表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
KANNA  作者: 篠宮 美依
19/30

18話

 静貴と別れ部屋へ戻った栞那は、マックスに食事を与えてから、眠りにつくために服を着替えた。そしてベッドの中へと滑り込むように身を潜ませる。


 夕食は断った。何か気が落ち着かず、食事を取れる気分にはなれなかったのだ。もう今日は撤退したはずなのに、まだその気配が消えてない。栞那自身は関わったことがないが、情報屋とはいえ、時には法を犯すこともあることを、栞那は知っていた。栞那を連れ戻そうとしているのはその人々だろう。彼らが昼間撤退したからと、夜も来ないとは限らないのかもしれない。


 同じように落ち着かない様子で、マックスが不安そうにぐるぐると部屋を回っている。


(伝えるべきだったのかな)


 よく考えれば、そんな容易く彼らを撤退させることなどできやしないのだ。少し違和感を覚えた時点で、静貴に伝えるべきだったのかもしれない。


「ねぇ、マックス。あなたも感じてるでしょ? 静貴の所、行こうか?」


 ふと壁の時計を見ると、時刻は既に10時近く。眠ってはいないだろうが、もう誰もが部屋にいる時間だろう。この時間に訪ねるのは気が引けるが、このまま落ち着かないよりは良い。


 マックスを撫でながら話しかけると、彼は首を傾げた。栞那は黙って扉の方へ足を進める。


 けれど、それは直ぐに止まることになった。マックスが、栞那の行く先を塞ぐように、栞那の周囲をくるくると回り始めたのだ。


「マックス! 行かないの? どうしたの、急に」


 マックスは首を傾げるばかりで、他には何も伝えようとはしていない。けれど栞那が外に出ることだけは、防ごうとする。


(何が言いたいの? ……もしかして、もう外にいるんじゃ……って、そんなわけないか。音もしないし)


 何も聞こえないのだから、近くにはいないだろう。そう思って、栞那はベッドへと戻ろうと、扉を背にした。


 吹くはずのない風が、背中を流れた。


 ふと思い返すと、扉の鍵を閉めた記憶はない。


 油断していた―――そう思ったときには既に遅く、背中には誰かの気配がした。


 この状況下で、ここまで気配を消せる人物を、栞那は一人だけ知っている。かつて自らが使えていた、周囲から主と呼ばれる男。


「迎えに来たよ、栞那」


「女性の誰もが、そんな物語で王子様が言いそうなく台詞ならすぐに頷くと思ったら、それは大きな間違いです」


 いくら太陽の下であれば、誰もが羨み求めるような容姿を兼ね備えていようと。闇に身を置く彼の瞳は、一時を除いて、常に冷めているのだ。彼は栞那以外の者に対しては等しく冷めた瞳をしている。


 その意味を、栞那は深く考えたことがなかった。ただ自分は彼に気に入られているからだと、曖昧な認識しかしていなかった栞那に、それを木塚させたのは、静貴だった。


 それまで栞那は、あまり他人と関わったことがなかったのだ。だから、気に入った相手と態度が違うのは、ごく当たり前のことだと思っていた。


 いや、今でもそれは、決して間違いでないことは分かっている。けれど他人のそれと、この男のそれは、少し異なる意味だと、気づいてしまった。彼が自分に仕事をさせたがらなかった、その理由も。


「君に仕事をさせるのは間違いだと、改めて思ったよ。まさか君が大人しく、敵に身を預けるとはね」


「あなたが嘘つきだからです。もうあなたの元へは帰りません。闇には関わりたくない」


「嘘つき、ね。栞那、君は知っているのかい? 僕の母がなぜ、命を落としたのかを。彼はそこまでは、教えてくれなかったのではないかい?」


「それは、任務に失敗して」


 主であった男は、急に笑い声を上げる。栞那は背筋が凍るように冷えていくのを感じていた。


「違うさ。母は騙されたんだ。あの男に―――東條義貴とうじょうよしたかにね」


 それは、静貴の父であり、この屋敷の主である人物の名だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ