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拒絶……

「そなたが混乱するのも無理はなかろう。じゃが、信じてほしい。彼女はこの世界のセイナであって、そなたの知る星奈様ではない」


目の前の老人は優しい顔でそう告げた。

アルフと呼ばれていた少年に蹴り飛ばされて、意識を失った俺は、日が沈んだ頃にようやく目が覚めた。そして、この村の長老の家に連れてこられ、フォステルと名乗った老人から、セイナについて聞かされたのだ。けれど、俺はまだ納得できていなかった。

だが、それよりも先に聞いておかなければならないことがたくさんある。


「セイナのことは後でもう一回ちゃんと確かめるとして、ここはいったい何なんだ?あんたはさっき、この世界(・・・・)のセイナって言ってたけど、まさかゲームみたいに違う世界にワープしましたなんて言うつもりじゃないよな?」


俺の言葉に、老人は愉快そうに笑いながら答えた。


「ほっほっほっ、さすがは主様。ゲームとやらはわかりませんが、正しく、そなたが申したように、そなたは別の世界に飛んできたのじゃ。この短い間にそこまで理解されておるとは、彼の使いの主だけのことはある。ほっほっほっ」


俺は自分の額に手を当て、全力で頭痛がしそうなのをこらえた。


この爺さんは何を言ってるんだ?

ここが別の世界?

そんなのありえないだろう?

もし仮にそうだとしたら、なんで俺はこの人たちの言葉理解できてるんだ?

ファンタジーだからなんでもありってか?

じゃぁ、俺はなんでこんなところに来ちゃったんだよ?

星奈がシスターの格好をしてるような世界で…………そうか……


いろいろな思考のすえ、俺は一つの結論を出した。それならば、すべてに辻褄があう。


「うん、これは夢だな」


そう呟いた瞬間、後ろから頭を叩₍はた₎かれた。


「ぃでっ!? 」


後頭部を押さえたまま、うしろを振り向くと、アルフ少年が手を前に出して俺を見下ろしていた。


「いい加減に現実を見ろ。今、お前の前には長老がおられるのだぞ」


「これ、アルフ。暴力はいかんぞ」


「はっ、申し訳ありません、長老。ぬしさま(・・・・)の頭にブブが止まっていましたので、お取りしようとしたのですが、逃がしてしまいました」


長老の言葉にすら臆せず、俺に敵対心を見せる少年に、長老はため息をついていた。


「まったくおぬしは……、まぁ、よい」


まぁ、よくはないよ、お爺さん。という突っ込みは置いといて、俺はずっと気になっていたことを質問する。


「その、主様っていうのはなんなんだ?俺はそんな偉そうな感じの奴じゃないぞ?金だって持ってないし、優等生ってわけでもないし、魔法やら超能力やらのとんでも能力を持ってるわけでもない」


俺の質問に、長老は目を大きくした。そして、再び笑い声をあげる。


「ほっほっほっ、そなたが何も知らぬのは仕方のないことじゃ。本来は順を追って、説明させていただきたいのじゃが、我々にはもう時間がないのです。ですから、この世界『広大なる大地(グリン・グランデ)』で起きた変容と我々の直面している問題についてかいつまでお話しさせていただきます。無論、そなたの役割とそなたが自身の世界『地球シー・ブルー』へ帰る方法も」


長老は俺にいろいろと説明をしようとしてくれている。それはわかるのだが、その前に確認しなければならないことがある。でなければ、この人たちがただの妄想カルト教団だという可能性を捨てることができない。


「気を悪くしないでほしいんだが、俺はまだここが元いた場所と別の世界だってことが信じられない。ただあんたたちが俺を誘拐してこの封鎖された村へ連れてきた可能性だって十分あるんだから」


「お前は私たちが誘拐なんて犯罪をしているっていうのか? 」


アルフが俺をにらみつけてきたが、事情はどうあれ、これが誘拐には違いないだろう。仮にここが本当に別世界だったとしても、同意もなしに無理やり連れてきた時点で誘拐なのだから。

そんな突っ込みを頭の片隅で考えていると長老が手を上げて、アルフを止めた。


「アルフ、主様の言葉はもっともじゃ。セイナ、見せて御上げなさい」


長老の言葉にはいと返して、セイナは自分の胸の前に右手をかざした。そして、何事かをつぶやくと、掌に小さな火がともる。その火は何もない空中でゆらめいていた。そして、右手を握った瞬間に火は淡い光のかけらとなって消えた。さらに、セイナはもう一度右手を開きを、今度は別の言葉をつぶやく。すると、掌には水の玉が浮かんでいた。よく見ると、水の玉は、中を空洞にしてぐるぐると回り続けている。そして、先ほどと同じように手を握った瞬間、水の玉は光のかけらとなって消えた。

今、目の前で起きたことが手品とは思えない。まだ、何らかのトリックという可能性があるが、某アニメのミスター悪魔のように、いつまでもトリックだと思うほど頭が固いわけでもない。

一先ずはここが異世界だということを納得して話を聞くことにする。


「わかった、一先ずは信じる」


まだわずかに疑いを持っている俺に、アルフがにらみを利かしてきたが無視する。そんな俺を見て長老は笑って口を開いた。


「ほっほっほっ、主様は中々に疑り深いと見える。まぁ、それはもっともな話じゃから仕方がないがの。それで、我々の話は聞いてもらえるかのう?そなたが元の世界に戻るためにも、聞いてもらわなければならぬのじゃが」


長老は薄く開いた目で俺を見据えてくる。

この老人は穏便に話いるつもりかもしれないが、俺からすると話を聞かなければ、お前を家に帰すことはできないという脅しでしかない。

俺は目をつぶり、数瞬の黙考のすえ、ため息を吐いて覚悟を決めた。


「わかったよ。とりあえず、話だけは聞かせてもらう。けれど、その役割とやらは聞いてからやるかどうかを決めさせてもらう。それでいいな」


もちろん、たとえどんな役割だろう受ける気はない。こんなまともじゃない手段で連れてこられたんだ。その役割がまともなものじゃないのはわかりきっている。だから、家への帰り方を聞くために、俺はひとまずは長老の話を聞くことにした。


「聞いて下さるのなら、それでかまいません。では、話させていただきます。セイナ、アルフ、少し長くなる話じゃ、お主らも適当にかけなさい」


長老の声掛けに、セイナとアルフがそれぞれ返事を返し、俺の隣の椅子へと座った。セイナが俺の隣へ座ろうとしたときに、無理やり椅子をねじ込んでアルフが座り、俺に向かって舌を出したことは、無視してやった。その様子を見て、長老がため息をつくだけで何を言うこともなかった。


「まずは、この世界で起きた、変容についてじゃ。

この世界『広大なる大地グリン・グランデ』では、長い間国家間での争いもなく、周辺の村や街には平和が続いていたのじゃ。じゃが、15年前の話じゃ。突如、世界各地でダンジョンと呼ばれる遺跡が出現した。そのダンジョンには魔族が住み着いており、中に入ったものを容赦なく襲ったのじゃ」


長老がお茶を手にして、いったん話を区切った。その間に、今の話を聞いて思ったことを素直に口にする。


「そのダンジョンってやつ、中に入ったものを襲ったってことは、入らなければ何も問題はないんじゃないか? 」


俺の質問に、長老は静かにうなずいた。


「うむ。不思議なことに魔族はダンジョン内を出ることはなかったのじゃ。じゃから、各国で調査団以外は立ち入ることを禁じるだけで被害は抑えられたのじゃ。まぁ、一部の馬鹿どもがダンジョンには宝があるなんぞと噂をたておったせいで、それを探し出そうとしたものが命を落とすことが稀にあったがの」


長老の言葉には嫌気のようなものを感じた。確かに俺たちの世界にも海には財宝がある、あの山には財宝があると言って、海底探索に行って命を落とす馬鹿が過去にいた。そういう馬鹿は、どこの世界にもいるものなのだろう。

長老は咳払いをしてから、さらに続きを話し始めた。


「じゃが、ダンジョンが出現してから10年後に事件が起きたのじゃ。世界中に出現していたダンジョンから、魔族が一斉に外へと出て、周辺の村や街を襲ったのじゃ」


長老の話をある程度予想していた俺は、そこまでの衝撃は受けなかった。しかし、隣に座っていた二人はその時の恐怖を体験しているのだろう。その時感じた恐怖や悔しさを思い出しているように感じられた。


「そして、主要な国々の間でダンジョンの攻略をすることが第一優先事項とされたのじゃ。じゃが、それはダンジョン内におる魔族によって、容易には叶わなかったのじゃ。

そこで、我々の国『赤の国(イグナルド)』では魔族対策として、そこにおるセイナのように魔力が強いものがダンジョン攻略の鍵として、召集されたのじゃ。そして、アルフはセイナの護衛役として、一緒に旅をしておった。当時は他に後三人旅の同行者がおったのじゃ。セイナもアルフもこの村出身じゃ。本来ならば、選ばれた者たちは村総出で歓迎をしなければならんのじゃが……」


「そんなことをされたら、かえって落ち着きませんよ、フォステル長老」


セイナが苦笑いで返し、アルフがしきりに頷いていた。


「おほん、話がそれたのう。

それでじゃ、魔力が強いものが集められ、再びダンジョン攻略が始められたのじゃが、結局それは叶わなかったのじゃ。なぜなら、いくら魔族を倒したところで、再び復活してしまうからじゃ」


さすがにこれは予想をしていなかった。どんなゲームやファンタジーでもボスを倒せば、平和が取り戻せるし、ボスは復活することもない。それが、倒しても倒しても復活するとなれば、せいぜい復活するまでの間の平和を取り戻すしかない。これはいよいよ雲行きが怪しくなってきたなと、俺は感じ始めた。


「聡いそなたのことじゃ、もう察しておるかもしれんが、倒しても復活するのならば、とりあえず、倒して、魔族の進行を抑えることしかできなかったのじゃ。実際に世界各国がとった行動は同じようなものじゃ。

しかし、セイナを率いていた賢者様が魔族を完全に消滅させる方法を探し出したのじゃ」


その言葉を待っていた。と、言いたいところだが、この話と俺が呼ばれたことの理由をつなげるには、もはやここしかないじゃないか。俺は小さな頭痛を感じ始めていた。


「その方法とは、魔族の浄化の力を持つものを他の世界から呼び寄せることじゃ」


嫌な予感は的中してしまった。俺は額に手を当て、眉間にしわを寄せる。そんな俺に構わず、長老は話をつづけた。


「しかし、世界と世界を隔てる壁はあまりにも厚く、世界のことわりを超えるほかなかった。それを行える者、世界と世界の壁すらも超えることができる者を賢者様は見つけ出した。

それこそがそこにおるセイナじゃ」


俺はちらりとセイナの横顔を盗み見た。てっきり誇らしげにしているか、はたまた恥ずかしがって俯くか、そのどちらかだと思ったが違っていた。セイナはまるで悪戯を咎められた子供のように悲しげに舌を向いていた。自戒の念を送るセイナの様子に俺は微かなひっかかりを覚える。

セイナの方に気をそらしている俺に気づいたのか、長老が咳払いをした。


「おほん。では、続きを話させていただこうかの。

セイナはそなたの世界の人間と唯一魂の繋がりをもっておった。それゆえ、その者をこちらに呼び寄せることができたのじゃ。我々はその者を彼の使いと呼んでおる。

3年前、ついに我々は彼の使いを呼び寄せることに成功したのじゃ。そして、ダンジョンの攻略をも示現した。」


「3年前?ってことは、俺以外の使いとやらがいたってことか?でも、それだと、唯一魂の繋がりを持っているってところに反するはずだろ?全く同じ魂を持つ人間なんているはずないんだから」


俺の疑問に、その場にいた3人が誰も答えずにいた。長老、セイナは悲しげな表情のまま何も言おうとはしない。それを見たアルフが耐えきれず口を開こうとしたとき、長老がそれを遮った。


「セイナの持つ魂の繋がりとは、セイナの魂との共鳴、それを成せる者のことじゃ。ゆえに、彼の使いとそなた、両者ともに呼び寄せることができたのじゃ。

じゃが、2年前、順調に行っていたと思われた攻略に綻びができた。彼の使いが『地球シー・ブルー』へと帰還している間に、魔族がダンジョンを攻略(セイナたち)するもの達を襲ったのじゃ。

それにより、セイナたちは全滅寸前まで追い込まれた。そこに、彼の使いが現れ、魔族どもを追い払ってくださったのじゃ。じゃが、儀式なしでのこちらへの移動に力を使い果たした彼の使いは倒れられ、帰らぬ人となってしまったのじゃ。そこで、新たに呼び寄せられたのがそなたじゃということじゃよ、星宮ほしみや 光介こうすけ殿」


長老の視線が俺を射抜くような鋭さを発している。それは、俺に拒否権を与えないためのものだろう。けれど、俺はそんなに気弱な性格をしていないし、万人のために命をかけるような慈悲も持ち合わせてはいない。ならば、俺の答えは一つだ。だが、その答えは俺にとってもっとも肝心なものを聞いてから答えるべきだ。でなければ、この明らかに嘘が混じった(・・・・・・)ホラ話に強制参加させられてしまう。

俺は長老の視線をまっすぐに見返して問う。


「今の話の中に、俺がもっとも聞きたいものが入っていない。俺が元の世界に戻るための方法ってやつだ。まぁ、ここが別の世界だってことすら、俺はまだ疑っているけどな」


俺の率直な言葉に、長老は目を閉じて黙考をした。その間に、アルフが俺につかみかかろうとして、セイナに抑えられていたが、俺は長老から視線をそらすことはなかった。

そして、長老が再び目を開いた時、まっすぐにこちらを見て重々しく口を開いた。


地球シー・ブルーへ戻る方法は二つじゃ。一つはセイナが再び儀式を行うこと。こちらはセイナの魔力を激しく消費するため、昨日行ったばかりではすぐには行えない。それに、魔族の進行も激しくなっておる今、この村の近くのダンジョンへすぐにでも行ってもらわなければならない」


「つまり、俺を呼び寄せた魔力の回復がすんだら、俺を返す前にダンジョンへもぐり、また魔力を消費する。俺が返してもらえるのは、さらにその消費した分が回復した後ってわけか……。俺はそんなに待てない。もう一つの方を教えてくれ」


「それは……」


一つ目の方法を否定した俺に、長老がもう一つの方法を伝えようとした時、アルフが怒鳴り声をあげて遮った。


「いい加減にしろよ、お前!!長老やセイナ様がどんな気持ちで……っ!? 」


アルフが怒声を上げている最中にセイナは、彼を抱きしめることで彼の言葉を止めた。セイナがアルフの耳元で何事かを告げると、アルフは悔しそうに下を向き、どかっと椅子に座りこんだ。

そんなアルフに向かって、セイナが小さくありがとうというのがかろうじて聞こえた。そんな二人のやり取りを見て、俺はなぜ自分の胸がうずくのかわかない。

俺の痛みもよそに、セイナは俺の方に向き直る。そして、何かを決意したその瞳で俺をまっすぐに見つめた。


「主様があちらへお戻りになれるもう一つの方法とは、私の魔力が完全に尽きたとき、つまり、私が死ぬことです」


それをきいた俺は、軽い自己嫌悪に見舞われた。星奈に自らが死ぬことなどと言わせてしまった。あいつは2回も死を……

そこまで考えたところで、俺は立ち上がり、自分の出した答えを長老に言い放つ。


「申し訳ないけど、俺は自分の命をかけてあんたちを救うつもりはない。悪いけど、他を当たってくれ。あんたのさっきの話が本当なら、俺以外の人間も呼べるんだろ?俺よりももっと慈悲深いやつを探してくれ。俺には無理だ」


俺はきっぱりと断り、長老の家を出ようとしたとき、長老が声をかけてきた。


「そなたがあちらに戻れるようになるまで早くて一週間後じゃ。すまないが、それまではこちらへいてもらうことになってしまう。仮宿を用意してあるから、そちらに止まって下され。アルフ、お前が案内をしてくれ。セイナには話しがあるのじゃ」


「し、しかし、長老! 」


アルフが声を荒げ、俺を糾弾しようとするが、長老に止められる。


「アルフ、頼む」


そんな長老の弱弱しい声を聴いてアルフが唇を噛みながら立ち上がる。そして、俺の前に出ると、ついてこいとどすの効いた声で俺を先導してくれた。

俺は長老とセイナの残された暗い部屋の扉をそっと閉じ、残されたものの絶望にそっと蓋をした。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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