我慢>悲しみ~hayateside~
3限目の終わりを告げるチャイムがなる。颯は勉強道具を片付けもせずに、その席の方を見る。颯の見た席に座る陽菜は、黒板の方をじっと見ながら、なにやら呟いている。そちらに近づくと、陽菜は「平和だなぁ」と呟いていた。「とんだアホ面のおばあさんだな」言ってから颯はしまった、という顔をした。颯にはよくこういう、思った事をすぐに口に出してしまうクセがあった。おそるおそる陽菜を見ると、なぜか最高の笑顔でこちらを向いていた。そして、少し大きめの声で、「その喧嘩、かってやろうじゃないの!」と言い放った。どうやら俺が喧嘩を吹っかけたように聞こえたらしい、誤解を解かねば。「うってねーし!」「おっ夫婦喧嘩が始まったぞ!」野次馬が飛んで来たので顔だけをそちらの方へ向け、瞬時に、「夫婦じゃねーし!」と叫び、元に戻る。「颯のやつ照れてんじゃね?」もういっちょ、「照れてねーよ!」もう、本当に野次馬というものが世界から消えればいいのに...
「あ、颯、今日行っていい?」と、陽菜。「あ、うん、別にいいけど...なんで?またおばさん達いないの?」「あー...うん」と、ちょっと苦い顔で返事して来た。当たった、俺の勘。どうでもいいときに働きやがって。
俺はよく家に陽菜を泊める。
なぜだか、陽菜が家に来たがるのだ。陽菜の両親がよく旅行に出ると聞いたことがあるのだが、なぜだかは知らない。旅行好きなら陽菜も連れてけばいいのに。
習い事の剣道が終わった陽菜を家に呼び、飯をいっしょに食べて、俺の部屋で駄弁る。陽菜が泊まりに来る時はいつもこんな感じだ。
「試合?」
「うん、剣道の」
「ふーん」
飯が足らなかったのか小腹が空いたので、お菓子が入った箱をあさる。しまった、昨日板チョコ食っちまった。また母さんに言って買ってもらうか。
「...」
「...何?」陽菜が黙るので聞いてみる。少し口が悪かったかも。「........別に?」
「来てほしいなら普通に「来て」っていえば?」
まただ。思った事を口に出す癖。これは早急に直さなければいけないな。直さないけど。
陽菜は、そんな事言ってないし、とすねてしまった。
「ごほ...ごほっ...ごほっ...」
陽菜が咳き込む。体が弱いらしく、少し咳をする事が多い。
「大丈夫?」と颯が心配すると、「うんっ...ごほっ....大丈...夫!」と、笑ってみせたが、全然大丈夫じゃなさそうだ。そういえば陽菜は最近無理をしている気がする。試合が近いのはわかるけど、もうちょっと体に気を遣ってほしいと思った。