今<昔 ~hayateside~
暑い。テレビの天気予報では最高気温が30度を越しているとか言っていた気がする。凄く暑いって意味だと思う。
田舎町のここでは、俺の隣でセミに負けないぐらいの大きな泣き声が響き渡っていた。
「うわぁぁぁん!」
やれやれ。また泣かれてしまった。
「おいひな!泣くんじゃねえ!」
いつもと同じ感じでひなという少女を怒鳴る。
「はやて...うぐっ」
目の前の少女は、俺の目を見ながら必死に涙をこらえた。
「よし、これからは俺様がまもってやるから泣きそうになったら俺様の所に来い!」
なぜ、こんな言葉がいきなり出たのかはわからなかった。
それに、なんだか顔が熱い。夏の日差しのせいではないだろう。もしかしたら、顔が赤いのが見られているかも。
「うんっ!!」
ちょっと恥ずかしくなった俺をよそに、少女は元気な返事を、これまたセミに負けない声で叫ぶのだった。
ふと我に帰る。
「って時もあったりしたよなぁ・・・」
「はぁ!?」
どうやら俺の思い出ふけりは話し相手、月成陽菜には届いてなかったらしい。
「なんだよ急に...」
陽菜は、俺、美作颯に妙な視線を送る。そして、次にこう続けるのだった。
「颯、背はおっきくなったけど力私とあんまり変わんないし、昔みたいに『お前のこと護ってやる!』なんて言えないよね、と思っただけ」
いきなり何を言うかこの少女は。
「............なんだよそれ。大体さ、お前を護る必要がいったいどこにあるんだよ」
俺も、同じように自分より少し背の小さい、しかし長年の武道で鍛えた体持ちの陽菜を見下ろす。
「ま、それもそうだよね...」
おい、いまちょっと笑っただろ。
陽菜は、県の柔道の大会の中学生の部で2年生にして優勝。空手も県準優勝というものすごい功績をもったやつだ。
前にうちのクラスの男子と腕相撲かなんかをやっているのを見クラスの男子と相撲かなんかをやっているのを見たが、男子同士でやっているように見えて、改めて陽菜の強さを実感した。
「おっはよ~!ご両人!」
「おぉ、まー。おはよー」
この、陽菜が「まー」と呼んだ人物は、陽菜の親友である忽那眞望である。朝からわざわざ走ってくるとはご苦労なことだ。さすが陸上部部長…といったところか。
その後ろから別の人影が。
「おはよう、陽菜!」
「おはよう~彩耶」彩耶と呼ばれたのは、帯包彩耶。こちらも陽菜の親友だ。
と、遠くから別の声が。
「颯ー、学校行くぞー」
「おー、今行く~」
タッタッタッタ。20mほど道路の先にいた2人のところまで、走って追いつく。
「おっす、おはー」と、俺。
「おはよう」
こいつが、笹倉翔也。こちらは俺の親友だ。俺の所属するテニス部の部長。
「ん、おは」
こっちが簗瀬楓汰。
「おまえ、もう疲れてんのかよ~。相変わらず運動できないな」
「はぁ、はぁ、うるせえよ、ほっとけ」
...憎まれ口を叩くのが得意だ。
こうして俺達は、3人で毎日学校まで同じ道を歩くのだ。
これが、俺達のいつもの光景だ。