第一話 妖精
穏やかな日の光に照らされている川沿いを本を片手に歩く一人の少女。
田舎町なので車はあまり通らないため本を読みながらでも安心して歩ける。
星原楓は高校二年生の少女。
まあまあの高校に通い、まあまあの成績を納めている。見た目も平凡。これといった取り柄もない。強いて言うならば本を読むのが早いということだろうか。
楓が今読んでいる本はファンタジーな物語。オタクと言われようがなんと言われようが楓はファンタジーが好きなのだ。そのせいか、妄想癖が少し(?)ある。
楓が今読んでいる物語の主人公は不慮な事故で異世界に行ってしまったのだがそこで活躍し、やがて伝説の勇者になるという物語。THEファンタジーといった感じだ。
正直言って憧れる。こんな風になりたいかどうかは別として取り敢えず憧れる。
だが少しはこんな風になってみてもいいのではと最近思うようになってきた。
楓は本を読みながら川原の草原に腰を下ろす。
「暇・・・」
本から顔を上げてポツリと呟く。
やっぱりこんな生活は退屈だ。一回、ほんの一瞬でいいから何か非現実的なことが起こってくれないだろうか。
「暇だなぁ・・・」
楓は再び同じことを呟いて寝転ぶ。
頭上を蝶々がヒラヒラと飛んでいく。それも仲良さそうに二匹で。
リア充か!と突っ込みたくなった。
蝶々はヒラヒラと飛んでいき、楓の視界の隅っこに咲いている菜の花に止まる。そこには更に五匹ほどの蝶々が戯れている。
楓はその光景をなにも考えずボーッと眺めている。
平和だなぁ・・・あの蝶々たちは家族かな?蝶々でも暇なのかな?蝶々も・・・ん?えっ?えっ?
ボーッと蝶々を眺めていた楓はあるものを見て飛び起きる。
蝶々の中に一匹だけおかしなものがいる。
楓は何度も目をぱちくりさせる。
それは羽が生えています。
それは手足があります。
それは髪の毛があります。
それは服を着ています。
それは笑っています。
それはとてもとても小さな女の子です。
「妖精・・・?」
楓が呟いた。
いやいや、幻覚を見ているのかもしれない。
きっとそうだ。いつもの妄想がいきすぎただけだわっはっは!!
しかし何度見直してもあれは紛れもない妖精だ。妖精でないにしても蝶々ではない。
すると楓の視線に気がついた妖精がこちらを見て、しかもニコッと笑った。
楓はというと驚きのあまりうまく笑い返すことができず頬がひきつってしまっている。
そして妖精はフワフワと飛び始めた。時々誘うようにこちらを振り返りかがら飛んでいる。
楓は最初は腰が抜けてたてなかったのだが何とか立つことができたので妖精のあとを追うことにした。
どこに飛んでいくのだろう。
そもそもこれは現実なのか。
夢を見ているだけなのではないだろうか。
色々なことを考えながら妖精のあとを追っていると辺りに霧が出てきた。
そして
「うわぁぁぁぁ!!」
どこかで足を滑らせたようだ。体が落ちていく感じがする。
もうだめだ・・・。
そう思ったと同時に楓の意識は途絶えた。