感情>身体~hinaside~
「…行って来ます。」
誰もいない空間に虚しく自分の声が響いた。
剣道の県大会。出場することは親には言ってない。言って旅行中に帰って来るような迷惑かけたくないし、逆に言っても旅行を優先されると悲しいから。
相変わらず私は弱い。
けど、…剣道をやってるときはそんな弱さを忘れられる。
拳を握りしめ、気合いを入れた陽菜は会場に向けて歩き出した。
「めぇんっ!!」
「面あり、一本!!」
初戦は一本勝ちだった。
「はぁはぁ…はぁはぁ…」
どうしてか、いつも以上に疲れを感じていた。試合時間を見ると一回戦は20分と消費していない。
とりあえず息を調える。
「…大丈夫か?」
「はや…て…はぁはぁ…大っ丈…夫…はぁはぁ…」
「そんなに経ってねーのに珍しいな。体調わるいんじゃね?」
「んなこと…」
「二回戦、赤!明導神館、月成陽菜! 白!界堂館、猶金来夢!前へ!!」
「ごめん、行ってくる。心配ありがと。ごほっ…」
「………。」
ヤバい。目眩がするし、頭痛も半端ない。
けど…けどここで止めたら皆に迷惑がかかる。それに…颯もいるのに。
ふらつく足に力を入れ、つま先と指先に気合いを込める。
動け…!
「面あり、一本!!」
あれ…?おかしいな、…竹刀振ってないのに。負けた…?
自分を嘲笑うような笑みが口元にうまれた。
やっぱり私は弱いじゃない…。
「陽菜っ…!!」
ごめんね…颯…せっかく来てくれたのに…こんな。
最後に颯の叫び声を耳にし私は意識を手放した。