第九話 買い物
シリルが依頼遂行の報告をして報酬を受け取りにいっている間、楓は町の診療所で手当てを受けている。
「えらい腫れとるな~。痛かったやろ」
眼鏡をかけた優しそうなおじいちゃん先生が楓の腫れた足首にゼリーのような謎の緑の物体を塗る。
冷たさに楓は驚いて目を瞑る。
塗り終えると、次は包帯を丁寧に巻いてくれた。
「これで・・・よしっ!一週間ほどは安静にな」
「はい、ありがとうございます」
楓は包帯の巻かれたところを軽く擦り、靴下を履かず、足に差し障りのないようにそっと靴を履く。
「終わったか」
タイミングよくシリルが帰ってきた。
楓の表情が心なしか明るくなる。
「うん、今終わった」
「そうか。先生、ついでに傷薬を少し売ってもらえますか?」
救急箱を片付けている先生にシリルが言う。
「ああ、ええよ。ちょっと待ってや」
先生は救急箱を戸棚の一番下の段にしまうと、少し背伸びをして一番上の段に置いてある壺を取った。
それはさっき楓が足に塗ってもらったのと同じ薬だった。蓋を開けると薬の独特の臭いがした。
先生はその薬を小瓶に少し移し、蓋をしっかり閉める。
「これくらいでええか?」
「ええ、ありがとうございます」
シリルは小瓶を受け取ってお金を渡す。
「さてと、歩けるか」
楓が大丈夫と言い、立ち上がると、先生が薬を片付けながら小声で「無理は禁物」と言った。
シリルはハァっと短くため息をついて、座っている楓を見下ろす。
「えっ・・・何?んぎっ!!」
シリルはいきなり右腕を掴んで自分の首にかけ、そのまま一気に楓を持ち上げた。
その拍子で楓から妙な声が出た。
「ちょ・・・何してんのよ!」
「担いでる」
「それは分かるけど・・・まさか足治るまで担ぐつもり?」
「歩けないんじゃあしょうがないだろう」
そのままシリルは診療所を出た。
「で、でも」
「悪化されたり、治りが遅くなったりされるよりましだ。安心しろ。この仮は一万倍にして返してもらう」
「いちま・・・」
無茶苦茶だ。一体何を返したら一万倍としてみてもらえるのか・・・。
「何をすれば一万倍になる?」
「俺に聞くな」
「だってシリルが言ったんじゃん」
「問えば何でも答えが返ってくると思うな。だからお前はバカなんだ」
ムッとしたが確かにその通りなので何も言い返せない。黙ってシリルに担がれている。
町を歩く人々はそんな二人をジロジロと見ていく。
楓は恥ずかしくなってきた。だが、シリルはお構い無しで、そのまま楓を武具屋に連れていく。
「ここで必要な物を調達する。さっきの報酬、お前の分だ」
そう言って楓に札を十枚渡す。
見たことのない紙幣だった。
「これ、いくら?」
「100000Dだ。それだけあれば必要なものは揃う」
「100000!?」
楓は手にしたことがない金額に驚く。
「自分の体に合ったサイズの鎧、使いやすい武器をきちんと選ぶんだ」
と、言いながらシリルは楓を担いだまま店の中を歩き始めた。
「お前は体つきが細いからそんな重装備な鎧は着れないだろうから・・・こんな感じのがいいんじゃないか?」
と言ってシリルはある鎧の前で足を止めた。
「魔物の毛皮・・・魔力が込められてる・・・サイズ・・・重さ・・・うーむ・・・」
近くにいる楓ですら聞き取りにくいような小さな声でシリルはブツブツと何かを言っている。
「これだな」
「鎧?」
「ああ、値段はちょっと高いが高性能だ。小手もついてる。これにしろ」
「う、うん」
どうせ自分で選んでもどれが良いか、どれが悪いかなんて分からない。選んでもらって内心ホッとしている。
「武器はこれだな。これなら初心者でも扱いやすい」
シリルは鎧の隣にあった剣を楓に手渡す。
「重っ!」
「軽い方だ」
そんなこと言われても重いんですけど・・・。
そんなこんなで買い物終了。
鎧と剣で合計値段は130000D。30000はシリルに借りた。借りがまた一つ増えてしまった。