今<昔 ~hinaside~
夏の暑い日照りの中、とある田舎町には一人の少女の泣き叫ぶ声が響き渡っていた。
「うわぁぁぁん!!」
「おい!ひな!!泣くんじゃねぇ!」
「はやて…うぐっ」
少女は少年の姿を見て涙をぐっとこらえた。
「よし、これからは俺様がまもってやるから泣きそうになったら俺様の所に来い!」
生意気な口調のその少年の言葉が、当時の少女にとってはとてつもなく心強かったのだった。
「うんっ!!」
「なーんて時もあったなぁ…って」
「はぁ!?」
月成陽菜が幼なじみである美作颯に溜め息混じりに話したのは幼い頃の昔話だった。
「なんだよ、、急に…」
陽菜は隣で怪訝な顔をしている颯を見上げながら言った。
「颯、背はおっきくなったけど力私とあんまり変わんないし、昔みたいに『護ってやる』なんて言えないよね、と思っただけ」
「…………なんだよ、それ…。大体お前を護る必要なんてどこにあんだよ」
颯もまた、隣の少し自分より背こそ小さいものの長年武道で鍛え続けた身体をもつ陽菜を見下ろす。
「……それもそうか…。」
柔道の中学生大会で優勝。空手の中学生大会で準優勝。男と勝負しようと負けず劣らずな少女を誰が護ろうと等思うものか。
なんて納得してしまうのが悔しいところだが事実そうなのだから仕方ない…。
「おっはよ~!!ご両人!!」
「あ、まー!おはよ!!」
まー、とは陽菜の親友である忽那眞望の呼び名である。
「おはよう、陽菜!」
「おはよう~彩耶」
彩耶は本名、帯包彩耶。彩耶も陽菜の親友の一人だ。
気付くと隣にいた颯は数歩先で笹倉翔也と簗瀬楓汰の二人に挟まれ校舎へと入っていった。
いつもの光景だ。