episode15 【教室】 龍虎相打つ! (中)
「忍と申します。お会いになるのは初めてでしたね」
「ふん。あなたの名前なんて興味はありません。わたくしが問うたのは、あなたが何者であるかというただ一点ですわ」
「そんなに聞きたいのなら教えて差し上げます。私はメイ――」
「ちょっ――と、待っててね、常磐城さん」
ぐいと忍の腕を引っ張って教室の隅に追い詰めると、常磐城さんに聞こえないように小声で囁く。
「メイド流ってことは、言わないでおこうね」
……ん、と眼前の彼女は言いよどむ。
「どうしてですか? 私は智恵理様の下にお仕えすることを生きがいとしています。他人に自分の誇りを宣言するという行為に、恥じらうという感情は一切ありません」
……ごめん。智恵理にとっては羞恥プレイ以外のなにものでもありません。
とカミングアウトするわけにはいかないので、どうにかそれらしいとっさの言い訳で言いくるめるしかない。
「とにかく言わないで欲しいな。常磐城さんに限らず、このクラスの誰にもそのことを言わないで欲しい」
「そういうわけにはいきません。あの方が私の素性を聞いてきたのです。彼女の真摯な問いかけに、真っ向から答えて差し上げなければ無作法です」
初志貫徹に自分の信念を貫き通す。
それは忍の長所であり、悪い見方をすれば頭でっかちのわからず屋ともいえる。悪い癖であるこの頑固さを逆手にとるしかない。
「忍にとって、智恵理はどんな存在なの?」
傍らにいる智恵理に更なる密着を試み、そして彼女の形の良い耳にくっつきそうなぐらいに唇を近づける。生暖かい吐息が耳の穴をくすぐったせいか、ひゃあ! と可愛い悲鳴を小さく上げて壁際に飛び去る。
「は、はいっ……? それって、どういう……?」
メイドとして律していた表情が崩れ、怯えた小動物のように教室の角に背中を預ける忍を見ていて、感じるものがある。綾城さんにやられたように、逃げられないように片方の手で頭を固定する。そして今度こそ忍が逃げないよう、妙な吐息がでないよう気をつけながら小声で伝える。
主人公Sですねwww