幸服な未来 「 」
銀色に煌めく厳かな姿形をした教会。そこにはいくつもの歴史が刻まれている。その玉虫色な顔は人には喜びにも悲しみにも怒りにも見えるだろう。だが、今日という日ほど教会にとって人類にとって衣服にとって印象深い日はなく、そしてその日だけは誰もが写し鏡のようにこの場所が暖かな笑顔に見えたであろう。
「汝は、この女を妻とし、良き時も悪き時も、富める時も貧しき時も、病める時も健やかなる時も、共に歩み、他の者に依らず、死が二人を分かつまで、愛を誓い、妻を想い、妻のみに添うことを、神聖なる婚姻の契約のもとに、誓いますか?」
「誓います」
Not-PAICの漆黒のモーニングコートに身を包んだ男は神父に言葉に対してはっきりと宣言した。そのあまりにも調子の強い物言いは教会をびりびりと震わせる。
「汝は、この男を夫とし、良き時も悪き時も、富める時も貧しき時も、病める時も健やかなる時も、共に歩み、他の者に依らず、死が二人を分かつまで、愛を誓い、夫を想い、夫のみに添うことを、神聖なる婚姻の契約のもとに、誓いますか?」
「誓い…ます」
従来以上に有機物質を用いて精巧につくられた純白の肌、日差しのような金色の髪を持った【アンドロイド】を着ている女は少し恥ずかしげに俯き、布地を赤らめながら静かに答えた。
神父に夫婦の認証を得た彼らは多くの人々が見守る中で〝顔〟を近づける。
「愛しているよ銀子…いつまでも」
「バカ…どうせ嘘よ」彼女は照れ隠しに反抗する。
「本当さ…」
男は自身の唇を、ドレスの胸元…つまり彼女の唇に合わせる。
その甘さは何者にも変えられないと言えた。
その瞬間、傍観していた人間と衣服は互いに見合いこの時を喜び合った。
さて、あなたはどう思うだろうか?
「これからの彼らの生活、性交渉は?子供はどうするのさ?」と思うだろうか?
そんな考えは実にくだらないのである。
人は、衣服は、そんなものを考えて恋に落ちるのだろうか?
恋愛とはそんなにも多くの条件が必要なのだろうか?
違うはずだ、トートロジーであるが我々は恋をするから恋をするのだ。
そこには何の意味も条件も理由も介入してはならない。
それこそが本当の恋愛と言えるのではないだろうか。
「……………」
【自分】の下で繰り広げられる恋愛劇を【彼女】は使われなかった唇の空気を触れる味を感じながら見下すように眺めていた。【彼女】は本来抜け殻であり思考能力なんて存在していなかった。しかし【彼女】はおよそ自分の中に湧き上がる黒い感情を抑えることは出来ない。
恋愛とは自由で先が読めないものだ。
そして恋愛は“誰しも”が自由にしていいものだ。
…もちろん【彼女】も。
だから幸せな彼らと【彼女】がこの先どうなるかは、
まだ…、誰にも分からない。
【あとがき】
最終話でした。いや、いろいろとありましたね。
恋愛とはよく言われますが誰しもが自由なのです。だからこの後にどうなるかはあなたのご想像次第と言うことで。
…ですが、実はこの30分後に蛇足の1話が始まります。
もう一回言いますが蛇足です。見たければどうぞというレベルです。




