episode17 【体育館】 本当に大切なこと! (上)
体育館にまばらに散り散りになっている女子生徒達の様子だけで、球技大会練習への関心がそれほどまでに情熱的でないことは見て取れる。
新入生歓迎行事である球技大会は、上級生と新入生との交流会という名目はあるものの、スポーツ特待生のBクラスの勝利がほぼ確定している以上、その他のクラスにやる気を出せというものが土台無理な話だ。
しかも――
「あ・ら・ら? 智恵理、いつも一緒の忍ちゃんはどうしたの?」
球技大会トーナメントを一回戦すら勝ち残る可能性がないに等しい、勉強にしか興味のなさそうなAクラスと問題児ばかりで協調性ゼロのDクラスの合同体育。練習に対する熱のなさだけは、他クラスと比較して群を抜いている。
「まだ着替え中だよっ。もうすぐ来ると思うけどねっ!」
肘あたりまでしかない袖の体育着は、綾城さんの健康的な肌を露わにする。ただ、健全なはずの体育着は深い谷間と並び立つ二つの高い山によって、目のやり場に困る至高の服に昇華している。
「ふぅん。珍しいのね、あなた達が一緒にいないのって。喧嘩でもしたの?」
「ううんっ、ただ単に着替え時間がずれただけだよ」
あっ、ほら、と着替えの済んだ忍が歩いてきたのが見えたので声を上げる。
「それじゃあ、私も退散するとするわね」
「え? まだ先生も来てないんだし、もう少し話してもいいんじゃないの?」
「ううん、やめとく。本気で生きている女の子の涙は見たくないもの。私のターゲットは、いざとなったら後腐れなく別れられる適当に生きている人間だけだから」
「本気で生きている……? 誰のことなのっ?」
「さあね。多分それは、私みたいに人生を諦め切った人間の口からは言ったらダメなことなのよ。それに……本当に大切なことは自分の力で見つけるからこそ、価値もあれば意味もあるのよ」
じゃあまたね、と手を振る綾城さんの顔はいつも通りだったけど、心なしか言葉尻が弱々しかった。