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平凡DEATHゲーム  作者: 月野 十六夜
8/10

第七話 熊

 山の中。行っても行っても山の中。

 楓とシリルは先程の町から少し離れた梁の中にいる。

 木々に覆われていて昼間なのにも関わらず太陽の光があまり差し込んでこないのであたりは薄暗い。


「薄気味悪い・・・なんか出そう」


「なんかって、魔物が出るんだからこうやって俺たちが退治しに来てるんだろ?」


 そうだった、と楓はガックリと項垂れる。

 まさか異世界に来て間もなく魔物退治をするなんて思ってもみなかった。いくら金がないとはいえ、もう少しましな仕事があったろうに。


「今更後悔なんてするなよ。それにこの世界について無知なお前をこうやってリードしてやってんだからありがたく思え」


「あ、ありがたくって・・・私別に頼んでなんか」


「じゃあお前をここに置き去りにして、お前一人でゲームをクリアするか?」


 またこの男は!!


「お願いしますからリードしてクダサイ」


 元の世界に帰る為には楓にとってシリルは必要なのだ。

 シリルがいなければ楓は今だ城の外でボーッと立ち往生していたかもしれない。


「気を抜くな。そろそろ現れるかもしれない」


 シリルに言われ、楓はびくびくしながら歩く。

 その時、近くの茂みからガサガサと葉っぱが擦れる音がした。

 反射的に楓はシリルの後ろに隠れる。


「お前な・・・」


「何よ!怖いんだから仕方ないじゃない!」


 音は次第に大きくなっていく。音が大きくなるにつれて何かがいる気配が強まっていく。

 楓は泣きそうになりながらギュッと目を堅く瞑り、シリルは腰の剣に手をかけ、茂みをじっと見つめる。

 が、


「あっ」


「えっ?」


 茂みから顔を出したのは、楓が予想していた恐ろしいものとは真逆の可愛い可愛い小さな子熊だった。


「わあっ!可愛い!」


 楓は喜んで子熊に近寄る。子熊もヒョコヒョコと楓に近づいてくる。


「バカッ!離れろ!!」


「えっ?何?」


 シリルが大声で叫んだその瞬間、子熊が見た目に似合わない恐ろしく低い声で唸りだした。


 グワァァァァァッ!!!


 大きく咆哮したかと思えば今度は、見る見るうちに大きくなり、五メートルはあろうかというほどの巨大熊になった。


「えっ、ちょっ、何?熊が・・・」


「だから離れろと言ってるだろ!」


 と言われても足がすくんで動くことができない。それどころか尻餅をつきそうだ。


「ったく、じゃあもういいから動くなよ!」


 楓が動けなくなったことを察したのか、そう言うとシリルは剣を抜き、熊に向かって行く。大きくジャンプをして熊の首を一気に切り裂く。

 すると熊は断末魔のような叫び声を上げてスゥッと姿を消した。


「おい、生きてるか?」


 放心状態の楓に声をかける。


「はっ!う、うん」


 先ほどの出来事を全部見てはいたもののうまく整理ができないでいる。


「何ででかくなったの?」


 誰に問うでもない、独り言のように呟く。


「そういう魔物なんだよ」


「あんなに可愛かったのに・・・」


「見た目だけで判断するな。そもそも魔物がいるところであんな小さなヤツが生きているわけがないだろう」


「ごもっとも・・・でも何で消えちゃったの?」


「お前はゲームで倒したモンスターが死骸になってぶっ倒れているところを見たことがあるのか?」


 楓はRPGのゲームを思い出す。いわれてみれば・・・ないな。敵は大体消滅する。


「そんなところまでこの世界は忠実なの?」


「当たり前だ」


 なんだかもう、すごいを通り越してあきれる細かさだなと楓は思う。

 だがその反面、死骸等というグロテスクなものを見なくてホッとしている。

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