手刀で、勇が襲ってきたコウモリを弾き落とした。


 周囲を見渡すと、いつの間にか数匹の黒いものが獲物を狙うように旋回していた。


「翔、気を付けろ。」

 翔を背にして、俺と勇はコウモリたちを見上げた。


 連携するように左右から同時に襲ってきた二匹を、右手で払うようにして衝撃波で吹き飛ばす、つもりが、思ったより威力があって切り裂く。


 おお、いける。

 続けて、旋回している奴らにも二撃、三撃。

 個々には大したことはない。動きが速いが、大きさがあるし、対応できない速さじゃない。


 が。

 ヤバい、どんどん増えてる... 。

 確かに攻撃は当たっているのに、コウモリはどんどん増え続け、そしてーー突如一斉に押し寄せてきた。

「くっ... 」

 あっと言う間に取り囲まれ、薙ぎ払っても薙ぎ払っても目の前にはコウモリしか見えない。


 しまった、攻撃手段のない翔が危ない!

 慌てて振り返ると、

「え。」

 コウモリの羽ばたく隙間から、驚いてこちらを見ている翔がチラリと。その回りにはコウモリが、いないっぽい。


 なんでだ? いや、無事なのはいいけど、でも何それ!?


 右手で物理的にもコウモリを薙ぎ払いながら衝撃波を放つと、その隙間から見えた勇が相手しているのは数えるほどで、やはりこちらを見てびっくりしてる。


 え、ズルい、何それ、俺がびっくりだっ...


 取り乱して、隙ができた。

 コウモリたちとの距離が詰まり、羽ばたきがすぐ耳元で聞こえる。

 倒したら灰になって消えたってことは、やっぱり吸血鬼の眷属なんだよね?

 てことは、ひょっとして一回でも噛まれたらヤバい?

 ゲートの周りに散らばる小動物の骨を思い浮かべて、血の気が引いた。


 ぞわぞわぞわっと全身に寒気が走る。


「葵っ!」

 勇と翔の声が、ハモって聞こえてーー


「っうーーあぁあああ!」


 無我夢中であげた声と一緒に、体から何かが出ていったように感じた。


 周囲を風が吹き荒れ、髪がもみくちゃにされる。


 そして風が収まると、身体中の力が抜けて、俺は膝をついた。


 疲れた...


「ーー葵っ!」

 顔から突っ伏しそうになるのを、翔に抱き止められる。


「大丈夫かっ?!」

「うん... 痛いところはない、と、思う... 」

 地面に手をついて体を支えながら、俺は答えた。

「無事ならよかった... 俺は痛いけどな。」


「ーーえ?」


 顔を上げて見ると、翔は傷だらけだった。

「パニクったにしても! 味方が近くにいるのにあんな無差別攻撃やらかすなんて何考えてんだ!」

「... 俺... ? 何、した... ?」

「無自覚かよ... あっ!」

 立ち上がって、翔はぐるりと辺りを見回した。


「ーー勇っ!」

 駆け出す翔を追いかけようとして、足がもつれる。

 そんな自分を中心にして、辺りは半径五メートルほどの浅いクレーターが出来ていた。

 大きな台風でも来たように、木々も薙ぎ倒されている。


 そのクレーターの端に倒れている勇のそばに、翔が座り込む。


 持久走走ったあとみたいな疲労感を感じながら翔に追い付くと、翔は勇の頬をペチペチ叩いていた。

「っう... 」

 勇は呻いて顔をしかめるが、目を開けない。

「よし、だいぶ吹っ飛ばされたけど生きてるな。」

「... ごめん、あの... 何があった... ?」


 勇はボロボロだった。防御姿勢をとったせいか、両腕の怪我が特に酷い。


「説明はあとだ。とりあえず頭打ってそうだから、動かさないように気をつけて頭の傷治してやって。意識回復したら次は足。最低限動けるようになったら新手のコウモリが来ないうちに撤収するぞ。」

 言われて、慌てて勇の傍らに座り、頭に手をかざす。


 骨は大丈夫。後頭部に多少の出血とこぶ。軽い脳震盪。状態を感じとりながら、それぞれが回復するようイメージする。疲労感がいっそう強くなってクラクラするが、耐える。


「う... あ?」

 パチリと、勇が目を開けた。目が合う。


「ーー大丈夫かっ?」

 言ったのは勇だった。


「お前が大丈夫かっつーの...」

 呆れたように、しかしほっとしたように翔が言い、

「え。あ。痛い! ごっつ痛い!」

 勇がじたばたする。

「あの木の陰まで走れるか?」

「今!? どんだけスパルタやねん翔!」

 わりとある意味元気そうに勇が喚くがーー

「ーー確かに。撤退しよう。」

 翔は空を見上げて言った。

 つられて上を見ると、開けた木々の隙間から、先程のコウモリより大きそうな影がいくつか飛んでくるのが見えーー

 

 翔が俺と勇を掴んで転移した。

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