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episode16 【教室】 龍虎相打つ! (下)



 華奢で細長い忍の足の間に足を割り込ませて、両足で彼女の片足に挟み込むようにして寄り添う。正面で向かい合うような大勢になり、スカートが捲くられながらも、ぴたりと触れ合っている肌が、互いを求め惹かれあうようにくっつく。

 微かに潤んでいる瞳に、ほのかに赤みのある頬。矯正のような声が出そうになりながらも、必死で我慢している姿を見ているともっと意地悪したくなる。

「智恵理にとって忍は、智恵理だけのメイドなんだけどな。もしかして、違った?」

「そ、そんなことっ!」

 即座に首を捻って訂正しようとした忍の耳に、短めく勢いのある吐息を吐く。きゃあ! と声を響かせながら体をビクつかせ、とうとう悄然としたように下を向いてしまう。走り込んだあとのように肩で息をする姿を見て、やり過ぎてしまったと少しばかり後悔する。

「忍がメイドであるってことは、クラスの誰にも言いたくないな。だって、これは二人だけの秘密でしょ?」

「……二人だけの?」

「……そう。二人だけの」

 どうにかしてこの危機的状況を収めようとした結果、余計なことをベラベラと言ってしまった気がしたけど、ゆっくりと向けられた彼女の表情でその考えは完全に打ち消された。

「はいっ」

 胡乱としたような表情でありながら、はにかむような笑顔ははっきりとしていた。智恵理にしか聞こえないぐらいのか細い声ながら、その心にこもった声は体全体を揺さぶった。誇らしさと、愛慕と、嬉しさが混じりあったような表情に射抜かれ、静止していると、

「あ、あなたたち、このわたくしを無視しないでいただけます!?」

 常磐城さんがこめかみをヒクつかせながら、ふんぞり返るように両腕を組んでいた。

 ……完全に存在を忘れていた。

「すいません、常磐城さん。智恵理様と大事な話をしていたので、すっかりあなたのことを忘れていました」

「ひとの会話の途中に遮って、挙句忘れていましたですって? このわたくしを、常磐城の家の人間を侮辱するその度胸だけは認めますわ」

 ……ごめんなさい、会話を遮ったのは智恵理です。そして、智恵理も常磐城さんのことをすっかり頭の隅に押し出していました。

 とは言い出しづらい、険のある常磐城さんの面構え。智恵理の前に出て、そんな鬼のような彼女から身を守ってくれるように忍は立ちはだかってくれた。

「申し訳ありません。お詫びにさきほどの質問に誠心誠意を持ってお答えしましょう」

 言い訳など微塵も告げず、素直に謝罪し、堂に入った立ち姿。背中からも伝わってくる自信に満ちあふれた彼女に、智恵理は全幅の信頼を預ける。

 そして、


「私と智恵理様は、一般に友達と呼べる関係を遥かに超越した関係です」 

 

 クラスは凍りついた。

 氷が溶けるように頭の中で彼女の言葉が浸透しだすと、なぜかみんな嬉しそうな悲鳴を上げる。

 呆然と立ちすくす智恵理を置いてきぼりにして、状況は刻々と悪い方向に進んでいる。

「な、どういうことですの?」

「どういうこともなにも、私と智恵理様は主従の関係です」

 狼狽する常磐城さんに、事もなげに言い放つ忍の声音はもう幸せに満ち満ちている。それは、自分の誇りを語れたのだからそうなのだろうけど、こっちはそうもいかない。

 たしかにメイドや忍者という単語は一つも出していないけれど、それじゃあ言ってしまっているのとほとんど大差ないよねっ。

 状況整理ができないまま途方に立ち尽くし、忍と常磐城さんがなにやら言い争っているのを他人事のように聞いていると、天の助けである担任教師が来て、全てはうやむやになった。


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