とある日の朝
あ~あ。退屈。また今日もつまらない一日が始まると思うと自然にため息が出る。ため息をつくと幸せが逃げるとかいうけど、もともと逃げる余裕があるほどの幸せを持ち合わせていない。
「おはよー!イチー!」
今、後ろから大きな声で走ってきているのは、大森奈々。幼馴染で私の親友だ。
ついでに言うと、「イチ」というのは、私のあだ名だ。平野睦月が私の名前。前は「むっちゃん」って呼んでいたのに、「睦月」は「一月」の別名と授業で言われて以来、ずっとこう呼んでくる。犬みたいで私は嬉しくないけどね…
話を戻そう。奈々とぼんやり話しながら学校についたら、まず、連絡帳と宿題を教卓の上に置く。一時間目の準備をして、ランドセルを後ろのロッカーに入れる。その後は…
「イチ!早く来て!ファンクラブ朝の会するよ!」
こう呼ぶのは、「WOSいろは50のファンクラブ」のリーダー(自称)、菅原真華だ。彼女は、このクラスの女子学級委員長。美人でリーダーシップがあるから、男子の票を集めたらしい。
「じゃあ、イチもそろったので、朝の会をしまーす!」
「WOSいろは50」というのは、最近流行っている女性アイドルグループ。上だけ浴衣の形のドレス浴衣を着ていることで有名。今や、音楽番組以外でも引っ張りだこの超売れっ子だ。
どんどん話が進んでいく。昨日の音楽番組でこの曲歌ってたとか、今度のアルバムがいつ発売だとか、ライブの日はいつとか、駅前のお店ならレアなグッズ売ってるよとか…
正直、私はいろは50のファンじゃない。上だけ浴衣のドレス浴衣は嫌いだし、歌詞の内容も意味わからないし、かわいい子が踊っているだけっていうのも嫌だ。でも、話を頑張って合わせているのは理由がある。
一つ目は、いじめられたくないから。話さえ合わせていれば、リーダーやその周りの人たちに守ってもらえる。一人でいるよりはずっといい。
もう一つは、奈々と別れたくないから。私がメンバーから抜けたら、もう親友として扱ってくれないかもしれない。奈々がいなかったら、独りぼっちになってしまう。そんな不安もあって、自分に嘘をついて話を合わせている。
「…っていう感じでいい?異論はないよね?」
「うん!」
みんなの元気のいい声。
「イチ?イチもいいよね?」
うっかり話を聞き落としていた私は、何の事かも聞かずに、
「うん。いいと思うよ。」
と、リーダーに笑顔で答えてしまった。
「よし、決定だよ!花火大会の日は、みんなでオソロのドレス浴衣、着て行こうね!」
ええ~!嘘でしょ!
「週末にみんなで買いに行こう!そうしたら、忘れないもんね!」
リーダーの右腕、沢田凛が言う。どうしよう…




