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召喚……

とある村。その最奥に地下へと繋がる洞がある。地下は少しだけ入り組んでおり、その地理を知らぬものが入ると確実に迷うように仕掛けが施されている。この洞を進み、地下へと降りていくと、少し広めの空間に出る。その空間の中央には、円状の祭壇がある。

今、この祭壇の周りには村に住むすべての人々が集まっていた。しかし、その人数は、村の規模と比べ、確実に少なく感じられる。人々からは悲壮感が漂い、その瞳には救いのない絶望が浮かんでいた。

しかし、そんな絶望を受けてなお、希望の光を瞳に浮かべる少女がとある儀式を行おうとしていた。


「本当にやるのかセイナ。の使いはもう亡くなり、お主とかの世界『地球(シー・ブルー)』との繋がりは、断たれておるのじゃぞ。もし無理をすれば、彼の使いのように、お主も命を落とすやもしれん。それでも本当にやるつもりなのか」


顔中真っ白なひげで覆われている老人が、杖を突いて、セイナと呼ばれるシスターの前に立っている。

その老人の顔は、孫娘を心配するお爺さんのように、優しい顔でセイナを見ていた。

セイナは目を閉じ、胸の前で手を合わせ、祈りをささげるシスターの如く、静かに答える。


「はい、フォステル長老。もう、私には……、いえ、私たちには、これしかないのです。彼の使いがなくなられてから2年、私たちは幾度となくダンジョンを攻略しようとしました。しかし、やはり私たちだけでは、上位の魔族の者たちを倒すことはできないのです。賢者フローラル様とも連絡がとれずじまい。私にはもう、仲間たちが、私の家族が倒れていくのを黙ってみているなんてできません。ですので、私は必ず成し遂げてみせます」


セイナの固い意志に、誰一人として反対の言葉を口にできるものはいなかった。彼女の後ろで、彼女の護衛役を任されている少年が、唇を噛み、苦い顔をしている。

そんな少年の心情を察したのか、セイナが振り返り、少年の肩に手をのせた。


「そんな顔しないでください、アルフ。私は大丈夫ですから。これまであなたが守り続けてくださったこの命、絶対に無駄にはしないですから。それに、私には彼の使いが残してくださった守りの鐘があります。ですから、大丈夫です」


セイナの言葉に、溢れそうになる涙を、アルフは唇を噛む痛みで、無理やりこらえた。そんなアルフの悲痛を浮かべた顔に手をふれて、セイナはアルフの瞳を覗き込む。


「ごめんなさい、アルフ」


周囲の人間にその言葉の重みは計り知れない。そんな言葉を言わせてしまった自分に腹が立ち、アルフは目を閉じて自分を落ち着かせた。


「セイナ様は私たちの希望です。セイナ様ならきっと大丈夫です」


その言葉を聞いて、セイナはありがとうと笑った。そして、祭壇へと一歩一歩足を前に動かし、歩きだす。その歩みにあわせて、鈴の音がカラーン、カラーンと響いた。

背後では皆が跪き、祈りをささげる。

そして、祭壇の中央で跪いたセイナは、自らの命をかけて、儀式の祝詞を口にした。



♦♢♦♢♦



「けーちゃん、すごいよねー、今回も学年1位だって」


学校の帰り道、俺はいつものように星奈の横を歩いている。彼女が足を踏み出すたびに、鞄についている二つ鈴がカラーンカラーンと鳴る。その鈴の音とともに、彼女の他愛もない話を聞きながら、彼女の横顔を眺めている時間が、とても心が落ち着いた。


「剣道部のエースで学年トップなんて、叶わないよなー」


まぁ、帰宅部で成績中の上、クラスも離れている俺には関わりないけどなと心の中で付け加えるが、言葉にはしない。

それを察したのか、星奈が口を膨らませて説教をしてくる。


「こーちゃん、今、自分には無関係だーとか思ってたでしょ」


星奈がさっと俺の前に回り込んで、正面から上目づかいで覗き込んでくる。


「こーちゃんはね、やる気がないだけで、やればできるんだよ。ずっと一緒にいる私が言うんだから、間違いないの。ちょこーっとひねくれてて、物事をまっすぐ見れないだけなんだから」


自信満々で言うその姿に、俺は少しだけイラつきを覚えて、彼女の頭に腕を伸ばす。


「こーちゃん……? 」


そして、彼女の頭にふれ――


「いたた、痛いよ、こーちゃん! 」


彼女の頭を思いっきりぐりぐりしてやった。


「お前な、やる気がないってとこはまだしも、ちょこーっとひねくれてては完全に悪口だろ! 」


「いたっ、いや、そんなつもりじゃ、……あ、そこはだめ……」


ちょっと涙目になってきたので、それくらいで手を引いてやった。


「まったくもう、こーちゃんは本当に手が早いんだからー」


自分の頭をなでながら、涙目になっている星奈を見て、ちょっとだけやりすぎたかなと反省する。けれど、言葉はどうしても素直にはなれず、目をそらして口を開く。


「お前が余計なことばっかり言うからだろ、まったく」


ちらっと、彼女の方を見ると、星奈はまだ、頭をなでていた。俺はさらに罪悪感が沸き上がり、さっさとその場から離れようと、前へ歩き出す。


「ほら、さっさと行こうぜ」


そういって、星奈の前に行ったが、星奈が動こうとしない。とうとう観念した俺は、振り返って、謝罪をする。


「あぁ、もう、俺が悪かったよ。だから、早く帰ろうぜ」


それでも動こうとしない星奈を見て、様子がおかしいことに気づく。


「嘘……、なんで?どうして、こんな……」


「星奈……、どうした? 」


俺が尋ねても、何も反応を示さない星奈の肩に触れたその時――


「……め、…………ダメーーーーーーッ!! 」


星奈が突然叫びだした。俺は星奈の肩を掴み、こちらへ向かせる。そして、俺が見たのは――


「こーちゃん、私を助けて……」


額から血を流し、口から血を吐き出して助けを求める星奈の姿だった。


「うわぁああああああーーーーーー!!!! 」


俺は恐怖から叫び声をあげ、そして――――


「うるせーーーー!! 」


響き渡る怒鳴り声とともに、頭に強烈な衝撃を受けて、俺の意識は夢から現実へと引き戻された。

起き上がった俺が最初に見たのは、見慣れぬ衣装を身に着け、槍を持った少年と、フードで顔を隠したシスターだった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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